第30話

高校入ってすぐ、1年なのに修学旅行の話になった。酪農家の家に体験で泊まる予定になっていた。牛とか儲かりそう。一生暮らせそう。あいつはそう言った。


「ゆきみさんの行きたいところは、ここからちょっと遠いから…到着は明日になるかもよ?」


電車移動中である。本数が少ないから、話してる暇もなく乗った。金が足りるといいな。


「え…そっか。うーん、でも行かないと行けない気がする」


勘であるが。


「わかった。どこかで泊まらないと。遅いし」


「安いとこじゃないと帰りのお金たぶんないよな…」


あ、そうだ。


「ラブホにしよう」


「え…?」


「先輩が言ってたけど、かなり安いとこもあるって」


「そ、そうなの?どうやって調べる?」


「勘で行けそう」


ちょっとぼろい、そして安いと書いてある。それなら、間違いなく泊まれるはず。到着後、すぐ探す。駅近くにあるじゃん!ラッキー


「部屋空いてますか?」


「はい」


「泊まります」


部屋は狭くて、壁薄くてあちこちから声がする。


「うーん、眠れる?うるさくね?」


[みんなやってるんだ…きゃー!こんなとこ来ちゃった!場違いだよ私なんか]


「やる?」


「え、うん…」


[いきなり始めようとするゆきみさんとか…。もー雰囲気とかないの?]


「雰囲気?」


「あ!しまった。しゃべるようにする。力使っちゃうと疲れるんだって」


「あー確かにね。ここって大声出してもいいからさぁ、いつもより声出していいよ」


「…そんなこと言われても」


「みんな叫んでるよ?」


「でも…」


「今日は、動物も人の声も聞こえたんだよね?先読みしてしゃべってた」


「…そういえば、うん」


「おめでとう」


「ありがとう…」


「成長するのって別に悪くないから。これからも実践したらいいよ」


[…まじめな話を今するの?]


「しゃべるんじゃないの?」


「あっ、ごめん…」

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