第2話:俺が悪いんすか?


 ある日、紹介されたパーティーに入った。そこはヒーラーキュア夫戦士ケンイチ魔法使いマコという三人で、“編成だけなら”バランスの良いチームだった。


 今回『未開のダンジョンの捜索』をするという事で、同行することになったんだ。


 個々の能力は、中の下と言った所。突出した能力はないけど、下手を打つ事もない。可もなく不可もないそこそこなパーティー。そしてお人よし。まあ、これは美徳ではあるけれどプラスにはならないだろう。   


 ……俺の足を引っ張らなければいいけど。





 まずダンジョンの入り口で驚かされた。いきなり無防備に足を踏み入れようとしやがった。まてまてまて……


「俺が先に入りますよ。罠とかあるかもだし」


「ああ、そうだな。ヌスッタ頼む」

 そう言いながら、すでに片足が入りかけた戦士を止めるリーダーのキュア夫。


 マジあぶねえよ。いきなりトラップがあるじゃねぇか。こいつ等よく生き残って来れたな……。


 罠自体は単純なもので、盗賊ギルドにはいって三日目のヤツでも解除できる程度のものだ。


 この、ちょっとだけせり上がった石を踏むと、入り口上にある岩が落ちてきて潰されるって寸法だ。その石が動かない様に他の石を挟み込んで……


「大丈夫です。行きましょう」


 少し進むと左手に鍵穴付きの扉が一つあった。これ、どう見ても1200%罠じゃないか。開けようとすると毒針が飛んで来るヤツだ。


「あの、そこに立つと危ないので、横に避けて……あ。もっと後ろに……もっと」


 この手の罠は解除しても、毒針が飛び出す装置はそのまま残る。もしそれが何かの拍子に誤作動を起こしたら『いきなり毒針が飛んでくる』という危険性がある。だからここは安全な場所から罠を発動させるのがベスト。


 カチリ……


 ――ヒュッ


 『カンカンカンッ』ってな感じの小さな音が後ろの方で聞こえる。飛び出した毒針が三本、壁に突き刺さった音だ。『あぶねぇ』とか聞こえて来たけど問題ない。


 メンバーはそこから三メートルも離れた位置にいる。十分に安全な位置まで下がっていてもらったから、俺も安心して罠を発動する事が出来たんだ。


「あ、待って」


 すぐに前に出ようとする戦士を止め、足元を指さす。


「ここにも……」


 部屋の入り口にある落とし穴。これも作動させておく。ガコンッと音を立てて床に穴が開き、戦士は後ずさった。つま先ギリギリに穴が開いて驚いたのだろう。


「もう大丈夫っすよ。ここ、落ちない様に……」

 

 その一言で進み出る戦士のケンイチ。扉を開けて部屋の中を見渡す。


「お、宝箱があるじゃん」

「マジ? ラッキーだな」


 今回は調査と言う事でギルドからの依頼案件だ。その為義務付けられているのは調査報告であって、その際に見つかった宝等は“発見者の総獲り”と相場が決まっている。


 宝箱に手をかける魔法使いのマコ。中からは金貨等が数枚出て来た。


 しかしその直後、ドアの脇から“いかにも毒です”という紫色のガスが噴き出し始めた。


「危険です、急いで!」

「もう、何よこれ!」

「ヌスッタ、ちゃんと解除しろよ!」


 慌てて金貨をつかみ取り、ダッシュで逃げる面々。ここはまだダンジョン入り口の光が見える辺りだ、特に被害もなく外に出られるだろう。


 とりあえず何事もなくて良かった。発見が早かった亊が幸いだったな。洞窟のガスは、入口に吹き出てくることはなく流れて行った。


 メンバーの視線が箱に集中しているのなら、俺は周囲の監視を怠らない。これは盗賊の基本であるし、ギルドでも最も重要な事として最初に教え込まれる。


 なんだかんだ言っても、メンバーの命を握っている大切な役割なんだ。

 

 だけどキュア夫からは信じられない一言が飛び出した。



「お前クビ。もういらねぇよ」


 そういって俺を置いてさっさと帰路につく三人。


 ……いいのかそれで?


 毒ガスが奥に流れたって事は、洞窟内に風が通っているって証明。裏に出口があるかもしくは通気口か。少し待てばガスは全部抜けていく。そんなの、盗賊ギルドじゃ二日目に習いますよ? 


 まあ、彼等には『三日は抜けないかも』とか適当に言っておきましたけど。もちろんこんなブラフは、盗賊ギルドじゃ一日目にならいますけど。


 そして俺は持ってきた弁当を食べてから昼寝をし、再度洞窟に入った。



 言うまでもなく、毒ガスで全滅したモンスターを尻目にお宝を総獲りさせてもらいました。


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