幸せの頂上で:普通の国

「殺せと...?」

『あぁ!そうだ!殺してくれ!』


 鼻歌を歌いながら歩いて行く旅人。

銀の髪を後ろでまとめ、

パステルピンクの瞳に

猫の様に細い瞳孔を持つ。

白い羽織を揺らす、彼女の名はシュネー。

「おっ...」

城壁が見えてきた。


 城門に到着すればいつも通り...

『ようこそ!我が国へ!旅人さんですね?』

渡された書類にチャチャッと偽名を書き込み

待合室にて呼ばれるまで待つ。

「ふむ...」

ガイド等で見たところは普通の国だ。

住民と軽く会話して、

補給の後に出国でいいだろう。

『旅人さん!どうぞ!良い観光を』

「ありがとう」

そうして入国となった。

低めの城壁のお陰で空が良く見える。

それはそうと宿へ向かった。

宿の傍でこちらを見つめる視線に、

シュネーは気づかなかった。


 商店街が近くにあるらしい、

明日寄ってみようか...

服を脱ぎながらシャワールームへと消え、

湯のつぶてが床に弾ける音が響いた。

少しして、備え付けのバスローブに着替え、

ベッドに座り込み、地図を開く。

「そうねぇ.....」

地図を睨み、道順を軽く指でなぞると...

軽く畳んで机に投げて寝る。

月が沈み、差し込む筈の光は、

無常にもカーテンに阻まれる。


 日が昇り、放たれた光は、

銀の髪に隠れたまぶたをノックする。

シュネーはゆっくり起き上がると...。

「おはよう」

グッと背伸びをして出かける準備に入る。

シュネーが宿を出てから...。

それは現れた。

『そこのお姉さん....ちょ!待ってください!待ってくださいよ!』

「なんだ?」

『旅人さんですよね?』

「そうだけど」

『お願いがあるんです。』

シュネーはこの青年が何を考えているのか、

読み解こうとしたが....分からなかった。

だが、碌でもない事だと半ば決めつけ従う。

『こちらに来てください!』

「......。」

路地を連られるままに歩いて行くと...。

「これは?」

そこにあったのは

『抜け穴です。』

壁を抜けて、誰にも見られること無く、

出る事の出来るヒト一人分の高さの抜け穴。

「これが?」

その穴を一人越えて青年は言った。

『僕を殺してくれないか!?』

「殺せと...?」

『あぁ!そうだ!殺してくれ!』

旅人に殺しを依頼するのと、

国外で行うのは、理には適っている。

旅人は行方を余程隣国等と仲良く無い限り、

追ってくることはできない上に、

死体を探す事も国外なら困難だ。

何より、国内に悪人を作らずに済む。

だがやはり....。

「何故だい?」

『あぁ!聞いてくれ!僕は丁度18歳を迎えた....。この時期が僕にとって、いやみんなにとって素晴らしい時期であるのは知っている筈だ!だからこの楽しい上で、命の絶頂で、僕は死にたいと思ったんだ!このタイミングで死ぬ事で、幸せのピークの中で消え去ることが出来る!だから旅人さんにって欲しいんだ!』

「.......でも、死ぬのなら勝手に死んでくれると助かるんだけど」

『だってお姉さん美人じゃん!それに分かるでしょ!お姉さんだって...』

「いや、私に人生のピークなんてない、だから君の言う事など到底理解しえない....。あぁ、美人だけ受け取るよ。では」

立ち去る事にした。

......ちっ....。

青年が舌打ちをしたのは、

流石にシュネーにも聞こえた。

青年がナイフを出す音もついでに聞こえた。








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