推しの11

 「『あいつら、正気?』

 『取れるわけないじゃん』

 『アイドルのくせになに、勘違いしてんの?』

 ふぁいからのグラミー賞奪取宣言以来、そんな書き込みばかりが目立つ。

 誰も彼も『できるわけない』って決めつけている。

 ああ、もう!

 腹が立つ!

 何でやりもしないうちから『できっこない』なんて決めつけるのよ⁉

 誰かはまちがいなくグラミー賞を取るのよ。だったら、その『誰か』が日本のアイドルだっていいじゃない。アイドルだってれっきとしたアーティスト、音楽家でしょ。だったら、グラミー賞を取る資格は充分あるわ。見ていなさい。ふぁいからは絶対ぜったいグラミー賞を取るんだから!」

 

 『だから、取れるわけないじゃん』

 『アイドルなんて、かわいいだけでしょ』

 『勘違いしてできもしないことをやろうとか、イタすぎ』

 ……前回のあたしの書き込みに対して、そんな反応ばかりが目立つ。

 くやしい。

 あたしの大好きなアイドルがそんな風にしか見られていないことが本当にくやしい。

 改めて、赤葉あかばのくやしさがよくわかった。たしかに、アイドルはアーティストとして、音楽家として認められていない。ただかわいいだけの、子供だましの存在だと思われている。だからこそ、多くのファンが心ならずも隠れている。

 あたしもそう。

 『ふぁいからりーふのファンです!』って堂々と言うことができない。

 『いい歳してアイドルなんて……』って笑われるのが怖いから。

 改めて情けないと思った。好きなものを好きって言えないなんて。本当に好きなら、愛しているなら、世間からどう見られようとはっきり『好き!』って言えるはずなのに、あたしにはそれができない。

 何て情けない。

 でも、多くのファンがあたしと同じ思いで隠れている。潜んでいる。赤葉はそんなファンのために立ちあがったんだ。自分たちを応援してくれるファンが堂々と『ふぁいからりーふが好きです!』って言えるように。

 本当なら、あたしたちが堂々と『ふぁいからりーふが好きです』って言うことで、世の中の偏見を消していかなきゃならないのに。あたしたちにそれができないから赤葉が代わりにやってくれる……。

 ありがとう、赤葉。

 そして、ふぁいからりーふの皆。

 あたしもがんばる。隠れながらでも精一杯、応援して、皆を支えてみせる。だから、一緒にグラミー賞を取ろう。

 嗤う人には嗤わせておけば言い。イチローだって子供の頃は『そんなに野球の練習してプロ野球選手にでもなる気か』なんて嗤われたんだ。でも、イチローはプロ野球選手になった。それも、史上、例のなか大スターになった。それを見て、子供の頃のイチローを嗤っていた人たちはどう思った?

 今度はあたしたちの番。嗤われたってやってやる。グラミー賞を取って、世界的なスターになって、嗤っているやつらを見返してやる。

 一緒にがんばろう、ふぁいからりーふ!」

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