暗闇の国

 一人の女性が国へと歩みを進める。

銀の髪にパステルピンクの瞳...

その瞳孔はやはり猫のように細い。

彼女の名はシュネー...旅人だ。

「.......」

見上げるとこれは高い城壁である。

城門の方へ歩むと....

『どうも旅人さん!入国を希望なされますか?それならそれ相応の覚悟が必要ですが』

「覚悟?」

『そうです。覚悟です....この国の中では絶対に目を開けてはなりません...もしうっかり目を開けてしまえば...』

「しまえば...?」

『魔物にまた閉じる暇も無く喰らい尽くされるでしょう!』

「へぇ....まぁ、訪れてしまって、入れる事が分かれば入らざるを得ないのが真に旅人たるものだ....多分....うん、入るよ...ところで目隠しはダメなのかい?」

『目隠しはダメなんですよね...目隠し越しに目を開ければ、やはり喰われてしまいます』

「へぇ...なるほど?」

『では手続きを....もし死んでも一切の保証はありませんよ?』

「yes sure」

『それともう1つ。我が国では定刻式を採用しています。期限は3日です....では目をお閉じください...あなたの歩幅で丁度30歩...そこからは闇です』

無言で頷き...30歩進んだ。


 何も見えない...

全くの一切も...

入って早々気付いた事がある...。

杖などの前後左右を調べる道具を、

全く貰っていないという事。

わざわざ目を閉じねばならぬのならば、

その手のアイテムは渡すべきであろう。

後で苦情クレーム入れてやろうか...?

「.........」

その場でしゃがむと、

リュックを手探りで開く。

リュックの形状は長い月日使って覚えている。

「さて....」

ガサゴソ....。

ぐっ!

30cm程の棒を取り出した。

クルクルと捻ると....

ぐいっ!

3倍に伸びる。

ちょっと伸ばし過ぎただろうから

いい感じに長さを整えると....。

「よし」

杖の完成だ。

かつかつかつかつかつかつ....

右左右左....交互に地を叩き、

前方の形状を調べながら進む。

遠い昔に教えてもらった歩き方だ....。

かつかつかつかつ.....

にしても...定刻式は久々に聞いた。

国側が定めた期間中は、

ほぼ全てにおいてのサービスが

完全に只になる変わりに...

その期限が切れるまでは出国が許されない...

.......というものだ。

タダという揺さぶりに、出国できない縛り...

この2つの相乗で、

心理的に旅客犯罪率減少効果が有るという...。

しかし未だに効果は説の域を出ず、

採用国は多額の資金が必要な事から、

中々に広まっていない。

定刻式のくせに、こんな状況...

何か裏があるような気がしてならない。

まぁ...それ故に金を払わずに楽しめるように...

という善意ならば...考えすぎで済むのだが...。

かつかつかつかつ......

がっ....

ここは壁...

....かつかつかつかつかつ.......

ここは階段....

『あの...』

....かつかつ....

『あのぉ......貴女ですよ...そこのお姉さん』

かつ....

「私?」

『そうです!旅人さんですね!私もなんですよ!』

「へぇ....それはそれは....入って直ぐだが、かなり疲れたよ」

『えぇ〜そうです?』

「そうです?って...真っ暗ですもんね?」

『意外とそうでもないですけどね...』

「そういえば....アナタはどう歩いてるんです?」

『私?別に何も....貴女こそ杖持って.....見えるじゃないですか』

「何を....?」

『周り』

「.....ふむ......」

『じゃあ私はここで...』

「あぁ...少し待ってくれ」

『?』

どういうことだ....?

見える?なぜ...。

私のセンス的な奴か...?

そこら辺はよくわからんが....。

まるで目を開けている様に....

開けている?

まさか....開けるなと言われているのに....?

だが先程の旅人は"お姉さん"と言っていた...

私はそれまで声は出していない...。

入る前から尾行していたなら話は別だが...

そう、私が女性である事など...

あの段階で分かりようがないのだ....。

さて....この場合....

確かめるのに手っ取り早いのは....


シュネーは目を開けた....


『何してるんですか!?』


 彼女は....

彼女は明るい世界で.....全く......

全く....目など開けては居なかった.....。


「な....私には分からないッ!?なんで!君は目を開けていないのに!?」

『だって見えるんですよ閉じていても...この上から結界が張られているそうですよ?閉じていても見える独自の魔法結界が....例え目が見えないヒトでも見える様になる大発明だそうです...ケド...貴女こそ......なんで....』

「なるほど....」

あぁ...そうか.....その結界は魔力だ....

私に魔力は通らない.....。

そりゃそうだ.....

その効果も私には影響しない....

あ、どうしよう....目....開けちゃったナ.....。

ばしゅぅ!どすっ....

なんかデカくて醜い奴が降り立った。

うわ〜...目の大きなバケモンやでぇ....

まだ1日目だっつーのにな.....。

「では旅人のお嬢さん....私はここで....」

『あ...はい....』

そうして3日間、その銀髪の旅人は....

決して休むこと無く走り続けたのであった...。








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