推しの22

 「……誰⁉」

 「世界を征服するのは我々だ。ふぁいからりーふにあらず」

 「何者⁉ って、えええ⁉

 なにこれ、

 なにこれ、

 なにこれ⁉

 ふぁいからが制覇していた関東のお城ソーラーファームがどんどん他のアイドルに奪われている⁉ このマークは……越後の上杉⁉」

 「ふっ」

 「………⁉」

 「ふっふっふっ、はあーはっはっはっはっはっ! 見たか、北条。世界を制するは我ら越後上杉家アイドル、毘沙門びしゃもん龍子りゅうこだ」

 「上杉ィッ!」

 「毘沙門龍子こそ、現代日本最強のアイドル。そして、アイドル戦国界を制覇するにふさわしい逸材。顔良し、スタイル良し、歌も踊りも一級品。まさに、ひとりですべてをこなせる万能アイドル。何より、日本刀と袴が似合う絶世の美女剣士。五人も雁首並べなければアイドル家業の務まらない、ふぁいからりーふとは次元がちがうのだよ、次元が」

 「何言ってるの! 毘沙門龍子なんて少年院あがりの色物アイドルでしょうがっ! そもそも、毘沙門だの、龍子だの、アイドルの名前じゃないでしょおっ!」

 「それが個性と言うものだよ、愚か者。どん底を知る者だけが持ち得る迫力。実戦をくぐり抜けてきたタフな精神。少年院あがりというハンデをものともせず、アイドル業界のトップに躍り出る才能と、それを支える尽きせぬ努力。見る者を圧倒するその強烈な生き様あればこそ、たったひとりでステージを支配し、観客を沸かせることができるのだ。五人で半人前のふぁいからりーふにそのマネはとうていできまい」

 「五人五色、異なる個性がぶつかり合い、お互いを高め合う! それがふぁいからりーふの魅力なのよ! 毘沙門龍子こそ、身勝手すぎて他人と組めないってだけのことじゃない!」

 「天才は常に理解されぬもの。そもそも、なにが『互いに高め合う』だ。『日本一、息の合っていないアイドルユニット』として有名なくせに」

 「………! そ、それは……でも、それはもう過去の話よ! いまではみんな『グラミー賞を取る!』って言う目的のためにひとつになっているんだから!」

 「グラミー賞を取るだと? 笑止。ふぁいからりーふにグラミー賞を取るなどできるものか」

 「何で、そんなことが言えるのよ⁉」

 「グラミー賞を取るのは我らがアイドル、毘沙門龍子だからだ」

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