第4話:オラのせいですか?


 ギルドの受付嬢、乃木坂さんからの依頼で、最近湖に出現するモンスターの討伐に向かいました。


 田舎から出て来たばかりで右も左もわからなくて、そんなオラに仕事を斡旋してくれた“”には感謝してもしきれないっス。


 オラの他に三人のメンバーがいて、戦士と魔術師と回復役。今一つ力不足感があったので、オラが“身体を張って死人を出さない様にしなければ”と気を引き締めました。

 


 ――精霊が宿ると言われている湖のほとりです。こんな場所で暴れたら、精霊さん達の怒りを買わないか心配っス。


 現地に着いた直後からモンスターの気配がビンビン伝わってきます。三人は全く気が付いていない様子。


 そのモンスターはマンドラゴラの亜種でした。見た目には区別がつきにくいのですが、頭の上に生えている花の種類で判断出来るっス。


 これはコリガンと呼ばれる上位種で、一般的なマンドラゴラよりスピードもパワーも数十倍と言われる超レア種です。


 目が合った瞬間、ものすごいスピードで“種”を飛ばしてきます。これが身体に当たって食い込むと、やがてそこから芽が出て生きたまま植物化してしまう恐ろしい技っス。


 オラは必死でこん棒を振り回し、三人に当たらない様にしました。


 コリガンは種の攻撃が無駄だと悟ったのでしょうか、叫び声スクリームを仕掛けてきました。これもまた通常種とは段違いの精神攻撃で、気を抜くとそのまま廃人になりそうです。


 魔法は得意ではないのですが、マジックバリアを張って仲間を守りました。コリガンも生き物です、叫び声スクリームも息切れがしてやがて止まります。


 オラはその隙を狙って大地強振アース・クラッシャーを使い、コリガンの足元を振動させ動きを止めました。


 直後戦士さんが突っ込んで、無事討伐成功っス。うまく連携が取れました。しかし流石に体力も精神も限界に近く、その場に座り込んでしまったっス……。



「あ、お前クビ。いらね」


 突然言われてしまいました。イライラした嫌な感じのヒーラーさんが、オラのこん棒を湖に投げ捨てて、三人ともさっさと帰っていってしまいました。


 ……オラ何か失敗したのでしょうか?


 呆然としたまま時間が過ぎ、陽が傾き始めた頃です。突然湖の底から光が立ち上がり、中からえらいべっぴんさんが出てきました。これが精霊さんでしょうか。


「あなたが落としたのは、金のこん棒ですか? それとも銀のこん棒ですか?」


 挨拶も何もなしにいきなり質問されました。もう何が何だか分かりません。ですが質問には答えないとならないっス。


「いえ、金でも銀でもない普通のこん棒っス」

「正直ですね。ではあなたには金銀普通全てのこん棒を差し上げましょう」


 そういって精霊さんは三本のこん棒をオラの目の前に置きました。しかし……


「いや、これ違うっス。普通のこん棒でもオラのはもっと粗末なこん棒で、こんなウォールナット製の高級こん棒ではないっス」


「……感服しました。よろしい、あなたには金銀普通粗末に加え、この精霊界のこん棒を与えましょう」


 そういって精霊さんは消えていき、手元には五本のこん棒が残りました。こんなに沢山あっても仕方ないので、換金して田舎の両親にでも送ろうと思い、鑑定に出しました。


 しかしその翌日、オラは王宮に召喚されてしまったっス。


 ……オラ、やったのですか?


 王様の前に連れていかれました。真っ赤な長いカーペットの横に、何百人もの人が並んでオラを凝視しています。


「そこの者、このこん棒をどこで手に入れた?」

「あ、湖の精霊さんから貰ったものっス」


 その時、居並ぶ人々から驚きの声が上がりました。


「やはりそうであったか。これは湖の精霊が真に信頼した者にのみ与えるという精霊界のアイテムじゃ」

「そういえば、そんな名前だったっス」


 王様の横に立っていたチョビヒゲが、なにやら古い本を開きながらしゃべり始めました。


「王よ、精霊から信を得た者が現れたのは、実に400年ぶりです」

「ふむ、何ともめでたい話よ。……そこの者」

「オラ、ドンキーいいます」

「ドンキーよ、お主を王国騎士団団長に任命いたす!」


 ……オラ、やったのですか?

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