終わる国

 人生というもの...いつか終わる。

 この旅もそのうち...。


 一人の旅人がリュックを背負って歩く...

銀色の髪は後ろで纏められ、

パステルピンクの瞳には

まるで針のように鋭い瞳孔が沈む。

その女の名はシュネー...。

涼しい荒地に細々と生きる植物を横目に、

ただ有る道を行く。

地平線から何か建物が見える...

「こんなとーきはー....」

この世の便利道具が何もかも入っていそうな

そのリュックから取り出したのは望遠鏡。

グイッと倍率を上げると...見えたのは、

取り壊されている城門だった。

咄嗟にシュネーは走り出した。


『はい!旅人さんですね?ようこそ、と言いたいところですが...』

「ん...?」

『この国ではご宿泊できませんのでご了承くださいませ!』

「どうして?」

『今日でこの国は破滅します!だからでございます!いいですか?なのでこの国にお金を落とす必要もございません!この国の最期、是非お楽しみくださいませ...!』

「そうかい....」

『では、良い観光を!お記憶だけ落とさぬようにお楽しみくださいませ....!』

なるほど、この国は破滅を受け入れたのか。

ならば城壁を崩しているのも分かる.....。

いや、分からない....なんで壊す?

めんどくさいだけじゃないのか?

うーん....だが、

「只っていいねぇ...」

できる限り利用してこの国を出よう。

念の為店主に聞いてから...

乾パンたぁーっぷり!と貰っていき、

「うーん...大漁大漁...お、」

次に目を付けたのは装飾品の店...

ダイヤモンドにプラチナ、なんでもござれ、

キラッキラに輝いた装飾品がなんとタダ!

だが、流石にこれは気分的に罪悪感....

あでも1個貰おう。

中々に悪趣味な金の腕輪バングル......

白多めなコーディネートに金が刺さる、

気分はちょっとした悪役....。

「まぁ、次の国...いやもう少し遠くで売るけどね」

店から立ち去る。

...と、

『おっと、ねぇちゃん、前向いて歩けよなぁ?』

「すまないね」

『そのまま行かせるかよ?この国はおしまいだからよぉ〜...言いたいことわかるよなぁ?』

「ちょっと忙しいんで」

『ダメダメだーめ!ねぇちゃんはここで服を脱ぐんだよぉ....そしたら行かせてやるよぅ』

「そりゃないれしょー?私は忙しいんだ」

『はァ?どこがよォ〜...旅人とか暇人オブ暇人じゃぁないの?ボクの遊びに付き合うの!』

男の指がシュネーの胸に触れる。

「じゃあさ?私から先にいいよね」

ぐぐぐぎぐぎ....

「選択権はさー...我にありってか?」

『うぎゃぁぁぁぁああああ折れるッ!折れるゥッ!辞めろよ女ァ!』

「なんでさー...最期なんでしょー....時間3分も無駄になったんだ。その分楽しませてさ?」

『ひ、ひぃ!?ごめんなさいごめんなさいごめんなさい──────ッ!!!!』

男は真っ青になった手首を抑えながら、

何処かへと逃げ去った。

「あれ....遊びたいんじゃ無かったのか?」

ばうっ...と手首を払うと、

また他の店へ向かった。


 かりっ....


「ッ!」

小さく、小さく....人一倍、

いや二倍の聴覚を持つ

シュネーにだけ聞こえた音......。

「外!外壁の内側が崩れ始めている...」

決して乾パンが崩れた音では無い、

その音は確かに城壁の方からしている。

まだ欲を出すと間に合わないだろう...

シュネーは撤収を選んだ。

城門を潜ると、

『あれ、おかえりですか?』

「そうだね、こーんなとこいたら...ヒトとしても終わっちゃいそうだ」

『そうでございましたか...』

「ま、でも...忘れはしないよ」

『そうしてください!』

「じゃ、では....」


 シュネーが去ってから1時間後、

その国は丁度崩し切った城壁の

すぐ周りから崩壊を始め、

底なしの闇へと沈んで行った。

城壁を崩していたのは、

内側だけ無くなった故に、

何も無いのに城壁がある...というのは

下手すればその城壁を利用して、

またここに国を建てる者が現れてしまう。

....というのを防ぎたかったからか....。

シュネーには分からなかったが....。

崩れる音は少しながらに届いた、

しかし振り返ること無く前へと歩いた。




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