何某の国

 一人の旅人がとある国の飲食店で

爽やかに朝食を取っていた。

後ろで纏めた銀の髪に、

パステルピンクの瞳と猫のように細い瞳孔。

彼女の名は.....。

ここでは伏せて置こう。

この国にはとあるルールがある。

それはそれは単純な物だ...

名前を伏せるという事。

誰にも名前を伝えてはいけないのである。

名前を知られてしまうと不幸が襲い来る

.........らしい。

この国にいる間は、自己紹介もできない訳だ。

残念ッ!今回はお預けだ!

なんだこいつと神様も思っている事だろう。


 そうして食事を終えた銀髪の旅人は、

荷物を持って外へ出る。

もし名前を言ってしまうと

どんな不幸が襲いかかってくるのか、

そして多集団の中で一人を呼ぶ時に

どうやって指名するのか...

かなり気になることもある。

そもそも何故こんな法律が出来たのか...

多々ある法律の由来を聞く方法としてに、

一番手っ取り早いのは...

王に聞くことだ。

もちろん個人的見解だ。


 城に着いた。

宿からはそう遠くも無かった。

門に居る警備兵に入っていいのか聞いて、

掛け合った結果、入城の許可を得ること、

そして王と話す機会も手に入れた。

少し見学したのちに理由を聞きに伺う。

『ようこそ我が国へ!よくぞいらしてくれた!その椅子に座るが良い』

「あ、はい」

『よし....で、何用なのだ?』

「一番聞きたい事から言いますね?お気に触ったら申し訳ございません....聞きたいのは勿論、なぜ名前を言っては行けないか....です」

『そうか....それはだな、近くに住むデーモンが名前に反応して命を吸ってしまうからなのだ....であるから...』

『あら、あなた...もうそれは言わないと約束したでしょう?』

『いたのかおまえ...』

現れたのはどうやら妃さんらしい...

後で知った。

『でも....だが私は...』

『"でも"でも"だが"でもございませんよ』

『ぬわーー.....。しょうがない...本当の事を話そう...』

「おや...ではお願います」

『笑いはせぬか?』

「笑いませんよ。現に今私は噛みました」

『....では話そう....。身勝手な話だ...私の名前は大層普通の名前だった....それはそれは普通だった....仲間に弄られる事もないくらいに....ただただ普通で素朴で平凡な名前だった....私は羨ましかったのだ....不思議な名前を持つ者達が....。勝手に憎んで勝手に国に結界を張ったのだ。自身の名前を公にすると反応して喰いにくるという箱入娘シェルタードデーモン型だ....。名前を付けられた瞬間それは使い物になら無くなるのだ....。どうだ?面白いか...?』

「そうですね、面白いですよ?」

『はははは....嘘つきめ.....。だが何か楽になったかもしれん....名前を気にしていられる程暇では無くなったしな....。』

「ではどうします?」

『旅人よ、私の名前を聞いてくれんか?....いいよな?我が愛する妻よ』

お妃様は頷くと...。

「あぁ...待ってください?私の名前も聞いてもらいたいね?国王あなた様の人生ぶっ壊そうとしている悪魔の名前ですよ」

『では聞こうか』

「私は、シュネーと言います...以後お見知り置きを....」

『ふん....。では皆の者よぅく、聞いておけ!我の名は....』

国王はその普通で素朴で平凡な名前を口に、

そうしてデーモンに喰われた...。

あるじをまるまる食い切ると、

その主に課せられたその使命を終え、

粉々に紫の光の粒子となって消え去った。



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