第3話:はいはい。追放、追放っと。


「乃木坂ちゃ~ん、どこかにいない?」

「キュア夫さん、もう何人も紹介してるじゃないですか~」

「でもさ、みんなダメダメなんだよ。もうクビ、首、KUBI~!」


 今日は特にすることがなかったから、冒険者ギルド併設の安酒場で朝から飲んでいた。そんな俺にいつも寄り添ってくれるのがギルドのアイドル乃木坂ちゃん! 普段は受付カウンターで仕事の斡旋をしている娘だ。

 ぱっちりとした大きい目にツンとした鼻。プリプリ艶やかな唇は誰もが“吸いつきたい”と思ってしまうほど魅力的だ。ルーティブロンドのサラサラしたボブヘアは、少しだけ日に焼けた肌によく似合う。胸は両手に収まるくらいの美乳。そしてヒップラインはもはや芸術の域。キュッと上がっていて健康的、太ももから引き締まった足首まで完璧なラインを見せる。


 そんなギルドのアイドル乃木坂ちゃんは、この俺、キュア夫にゾッコンLOVEだ。この前も調査に行く時に手作り弁当を渡してくれたし、目が合うとコッソリとウィンクで愛情を伝えあったりもする。とは言え堂々といちゃつくのはご法度。ギルドとしても特定個人に入れあげる姿を見せる訳にはいかない。建前は“恋愛禁止”なのだから。


 そんな俺に対してケンイチやマコは冷ややかな目を向けてくる。『どうせ遊ばれてんすよ~』とか『目を覚ましなさいよ』とか言いやがる。うるせー、お前らが付き合ってんの知ってんだよ。俺の事は放っとけ。かまうな。こっち見んな。


「それで、キュア夫さん、今度はどんなメンバーが希望ですか?」

「そうだな~。なんでも出来る有能で、俺のいう事を素直に聞いて、力持ちで荷物とか全部持ってくれるやつ」

「……はあ」

「あ、だけど俺より顔のいい奴はダメね、ダ~メ~」


「キュア夫~、そろそろ飲むのやめとけ。悪酔いしすぎだぞ」


 うっせ。……ったく乃木坂ちゃんといい雰囲気になるとすぐに口挟みやがる。いいからお前はマコといちゃついてろっての。

 

「わかりました。キュア夫さんの為に、絶対、絶~対、探してみますね希望者沢山いるから適当に見繕いますね!!」

「ありがとねん、乃木坂ちゃん~」







「あ、お前クビ。いらね」







「え~、また追放しちゃったんですか~」

「そうなんだよ。ダメダメ、トロくて」


 さっきまでメンバーだったあのバカ戦士。名前はドンキーって言ったか。前衛戦力を確保してモンスター討伐依頼に向かったんだけどさ……。バカでかいこん棒を振り回すだけで何の役にも立ちやしねえ。


 最近、湖のほとりにモンスターが住み着いたので討伐して欲しい。昨日ギルドに舞い込んだ依頼だった。モンスターと言っても種類がわからなくて、受けようとする冒険者はいなかった。もちろん俺も受ける気はなかったんだけど、乃木坂ちゃんがニコって笑いながら、そっと弁当を差し出してくれて。『危険の無い様に強い人を付けますね』って俺の事を心配してくれるもんだから……。


「精霊が宿ると言われる湖に巣食うなんてふとどき千万。我が剣の錆にしてくれる!」

「……あんた、ヒーラーっしょ」

 うっせ。お前はケンイチとちちくり合ってろ。


 ドンキーはたしかに力持ちで、道中の荷物は一人で持ってくれた。おかげで楽な事この上ない。「正式なメンバーに~」と最初は思ったりもしたけど、戦いになったらもうダメダメ。

 出現したモンスターは植物系のマンドラゴラ。その叫び声スクリームは生物を硬直させて動けなくするという厄介なモンスターだ。まあ、冒険者として実績のある俺達にはそんな叫び声スクリームは効かないだろう。しかしドンキーのトロさは群を抜いていた。

 こん棒をブンブン振回すだけで攻撃は当たらないし、その直後にきたスクリームで硬直してしまうし。モンスターじゃなくて地面を殴ってるし。隙を見てケンイチが倒したから良かったけど、こんな役立たずがよくも冒険者なんてやっているよな。


 なんかムカついたんだよな。ヤツの持っていたこん棒を“湖に投げ捨てて”置き去りにしてきたわ。

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