団欒の話

 一人の旅人が海沿いを行く。

銀の髪を後ろで纏め、瞳はパステルピンク

そして猫のように細い瞳孔を持つ。

彼女の名はシュネー。

波がノコギリの刃のような海岸にぶつかり、

飛沫を上げてやがて落ち着く、

落ち着いたと思えばまた波が来て...。

忙しなく動く海は....。

やはり地球ほしの鼓動を感じる。

そうこう歩いている内に建物が見えて来た。

少しペースを上げた。


 ちょっとした門があり、

その隣にある小屋をノックする。

『はーい...』

「旅の者です」

『あ!はい!どうも!旅人サン!手続きとかないのでどうぞ〜!良い観光を!』

過去最短での入国となったかもしれない。

いや、2番目か...

シュネーは街道をゆっくりと歩いていく。

国の中は中々に活気があり、

自然とこちらも楽しくなる。

と.....。

「宿探さなきゃ」

シュネーは取り敢えず、

今日の目的を果たしに行く。


「ここ、泊まれるかい?」

『あぁ...ごめんなさい!満室なのよ...』


「部屋空いてます?」

『すまないねぇ...空いてないんだ...』


「ここ...」

『申し訳ない!満室だ....!』


 続けて行ったものの....。

全滅であった。

しょうが無い、こんな事もあるモノだ。

だが国の中で野宿というのも気になる...。

そういう時は....。


 コンコン...

「ごめん下さーい」

『はいはい....?』

「一晩だけ、泊めてくれませんか?お金なら払いますよ」

『あぁ...宿は?』

「全滅ですよ全滅」

『......』

少し考えると彼女は

『汚いですが...どうぞ...お上がり下さい』

「感謝です」

こちらは一撃であった。

先に民家を訪れれば早かったのでは?

と考えるのは野暮だ。

宿のフラグが建たないですし...

家に入ると、先程の女性以外に

少年と男がリビングに居り、寛いでいる。

ちなみに、家に上がる時に

靴を脱ぐタイプの文化のようだ。

『こんにちわ!』

「こんにちは」

少年が元気よく挨拶をしてきた為、

しっかり返してやった。

「お兄さんもこんにちは」

『お兄さんじゃないが...』

「ありゃ...若かったもんで...お父さんで、いいですかね?」

『はっはっは....ああ、この子の父親だ! ...んん...まぁお父さんでいいか。さて、こんにちは。』

『旅人さん....はこちらの部屋お使い下さいね?あ、お布団はそこの箪笥タンスに入ってますよ』

「ありがとう。失礼するよ....あ、そうだ」

『なんでしょう?』

「シャワー借りていいですかね」


 というわけでさっぱりして来た訳だが

なんと、夜ご飯にも呼んでくれたのだ。

これは非常に嬉しい

ありがとうって三回くらい言ったと思う。

その時食べた魚介丼は、

生の魚を白飯の上に並べ、

醤油をかけて食べるのだが、

生魚というモノを食べる国は少ない。

元漁村というのの名残だろうか。

「この国のなにか見ておけ〜って所なんですか?」

『そうですねぇ...』『やっぱあれじゃないか? 造船所じゃないか?』『でっかいおフネつくってるんだよ!』

「造船所ですか?それにでっかいお船....。面白そうですねぇ」

『遠い昔に山を切り出したんだっけな』『そうですね...』『おはなしもあるんだよ!』

「ほう、それは....すこし聞かせて欲しいな」

 少年は目を輝かせて頷くと...

『あのね!うみからおおきなくじらさんがね!ぼろぼろでこのくににきたんだよ!でね!あのね!その時のおひめさまがきれいにしてあげてくじらさんげんきになっただよ!それでね!となりのわるいまおうがね!このくにをたべてやる〜ってね!でてきたんだけどね!そのね!くじらさんがね!たすけてくれたんだよ!てね!こーいうおはなしなの!』

「へぇスゴいな...。ところでくじらさんは何処へ行ったんだい?」

『わからないの!でもね!おひめさまといっしょにね!たびにいったんだよ!』

「ほえ〜」

『たびびとのおねーさんはあったことあるの?』

「そーだねぇ....会ったことあるかも知れないし無いかもしれないね...!」

『なにそれー!』

滅多に無い団欒だんらんは暖かかった。


 泊まったのはその日だけで、

次の日からは宿を借りた。

先の家にはお代は結構と言われたが、

金貨を1枚少年にこっそり渡して...。

さて、丘から見える聞いた造船所とやらでは

がきーんごきーん...と

絶え間なく鈍いが、響く接触音が、

少し離れたそこにも届き、

男や女、様々なヒト々が船を組み上げていた。

海獣くじらのように巨大で、

それでいて繊細に産み出されている。

誰もいない筈の丘は、

その緩やかな騒がしさに撫でられ、

背の低い芝がチラチラと海風で揺れる。

座り込んで、

なにかを待っているように

奥の海に目をやる。

無論、誰も来ない。

少し深呼吸をして....。

起き上がると荷物を纏めてそこを離れた。

午後になる前に海鮮を食べ納めて......

シュネーは国を出た。


そして進んで、

夜空にはオーロラが揺れていた。












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