パンデミックボックス

 山で囲まれたとある国があった...

入国する時に言われた事がある。

『我が国ではマスクや、呼吸を保護できる物の着用を推奨しています...』

.....と、それだけ。

入国したのは銀の髪に

パステルピンクの瞳。

猫のように細い瞳孔を持つ女性...

彼女の名はシュネー...旅人である。


 この国は先述の通り国を山が囲んでおり、

その取り囲む山脈のお陰で、

侵攻の危機に瀕することも無く...

その山の麓から対面のまで、

のびのびと国土を広げる事が出来た。

山一面に広がった森林から林業が盛んであり

その上質な木材によって、経済を回している...


『へっくしょい...!』

『あら、大丈夫?』

『例の病だ....くっ......』

『そんなにお顔をくしゃくしゃにして....ひくしっ!!』

『君こそ!』

クシャミをする者や、鼻水が止まらない者...

この街はそんな人で溢れ返っていた。

どうやら流行病はやりやまいを起こしているらしい。

マスク等の理由はこれだったのだろう、

あまり会話などは控えた方が良いのだろうか

かと言って無知で過ごすのも危ない気がする。

ここは誰かに聞きに行こう...。

「少しいいですかな?」

『はい?なんでしょう』

「旅の者ですが...これは一体どういう流行病なのでしょうか?」

『あぁ...スカーレットギャザーって言うんだ』

「スカーレットギャザー?」

『厳密には植物の名前なんだ...でも病名はあったはずだけど...みんなそれで呼んでる...』

「なるほど」

『そしてね....』

その男はその謎の植物について語り出した。


 その植物、スカーレットギャザーは

この国の山々に元から自生している木で、

数がとんでもない...という訳では無かった。

その木材が売れる様になってくると、

昔の王はスカーレットギャザーを山に...

何千、何百と植えたのであった。

無駄な枝分かれをせずに、

真っ直ぐ伸びるその木の姿が、

教訓の内容に使われるなど...

国民的植物として有名になったのである。

そこまでは良かった....。

暫くして、謎の病気が同じ季節に多数発症。

症状はクシャミやはり鼻水、喉の枯れ...

涙が止まらない、ボーっとする...と、

恐ろしい程に多岐に渡り、

研究機関が研究を開始した。

原因は植えすぎたスカーレットギャザー...

経済を支える神でありながら、

酷い代償を与える悪魔でもあったのだ。

年々、発症者は増加し、

スカーレットギャザーの駆除が行われた...

しかし、そのおぞましい程に植えられた

スカーレットギャザーは既に手に負えず、

完全駆除まで、まだ数十年はかかるだろうと

機関から予測が組まれている。

だが、完全に無くなってしまえば、

この大国を支える経済基盤が、

消滅してしまうに等しい事であり、

この恵みの悪魔を消そうが残そうが、

どう転んでも完全に良い結果とはならない。

故に、無力となってしまったのだった......。

現在、季節で病状の波はあるものの、

若干盆地じみたその地形のせいで、

スカーレットギャザーの物質が外に漏れず、

年を通じて毎年脅威を発揮し続けている。


「なるほどなるほど...」

『それとだけどね、スカーレットギャザー、スカーレットギャザーって言うのめんどくさいからさ...』

「ほう」

『みんなは略して"スギ"って呼んでるんだ』

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