アトランティスの妖精

 何故なのかは知らない、

地図にも載っていなかった。

だがあると言われれば...

行ってみたいもんだよ。

旅人だからねぇ...


 ただ、森の中を歩く者が居た。

月光を反射する

眩く艶やかな銀の髪を後ろで纏め、

パステルピンクの瞳に猫の様に細い瞳孔。

旅人の名はシュネー。

目の前は真っ暗だが....。

その凛とした視線が闇を切り裂く...と思う。

事実、夜目は効いている。

彼女は一つの国を探していた。

その国は地図にも乗らない幻の国。

存在している、という事実だけが残っている。

行ったという人間もその所在を明かさない

名前は確か、アトランティス...だったか?

何だか凄そうな国だ。

それを見つける為に密林の奥地へと向かった。


 道無き道を手当り次第で進んで行く。

「そもそも、見つけた奴はどう見つけたんだ?」

なにか手掛かりがあるのかもしれない。

なんだ?

シュネーは周りのものを調べる

「なにか....ん?草が少し踏み倒されている...先人の遺したしるべか?」

なんてかっこいいこと言いながら

至って真面目に進む事とする。

シュネーは更に深く入り込む。

虫が出てくる...。

前みたいなとてつもなく

でかい化け物では無さそうだが、

羽音がかなり腹が立つ。

光っている虫を見つけた...。

近づくと、更に1匹2匹と量は増えていく。

しかし......

「これはッ....」

なんと、虫達は並ぶ事により

矢印を描いていたのだ!

神からのお告げか!?進む以外道は無い!

 ある程度進むとやはり暗闇が戻る...。

だが、シュネーには見えていた。

現れた泉に反射した月明かりが

更に反射しその先の結晶までもを

照らしていたのだ。その結晶を覗くと

視線が屈折し、また別の方向を映し出す。

暗闇に沈んだ上で光が

特定方向から差し込む事で、結晶を照らす。

その光量の比率が真の値となった時...!

行くべき道を指し示すのだ。

実に興味深い....。

「よぅし....」


 シュネーは更に奥へと進む。

と....。

何か遠くに明かりが浮いている...。

そこにあったのは

1件のログハウス。

ドアをコンコンと叩くと...

『はぁ〜い...!』

と可愛らしい声と共にドアが開いた。

ドアを開けた少女は

フワッとしたメイド服に身を包んでおり、

そして開けるなり...

『あらっ!?女の子だ!初めてっ!』

「....?」

『ようこそ!帝国喫茶アトランティスへ!』

「国....アトランティス....あぁ〜」

しかし多分、

旅人としての変なプライドがある。

では失礼〜と帰る訳には行かなかった。

「ここは...どういうところだい...?」

『文字通り喫茶店ですよう!ほら!寒いからさっ!入って入って♪』

連れられるままにその家の入る。

木で造られた空間は暖炉の赤外熱を

外から余すことなく包み隠している。

『マ〜スタ〜♪おっきゃくっさん〜♪』

『あぁ、いらっしゃいませ。こちらへ...』

渋みの中に気品と

暖炉に負けない暖かみを含んだ男性が

カウンターに立っている。

どうやら中は彼女ら2人だけのようだ。

『本当は...まだ開店前なのですが...』

『えぇ〜いいでしょーレア客よ!レア客!』

『お客様をレアと言わないのですよ?』

『はぁ〜い』

『あぁ...ここへ座ってどうぞ、』

シュネーが言われるまま座るなり、

マスターと呼ばれた男(以下マスターと呼称)

は60粒豆を数え、焙煎を始めた。

しばらくして珈琲をコトッと置き

『どうぞ、』

「ありがとうございます...あ、砂糖を...」

『もう入れてありますよ?角砂糖3個程...、』

「おっと、すまないね...有難い」

なにか穢れがスゥと吐き出されていくような

心地よい気分だ。湯加減も丁度いい。

『お客様は何故ここに?』

「あ〜...あれだよ...森に眠る幻の国"アトランティス"を探しにね...」

『国って聞いて間違えちゃったわけだ!旅人さん可愛い〜』

ふっ...と澄ましたが心の中では

少し恥ずかしかった。

『まぁ...間違いは誰にでも、』

「あっ、マスター...でいいのかな?マスターは何故ここに喫茶店を?」

『静かに暮らしたかっただけなのですがね、ふと喫茶店をやりたくなっただけですよ、』

「彼女は?」

『彼女はね、居候ですよ、』

"はね、"と"居候"の間に少し

含み笑いを入れてそう言うと、

「ちょッ!マスター!それはないでしょったらぁ〜!」

プクーっと頬を膨らませその少女は反する。

『ふふふ...すまない、』

『もう!マスターったら♪あ、私はね、この森の妖精さんなの!』

「どうしてマスターと?」

聞くと、彼女はグッと顔を近づけ、小声で、

『マスターのこと....私、好きになった....恋しちゃった....リャナンシーなのに...でもね...いいよって...そばに居てもって....』

リャナンシーとは思えない、

心を知った人形の様に

暖かく深く、されどフワッとした

命の、恋の、その彼女が笑みを零すのを見て

「そうか...」

小声で返し、

シュネーはポンポンと彼女の頭を

撫でる様に軽く優しく叩くと、

「がんばれ」

と普通の声量で言った。

『がぁーっ!旅人さんいじわる〜!』

また彼女は可愛いらしく頬を膨らませる

はっはっはっ...とマスターとシュネー、そして妖精の彼女の笑い声を

ログハウスの木々が受け止める、

が、多分漏れているだろう。

月はまだ出ている。
















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