第32話

ここは初めて来た。でも、なにか感じる気がする。いや、ここも夢で見たのかもしれない。それはいつだったんだろう。


「あの、すみません」


「おや、どなた?」


おばあさんがいた。草取りしてる。


「天野と申します。あの、ここで働いてる人が知り合いかもしれなくて」


「人探し?」


「はい。同い年の男です。18です」


「あの子かしら?ほら、牛に餌やりしてる」


…あいつだ。

間違いない


ずかずか近づいていく。


「え、なんですか?」


夢路雪見ゆめじゆきみだけど」


「…は?」


「何してる?借金して」


「…あ、え?雪見って?え?なんでこんなところに?」


「はるばるやってきてやった」


「…ご、ごめん…。たくさん金もらったらさぁ、旅行したくなって。世界一周して…」


「逃げたわけだ」


「ごめん、夢路!金、お前が返したのか?」


「いや?まだ返し終わってない。キャバクラのボーイやってる」


「…お前が?」


「会社作るのは?嘘?」


「…遊びたかったんだよ、親の束縛から逃げたくて」


「そう。おかげで俺は親から捨てられた」


「…そんな」


「でも今は、養子にしてもらってる人によくしてもらってる」


「…俺は、もう家に戻れない」


「戻らなくていい。お前の親は、家出したと思ってる。それに、俺のことなんて何も知らない」


「夢路は今どこに住んでるんだ?」


「東京」


「なんで、ここに?」

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