忘れた理由

「面会願う」

『ただの旅人では無いか....』『入れて良いとの事だ』『よし、武器と服以外の荷物を全てここに』

此処はこの国の城....王が居る場所だ。

そんな場所に何故なぜか現れたのは、

銀の髪にパステルピンクの瞳の女....

彼女の名はシュネー...旅人だ。

シュネーは荷物を全てカゴに入れると、

兵士と共に奥へと進む...

「失礼します.....」

王の前に行くと片膝をつく。

『私に何か用か』

王は問う...

「私、シュネーから質問させて欲しい事が有ります、どうかお許しを」

『貴公の威勢に免じて質問を許そう』

「では...」


「この国、定刻式ですが...その割には何か危ない...難しい....と言った要素が御座いません...率直に言うと素晴らしい国に御座います。ですが、引っかかることがひとつ...この国の民の忘れっぽさにあります。何か理由があるのでは?と」

そこまで言うと、急に兵士に抑え込まれる。

『ならぬ!』

『いや、良い...喋ろうぞ』

『しかし!』

『なんの細工かは知らないし、知る気もない...貴公は一昨日おとといから入国している...しかし、入国当日は此処に参らなかった...つまり、記憶が残っている...。しかしコレもまた推測に過ぎん...もし、覚えていたら...明日もまた来るが良い...いいモノをあげよう...』

「いいモノ?」

『いいモノについて、それは明日教えよう...さて、話すとするか...少し昔の事だ...とある装置を作ったのだ...国の不変...国勢の最高状態の維持、それの永遠を叶える装置だ....。まぁ...魔力による結界術の高出力ジェネレータを利用しただけだが....。そんな話じゃないな、私は”忘れる”という生理現象を一日おきに無理やり機能させる結界を張ることで願いを叶えた....。しかし、自分までそうなっては意味がない....。よって、この城だけは効果から除外した...無論、ここから出れば、どこにいようともその日のうちに記憶は一日前だ...。私は自分の手で自らをこんな鳥籠に閉じ込めてしまった....。今となってはどうでもいいが....ヒトは忘れる事で身を護る...デモもテロも批判も転覆も....忘れてしまえば考えるだけ無駄だ....忘れるだけで嫌なモノ辛いモノ、ありとあらゆる負の要素が産まれる事無く....ただ楽しく幸せだけを考えられると....そう考えて実行した...それまでだ』

「まぁ、わかりました....ありがとうございました....で?いいモノはまた訪れればいいんですね?了解しました」


 次の日、銀の髪をした女は、

その城に姿を現す事は無かった。

不変の筈のこの国に訪れた唯一の異物、

彼女、シュネーは旅人だ...。

「旅人は直接的に国を変えてはならない、変えて良いのは自分だけ....」

そう独り、門の外でぼやくと、

次の国へと向けて一歩踏み出した.......。

王の渡そうとした”いいモノ”とやらは、

彼にしか知る由も無く終わったのだった。

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