ただ食べたいだけのケーキ

 ケーキねぇ....。

1度も食べた事はないねぇ...。

だから、せっかくだし...。

買ってみようかと思うんだヨ....。


 銀の髪をひとつに纏め、

パステルピンクの瞳を輝かせ

猫の様に細い瞳孔を更に細めて見るは...

小さめのホールケーキ。

いちごが三つ乗っかったケーキ。

シュネーは膝に手を当て中腰で

低い段にあるそのケーキを眺める。

『あのぉ...お決まりでしょうか...?』

「あぁ決まっているとも...」

『ではなんで...?』

「味が分からない」

『ん...?』

「食べた事無いのでな」

『へ、へぇ...』

「まぁ買おう、これでお願いします」

『あ、はい』


 名前が分からないがあの

ケーキを入れるためだけのような箱。

取っ手を展開し、左手でそこを持ち、

右手で底を支える。

「崩れやすいっつってたなぁ...」

こうして30分に及ぶ、

宿迄のケーキ防衛戦の火蓋が落とされた。

小さな箱を大切そうに抱える

大人びた女性が街を行く。

『キャー!ひったくりよ!誰か!』

「よっ」

足を引っ掛けて倒す。

逃げない様にそのまま踵で押さえ付ける。

『助かりました...なんとお礼すれば良いか...』

「あ、結構です。急いでるので、では」

『せめて名前だけでも....あぁ、行ってしまいましたわ』


 鼻歌交じりに街を行く、

すると、

がららがん!がしゃん!

『気をつけろ!吊り上げていたモノが!』

「うっわぁ...っと」

できる限り姿勢を崩さず

鉄の雪崩の中を泳ぐ。

息も崩さずに通り抜ける。

『だ、大丈夫かい?お嬢さん....怪我は?』

「当たって無いんで...あと急いでるので、では」

『なんてクールな奴なんだ...妻もあれぐらいシャキッとしてくれれば...』


「こっちであってたっけナ....ん」

道を曲がった所で

猫が道路に飛び出すのが見えた。

トラックも来ている。

「ったく!」

歩道のタイルを蹴り上げ、

猫の首を掴みあげる。

再び大地を蹴り、そこを離脱する。

元いた場所に戻り、

何食わぬ顔で猫を置くと

ぶぶぶぶ──────ッ!

クラクションが聞こえる。

『何飛び出してッ!ってあれ?....気のせいか.....?』

「どうしました〜」

『アレっ!?でも確かに....んんん!?』

トラック運転手は去っていった。

「無茶すんなよ?」

一見どっちがやねんだが、

猫に優しく語りかけてシュネーは去った。

(ニャンて事だ、ニャンとも我がネコヴェルデニャルニャルディアトピア大帝国にて恩返しをしたいところだニャ....時が来たらお迎えに参りますニャ....!)by猫の心。


 ....あっケーキ!

今のでだいぶやらかした気がする...。

シュネーは周りを確認してから

恐る恐る開ける。

「おぅ...」

どうやら無事そうだ。

推測だが速すぎて

逆に無事だったのだろう...。

格納魔法でも使えれば楽なのだが、

食べ物全般は繋がりの弱い細胞という物で

組み上がっている故に

格納して出した頃には

ドロドロの何かにすげ変わってしまう。

そもそも格納魔法使えないし...。

ケーキを丁寧に戻すとまた歩みを進める。

進めようとしたが....

「あっ」

滑った。

何も無い所で

滑った。

「ゆぅ〜ん.....」


宿で食べた初めてのケーキは潰れていたが、甘さが総て癒してくれた。


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