第5話

彼女は、声を伝えてるのに気がつかないようだ。


[この人は私の気持ち、どうしてわかるんだろ?あー苦しい下着脱ぎたい。でも脱いだら胸を男子が見ようとするし、ジャージ着てると暑いしいいことない。女子たちは羨ましいけど、陸上部ではいらないよね?なんて言う。もう走りたくない、特待で来たのに!勉強できないから陸上にしたのに、もーどうしよ!]


無言だと本人は思ってるようだけど、俺の後ろからついてきてる独り言のような声は全部聞こえている。


[え、裏路地?ここ、どっかの店の裏?]


なぜか全然普通にはしゃべらない。


[へー、中は綺麗なところみたい]


「シャワー使っていいから。あっちにある」


「ありがとう、ございます」


「着替えはそのへんのドレス着てよ」


「え、これ、を?キラキラの?」


「うん」


「…わかりました」


そのへんにかけてあるドレスを1着持った。予備のドレスである。レンタルしてるらしいけど新人くらいしか着ない。


「これタオル。このへん掃除しとくから、わかんないことあったら言って」


隼人はやとが来ても、話せばわかる。それにまだ出勤には早い。鍵もらっててよかった。


[ここなんのお店だろ?]


ドア閉めてるのに、声が聞こえてる。俺に直接質問はしないが。


[あの人、お坊さんじゃないのかな?とにかくシャワー!やっほー!]


喜んでるし、掃除しよう。

しばらくすると、また声がしてきた。


[これって下着どうするんだろ?見えるよね…?]


なんか困ってるみたい。だからドアをノックしてみた。


「着替えた?」


「ま、待って!」


[着方わかんない!]


「着方わかんない?」


「…はい」


「失礼します」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る