「おはようございます。早いね、どうしたの。」


「おはようございます斉藤さん。いえ、ちょっとフアンさんに。」




朝7時半。


いつもより早く出社すると、田嶋ちゃんがいた。


熱心だ。




「ああ、フアンさん…。なにか手伝おうか。」


「大丈夫です。斉藤さんはどうせ手伝ってくれませんので。」




デスクに座りながら、隣の田嶋ちゃんを見てみるとふくれていた。


この間の上司、フアンさんの仕事を任せてしまったことをまだ怒っているようだ。


謝ったはずなんだけどな。




「この間はごめんって。新規の相談があって、時間が近かったんだよ。」


「契約取れなかったのに?」


「……痛いとこを突くなあ。」




田嶋ちゃん、意外と侮れないかもしれない。




「訳があったんだよ。内容がめちゃくちゃで。」


「じゃあ、次案件あれば連れてってください。」


「え…田嶋ちゃんって、外嫌いじゃなかったっけ。」




俺の記憶が間違いなければ、他の人が誘ってもなかなか外に行かなかった気がする。


嫌いだったり、苦手なのかなと勝手に考えていたが、違ったかな。




「みなさんがフアンさんの仕事を押し付けてくるからいけないんですっ。心当たりありますよねっ。」


「…それはごめん。」




今度一回だけ変わってあげよう。


俺はそう、心に決めた。




「じゃあさ。今日の9時って空いてる?」


「9時なら大丈夫です。8時までは、この作業がかかっちゃいますが。」


「おっけ、それなら一個一緒に行こうか。」


「わかりました。」




そういうと、田嶋ちゃんはとてとてとホワイトボードに駆けていき、自分と俺の場所に『9時外出』と記入した。


こうしてみる限りは、ちっちゃくて可愛い女の子だななんて。




「書いてきまし…わあっ。」




ずべしゃあっとこけて、せっかくのスーツにしわが入っている。


ブラウスのボタンが一個取れているのは、見えないフリをした。




こういうところがなければね、優秀な新人なんだけど。




「あー、大丈夫か。人と会うし直してこい。」


「はいぃ…」




しょげしょげとオフィスを出ていった。




大丈夫かな、人前に出て。

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