推しの12
「聞け! 全国の負け犬ども!
しろハーのこの熱き思い!
『(ラジオのトーク番組にて)わたしがなんでここに呼ばれたのかはわかっています。
『他の四人はともかく、お前みたいに何の取り柄もない、普通以下のポンコツアイドルがなに勘違いしてんだ。身の程を知れよ、バカ』って、そう言いたいんですよね?
たしかに、わたしは歌も踊りも下手だし、面白いトークもできない。顔もスタイルも水準以下。いつも、みんなの足を引っ張ってばかりのポンコツです。そのわたしが――ふぁいからりーふの一員としてとは言え――世界最高峰の賞を目指す。
『何言ってんだ』
『取れっこない』
『身の程を知れ』
そう言いたくなって当然です。わたしだって逆の立場ならきっとそう言っていた。
でも、わたしはアイドルを目指すと言ったときにも嗤われたんです。
わたしがアイドルになろうと決心したのは小学五年のとき。わたしはかわいくもなければ、頭もよくない、スポーツだってできない。かと言って、その代わりとなるような取り柄や、特別な才能ガあるわけでもない。いつもドジばっかりで、なにをやってもうまく行かない。性格だって暗い方だったし、地味で目立たなかった。クラスの中心になって、みんなに囲まれたことなんて一度もない。
いつもひとりポツンと端っこの方にいて、たまに話しかけられるときは馬鹿にされるときか、からかわれるときか、そうでなければ、他の生き生きとした女の子たちがやりたくないことを押しつけられるときぐらい。
とくに男子にはいつもからかわれていました。
『ブス』
『暗い』
『いるの、気付かなかった』
そんなことをしょっちゅう、言われていました。普通どころか、普通以下。ずっとずっとスクールカースト最下層の存在だったんです。
そんな自分が嫌でいやで、いつも部屋にこもって泣いていました。そのせいでますます暗くなり、ますますからかわれるようになりました。正直、生きていくのがつらかった。
『どうせ、あたしなんてろくなものになれない。なのになんで、生きていかなくちゃならないの?』
誰にも言わなかったけど、いつもそんな風に思っていました。
そんなとき偶然、テレビでステージの上で歌って踊るアイドルたちを見たんです。
そこで見た女の子たちはみんな、まぶしいぐらいに輝いていた。わたしが一〇〇回、生まれ変わってもなれないぐらい、かわいくて、魅力的だった。
そして、思ったんです。
『一生に一度でいいから、わたしもあんな風に輝いてみたい!』って。
すぐに両親に『アイドルになりたい』と言いました。もちろん、猛反対されました。『お前なんかがアイドルになれるわけがない』って。
クラスの女子には『なに、勘違いしてんの?』、『身の程知らずにもほどがあるわ』って陰口をたたかれました。
男子には『なれるわけないじゃん』、『ブスがアイドルとか、マジ受ける』って嗤われました。
先生からも『そんな夢みたいなことを言ってないで勉強しろ』と叱られました。
でも、わたしはわかっていたんです。わたしみたいな低スペック女子が輝けるとしたら一〇代のうちしかない。おとなになってしまったらもう決して、輝くチャンスなんて回ってこないんだって。
だから、必死に両親に頼みました。両親もついに折れて、アイドル事務所に入ることを許してくれました。
『まあ、芸能界の厳しさを知ればあきらめるだろう』
そうハッキリ言われたわけではありませんけど、それが両親の本音だったと思います。
わたしがアイドル事務所に入ったと知ったときにはクラスの男子はみんな、嗤いました。
『本当に入ったのかよ』
『なれっこないのに、よくやる』
『スクールカースト最下層がアイドルとか、マジ笑える』
そんなことを散々、言われました。みんな、わたしとすれ違うたび、指を差してそんなことを言って、嗤うんです。
でも、わたしはいま、こうしてアイドルとしてステージに立っています。もちろん、赤葉ちゃんや青葉ちゃん、黒葉ちゃんに黄葉ちゃん、ふぁいからりーふのみんなのおかげですけど。わたしひとりではステージに立つなんて絶対、無理だった。
それでも、わたしはいま、まちがいなく、あのすごい女の子たちと一緒に、同じステージに立っているんです。わたしを嗤った人たちはどこのステージにも立っていません。
だから、わたしは知っているんです。
嗤われたってできるって。
だから、グラミー賞だってきっと取れます。
いいえ、取って見せます。
わたしには尊敬できる仲間がいる。そして、応援してくれるあなたがいる。
そして、こんなわたしを応援し『今日もがんばろう』という気にさせてくれるあなたがいます。
だから、グラミー賞だってきっと取れます。取って見せます。尊敬できる仲間たちと、応援してくれるあなたと一緒に』
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