草臥れた花:次

 街のメインストリートを、

一人の黒髪に白いワンピースの少女と、

銀の髪に桃色の目の旅人がついて行っていた。

「なんであんな宿の前にいたんだい?」

『もしかしたら竜人さんが来るかもって...でも違ったみたい.....』

「なんかごめんなさいね....」

『いえ!大丈夫です!あ、そうだ!ついでにこの国の観光も手伝います!』

「お、ありがたいね」


 やはりこの国一のメインストリート...

店の数がなんというか...凄い。

「おぉ♪フルーツサンドだ!」

『あのお店は美味しいですよっ』

「よし、買いだな!えーと....」

『あ!名前ですねっ!アプサです!』

「おーけー...じゃあアプサの分も買って来るよ」

『わぁ!ありがとうございますっ』

パァっと表情を輝かせる。

買ったのは色とりどりな果実を生クリームと

耳付きの三角にされた食パンで挟んだモノ。

耳のお陰で反対から生クリームが

はみ出しづらく、食べやすい。

「うんうん...!美味しいねこれ」

『ですよねっ!』

なんだか寄りたい所が沢山増えてしまった。

『じゃあ....お花の所に行きましょう!』

「りょーかい」

進んでいくと...住宅街になっている。

しかし途中で路地に入った。

てっきり庭に咲いている花だと思っていたが

以外と秘境的なモノらしい。

「アプサは普段何して過ごしてるんだい?」

『お花にお水をあげるんです!でも最近...元気にならなくて....』

「栄養が足りないのかな....?」

『栄養ですか?』

「こんな路地ならもしかしたら光合成が出来ていないんだろうね」

『こーごーせー?』

「シンプルに太陽の光が当たってないって事さ」

『なるほど!でも植え替えるの難しそう...』

「そうか...?ンまぁ、あれだ....。肥料を買ってみよう....」

『肥料気に入るかなぁ?』

「.....気に入るんじゃないか?」

『だよね!そうしてみる!』

会話は進むが、景色が進んでいる気がしない。

それどころか暗くなって行く一方だ...。

何かがおかしい?

そうして....。


『着きました!』

辿り着いた行き止まり...

そこにある花は...

べちゃ....べちゃ........。

よだれを垂らしていた。

横幅1m程の花弁の付け根に牙が生え、

白に深い紅色が飛び散った血のように、

生々しく模様となった花。

その涎が垂れる音を除けば、

ただただ静かで、唸るでも叫ぶでも無く....。

ぐったりとした様子.....。

「マンドレイクねぇ....それもかなりレアな種類だ....。」

『マンドレイクって言うんだぁこのお花!』

シュネーは理解した....

このマンドレイクは毒を持っている。

だがそれも微量なものだが...。

死に至らしめる毒、そして耽溺たんできの毒。

少女はこの花が美しいと言った。

このマンドレイク...アスタロス種は人を喰う。

耽溺の毒はかなりの期間、

摂取しなければ効果はない...のだが、

確かに彼女はこの花を美しいと言ったのだ。

確かに美しい...だがそれは初期の状態だけ、

段々と純白の花は不健康な血の如く染まり、

涎を垂らす等して醜く変貌する。

この少女、アプサの感性の問題も

あるのかも知れないが....。

そう、このアスタロス種は他の生物に

依存を強い、毒を吸わせ、殺す。

それを喰う植物なのだ....。

ぐったりな理由は間違いなく栄養不足。

恐らく1年は虫くらいしか喰ってない。

『綺麗でしょ?』

「......あぁ、そうだな」

結局シュネーにできる事は何一つ無かった。

花を殺せば、発狂してこの少女は死ぬだろう。

放っておいたら、喰われて死ぬだろう。

『また来る時にはこのお花も元気になってるはずだよ!肥料あげてみるから!』

「..........あぁ」


日は堕ちるだけだ。

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