円山。

木田りも

最終話。

小説。 円山。

________________________


円山に来た時、あの頃を思い出した。

今思うと、ほんとに夢のような時間だった。


________________________


これで最後。君を思い出すことも、君をこんな風に書くのも。大事に。しっかり。


戻りたい過去がある。未だに強がりを言ってあの頃よりも良くなろうとしている。比べてしまうのはきっとまだ、どうしようもないあの頃になってしまう。どうしようもなく上手くいかなくて、歯車が狂っていたとしても、また戻りたくなるような。というよりも、懐かしみたい。懐かしむだけでいい。何もかも失っていい。そんな思いが詰まっている場所だ。


人は感情を背負って生きている。希望、喜び、悲しみ、怒り、嫉妬、羨望、妬み。僕はたぶん嫉妬と羨望が強い。ポジティブにもネガティブにも人に憧れる。自分じゃないもの、自分にないもの。手に入れたいし、欲しいし、自分が所有したい。そんなエゴが自分を突き動かし、他人になろうとしている。でもきっとそれはたぶん永遠に叶わないものであり、また自分が持っているものもきっとオリジナルなのだ。だから、安心していいのだろう。演劇をやっているのはせめてもの抵抗だし、出会った場所が演劇なのも、きっとうんめいなのだろう。


新たな光を浴びたような気がした。人との出会いは新たな可能性を生むが、その人は自分の中にまるでもう一つ自分が生まれるような。今までの自分を捨ててでも、その人に陶酔するような、そんな匂いがした。古い体を一新した僕はそんな匂いに誘われて、何度も何度もきっかけを作った。きっとそれは、格好悪くも映った悪あがきではあったと思うがその人の心を動かすことが出来たのだと思う。不器用にぶつけることで成就することもある。似て非なるものではあるが、人生の先駆者たちが作った言葉や、人生観が本当に存在することを実感した。人は、案外捨てたものじゃない。この世界のどこかには、あなたの心を癒してくれる人は存在することを知った。


(その時僕は、運命というものまで信じてしまっていた。のちにそれは、現時点ではまだ早熟だったことが判明するが、きっとそれすらも、人生に彩りを与えた時間だと思う。)


街がこんなにも美しかったこと。自分にとってまだ知らない世界がいくつもあったこと。行き慣れた場所が、こんなにも表情を変えることなど、とてもいろいろな経験をさせてもらった。美味しいものはより一層美味しく感じられて、楽しいという感情が二乗する。

思いはいつも後から実感するというが、その一瞬がすべてかけがえのないもので、今まで生きてきて時間は不可逆なものだと知り尽くしたのにも関わらず、時間が止まらないかと本当に考えてしまったほどだ。


辿り着いた時に、終わりを迎えてしまう。そう考えるとしたら少し特殊だったかもしれない。最後の地下鉄が過ぎ去ってゆく。長い時間、座っていた。クリスマスソングが聞こえてくるほんの少し前。もうすぐ終わる物語が寂しくて、進めるのを止めていた本。読まなければ物語は終わらないと思っていたけれど、起きている状態と気持ちはどんどんずれていく。ズレはひずみになって、ひずみが重くなって、埃がたまる。そんな当たり前のことを認められなかったのだ。


ひずみを抑えようと何度も何度も抗った。蛇足を繰り返し、人の気持ちを無視して、きっかけを作った。作っているつもりだった。上手くいってる時に上手くいくことは、上手くいってない時には上手くいかないのだ。どんどん離れていく君。何もできない僕。


そして、リセットしようとした。ズレを全て取り壊し、また1から山を作りたかった。再起を図る上で落とせないポイントだったが、時期尚早。時期尚早。というより、僕ではなかったのだ。たぶん他の誰でもないし、僕でもなかったのだ。


悲しかった。暗黒の時代が訪れる。思い出が僕の後ろ髪を引いて離してくれない。離すには自分が手を出さなければならないし、離れたい気持ちがいくらあっても切れなかった。切ることが出来なくて、消そうとした。人生は消えない。人は死なない。消えない。終わらない。終われない。つらい。逃げたい。どこに逃げればいいかわからない。死にたくない。安心したい。逃げた。逃げてみた。それはそれで、世界から置いてかれてる気がする。置いて、老いて、かれて、枯れて。過去の栄光が僕に微笑んでくる。まるでそれは僕じゃないみたいに。


本当に終わりだと思った。時間すらも解決してくれない問題も存在するのだと思った。僕はなにか触れてはいけないものに触れてしまったのか。世界が溢れてくる。情報も思想も。戦争が始まった。争いだ。憎しみだ。

報復だ。逆恨みだ。人殺し!!!!!


感情を吐き出して吐き出して、吐いて吐いて気持ち悪くなった。全力で歌って、全力で叫んで、全力で体を動かして、どこか、自己満足した。それがなんだかとても充実していた。忘れる作業だ。忘れていき、良いことをどんどん吸収していく作業。それでなにかみんなで合唱をした後のような達成感を感じた。合ってるかはわからない!正解かなんてわからない!!だから、これでいい。


クタクタになって、落ち着いた。その後、少しだけ寝た。何か夢を見た。落ち着いた世界だった。起きた時、何も状況は変わってないけど、スッキリした。何故だろう。本当に今でもわからない。分からなくても、良いかもしれない。分かってしまうのも、もったいない。その時あたりだった気がする。人生が落ち着くことに対してポジティブに考えられるようになったのは。でもやっぱり君のおかげなんだ。生き方を教えてもらった。固定観念を取り壊した。たぶんあれからほんの少し人に優しくなれた気がする。


なんだか思い出してしまったり挫けてしまったり、唐突に泣いたりする日もあるけれど、合算して、なんだかんだ考えたらまあまあ元気です。そして、これで最後にします。時間の早さを実感して、それに頼ったり、映画や演劇を見て、心が潤う体験を良くしています。そちらはどうですか。元気に健康で生きていてくださいね。そして、また会えたら笑顔を見せてください。それできっと十分なんです。最高な時間でした。ありがとう。さようなら。


歩むべき道を見つけて、歩き始めた。きっとそれはこれからの僕を決める一歩。自分のことは自分で決めようと思う。それが、僕自身のためになる。気がする。


________________________


僕は、あれから2回円山に来ている。

1回目は君を照らした羨望の眼差しで、

2回目は、次に進むための希望の眼差しで。

羨望から希望へ。人生は続く。





おわり。



後書き。

 吹っ切れたような気がした。

特に何があったわけではないし、解決したわけでもないが、吹っ切れたのだ。時間が解決するというが、きっとそういうものだろうと思う。そして、これからを生きてみたくなった。自然の流れというか、風に身を任せるというような。風というものを意識した。常に世界が変わり続けていることは当たり前なのである。だから今回で終わりにしようと思う。僕はある時から君(元カノ)に対して小説を書くようになった。別れた後もその書き方を変えていられなかった。根本にはいつも君がいてしまっていて抜け出せていないと思うのだ。だから、心もだいぶ落ち着いてきた今、そこから吹っ切れてみようと思う。新しい風に乗って、また新しく創作できたらと思います。


と言いつつ、まだまだ君が出てくるかもしれません。その時は温かく見守ってください。


読んで頂いた皆様に感謝します。

少し早いですが今年もありがとうございました。来年もどうぞよろしく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

円山。 木田りも @kidarimo777

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ