殺人鬼のいる国

 何人殺したか?

食べたケーキの数なら覚えてるが、

殺した数は覚えて無いねぇ。

自分から殺した事は無いが...。

まぁ、言い訳臭いね?


 銀の髪を後ろに纏め、

パステルピンクの瞳に細い猫の様な瞳孔。

まっさらな白い羽織に身を包んだ

彼女の名はシュネー。

今入国した所だが...。

「おやおや...」

誰も通りを歩いて居ない。

鳥のさえずりしか響かない、

悲しげな世界が広がっていた。

「どういうことなんだ〜?」


 見れば見るほど

白と黒とその中間色だけで味気が無い。

日暮れまでまだまだ余裕があるので、

少し国を周ってみる事にした。

少ししてから、

「これは...」

石畳に苔のように蔓延る血痕を見つけた。

その場に広がるのみで、

何処かへ続いている訳では無かった。

「おや...」

あちらにも...

公園にもぶちまけたみたいな赤が見える。

曇り空のせいで

色覚が余計にやられてきた所で、

目立つ赤が点々と...。

だがどれもこれも古いものばかりだ。

それはそうと、

どれだけ歩いても人影ひとつ見えない。

なんなら入国時にも、

無造作に整理券が置かれただけだ。

不思議だなとは思っていたが...

そんな感情じゃあ済みそうに無さそうだ。


 シュネーは幾刻か

公園のベンチに腰掛けていた。

半分は真っ赤の。

この空間で魔法を使えば、

その新たな色に

この国は染るのだろうかと、

考えはしたが、

考えるだけ無駄だと感じた。

未だに曇天が広がる。

白い花畑にモンシロチョウが留まる。

不自然な程に穢れの見えない、

その穢れた世界に呑まれぬ内に...。

「うし...帰るか...。」


 と立ち上がったとき

対面のベンチに黒髪の少年が居た。

ずっとそこに居たかの様に腰掛けていた。


「最後のチャンスかな?....」

シュネーは一人小さく呟き、

「そこの少年、君は何故一人でいる?」

声を載せて聞いた。

『簡単ですよ...。みんな出てこないんです。』

「なんでかな?」

『分かりませんね....。』

「聞くだけ聞くよ、チリひとつ残さず掃除されているのは君の仕業かい?そしてこの乾ききった血溜まりは?」

『はい、そうですよ。僕です。掃除しているのは...。血溜まりはですね、昔々にこの国には殺人鬼が居たんです。目を付けては殺し、目に入れば殺し、無差別に、意味も無く。そんな危ない殺人鬼が居たんです。』

「なら君も家にいた方がいいんじゃないか?」

シュネーは彼の正体を

大方見抜いていた。

そして、それは当たっていた。

だが、そんな質問をした。

『だって...。』

「だって?」

『とうの昔に殺人鬼は死んでしまったんですよ。』

不敵な笑みをうかべ、少年は去った。



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