第5話:誰の為でしょうねぇ。


 最近やたらと王国騎士団の噂が聞こえてくる。街中を歩いていても、酒を飲んでいても、だ。


「今度の騎士団長は精霊様に認められた人格者ですってよ」

「お給金を全部故郷に送っているとか聞きましたわ」

「いいわねぇ。うちもそんな息子欲しいわ」


 何とも景気のイイ話だが、俺には全く関係が無い。そんな“見ず知らずの人”の噂なんかより、今日も俺は、乃木坂ちゃんと甘い時間を過ごすのに忙しい。


「キュア夫さん、仕事しないでいいの?」

 つまみに頼んだスティックチーズに『チュッ』とキスをしてから俺の口に運んでくれる。


「いいのいいの。俺は乃木坂ちゃんとこうしている方が大事なの」

「でもさ、最近酒代ツケにしているじゃない」

「大丈夫~デカい仕事一つすれば三十倍にして払いますよ。っと」

「でもねぇ。私がギルマスに怒られちゃうの。ねえキュア夫さん、私の為に働いてよ」


 そこまで言われて何もしないのは男がすたる。よしわかった。なんでも仕事持ってこいってんだ!


「それで、何か依頼あるのか?」

「丁度いいのあるわよ。王国案件!」

「マジか……」


 王国からの依頼なんて、余程ランクの高い冒険者にしか回ってこない話だ。俺もそこまで名が売れたのか!


「こちら、元・王国騎士団長の内藤さん」

「え……元? それって……」

 俺の言葉を遮り、耳元で乃木坂ちゃんが吐息を吹きかけながら言う。

「お・ね・が・い・ね」

 

「任せろ!」


 話を聞いてみるとこの内藤さんは、本人に落ち度が全くないのに騎士団長からヒラ騎士に格下げされたらしい。精霊に認められたかどうか知らないけど、ぽっと出の奴に地位を奪われたらムカつくよな。


「このままでは死ぬに死ねませぬ。なんとしてもあの男国王に一矢報いたいのです」


 何とも物騒な話だ。というかこんな話が漏れたらこの場にいるだけで斬首ものじゃないか。

「流石に無理で……」

 カウンターの中から乃木坂ちゃんが、俺にウィンクしながら投げキッスをしてきた。


「うむ、任せろ!」

 だからまたいつものキスマーク付き弁当よろしく! ……チュッチュしてるのは内緒。


 ちなみに内藤さんが考えてきた報復案は、近々行われる新団長任命式で“国王と新団長に恥をかかせる”という内容だ。つか、こんな程度で満足なんか?


「本懐です!」


 ……という事らしいので、まあ、サクッとやりますか。



 

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