推しの10

 「……いよいよ、重大発表の日。ステージの中央に立った赤葉あかばが代表して言った言葉は、

 『あたしたち、グラミー賞を取る!』

 ぎぃやああああああああああああ!

 なにそれ、

 なにそれ、

 なにそれ!

 何でいきなりそんなすごいことを言うわけ

 『あたしたちには応援してくれる大勢のファンの人たちがいる。でも、その人たちの多くがファンであることを隠している。なぜなら、アイドルの地位が低いから。単なる子供のお遊びであり、一流のアーティストとして認められていないから。あたしはそれが悔しい。だから、あたしたちがそれを変える。ふぁいからりーふがアイドルを一流アーティストの地位に押し上げる。そのために……グラミー賞を取る!』

 ぎいやああああああ!

 赤葉、カッコいい!

 カッコよすぎるよ、あかバ~~~~~~ン!

 まさか、こんなすごい決意表明が聞けるなんて思いもしなかった。すごい、素敵、カッコいい! ふぁいからりーふ最高!

 メンバーそれぞれの決意表明も素敵だった。

 『グラミー賞を取るために世界に通用する歌を作る』って青葉あおば

 『いままでふぁいからのセンターは赤葉ばかりが務めてきた。でも。ふぁいからりーふを世界に通用するグループに進化させるため、わたしがセンターに立つ』って黒葉くろは

 『皆で力を合わせて達成して見せます』って黄葉おうは

 そして、しろハー。

 『何の取り柄も才能もなくて、いつも皆の足を引っ張ってるあたしだけど、でも。ふぁいからりーふとしてグラミー賞を取るために全力でがんばります!』だって!

 ああ、しろハー、

 しろハー、

 しろハー。

 脚はガクガク、顔は青ざめ、いまにも心臓発作を起こしそう。それでも、歯を食いしばって立っていた。

 うんうん、わかるよ、白ハー。グラミー賞を取るなんて大変なことだもんね。プレッシャーに押しつぶされそうだよね。泣いちゃいそうだよね。でも、それをグッとこらえてみんなと一緒に挑戦しようって言うその姿!

 ああ、しろハーのこんな堂々とした姿が見られるなんて。

 成長したねえ。

 がんばったねえ。

 お姉さん、泣けてきちゃう。

 そのあとのライブも素敵だったあ。歌も踊りもいままでにない一体感! この日のために特訓したんだっていうことがハッキリわかったよ。

 ……まあ、しろハーが歌と踊りをミスって、赤葉に怒られて、見かねた黒葉とケンカになるのはいつも通りだったけど。

 でも! それだって、いままでみたいに単にイライラをぶつけ合うような不毛なケンカじゃない。お互いを高め合うための容赦ない批評だって言うのがハッキリわかった。なにより、いままでならただ、オロオロしているばかりだったしろハーが自分から仲裁に乗りだしていた。

 それだけじゃない。

 黄葉もおっとり雰囲気でふたりをとめていたし、我関せずの青葉まで!

 『グラミー賞を取る!』って言う途方もなく大きな目標がみんなをひとつにしたんだね。

 そうだよ。

 これだよ。

 あたしたちはこの姿を見たかったんだよ!

 あたしもがんばるよ、しろハー。ガンガン仕事して、資格取って、昇進して、お給料増やして、めいっぱい課金する。

 プロジェクト・太陽ソラドルは日本国内だけじゃない。世界にも目を向けている。一日一ドル未満で生活している人たちのもとに太陽光発電システムを送り届けようとしている。

 いまや、アイドル業界の市場規模は年間二〇〇〇億円以上。それも毎年、順調に成長している。そのうち半分がプロジェクト・太陽ドルに課金されるとしても一〇〇〇億円。五〇ドルの太陽光発電システムならざっと二〇〇〇万世帯分は買える計算になる!

 こんな安い太陽光発電システムでも、四つの部屋の照明とラジオと白黒テレビを付けることのできる電力を得られる。それだけの電力があれば地下水を汲み上げて清潔な飲料水を手に入れることだってできるし、畑に水を引くこともできる。収穫した作物を高値の付く時期まで保存しておくことも、加工して売ることもできる。そうなれば収入も増えて、よりよい暮らしが送れるようになる。あたしたちが課金すればするほど、世界中の貧しい人たちの暮らしがよくなっていく。そして、なにより!

 プロジェクト・太陽ドルの提供する太陽光発電システムは、各アイドルの歌って踊る映像付き! あたしたちががんばって稼いで、課金して、ふぁいからりーふ印の太陽光発電システムを広めれば、世界中でふぁいからりーふの歌って踊る姿が流されることになる! まさに! しろハーが世界中を幸せで照らすのよ!

 そうなれば、グラミー賞だってきっと取れるよね。

 ううん、あたしたちが取らせてみせる。あたしたちにはそのための手段があるんだもん。

 一緒にがんばっていこう、しろハー。

 そして、みんな。

 みんなで力を合わせてグラミー賞を取ろう!」

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