第15話 誰なんだよ、あのスーツを着た男性は…
でも、生徒会長のことについて知ってしまったのである。
この気まずい感情をどうすればいいのだろうか?
そんなことを思い、隼人は、先ほどの喫茶店を後に街中を歩いていた。
……須々木先輩って、そんな人だったのか?
まだ、信じられないという心境である。
生徒会長は真面目で、そうそう手抜きとか、そんな適当なことはしない。
先生からも一目置かれる存在。
隼人は、心にモヤモヤした感情を抱えたまま、溜息を吐く。
事実かどうかもわからないのに、生徒会長のことを否定なんてできなかった。
だから、隼人は、あの意味不明な女の先輩の誘いを断ったのだ。
これが正解な判断かはわからない。
生徒会長の
心が締め付けられる思いだった。
そんな中、ふと、何かの存在に気付くように、隼人は顔を上げたのだ。
そこには制服を着た女の子の姿が見える。
自分が通っている高校指定の女子生徒の服装。
遠目からまじまじと見ると、須々木先輩のように見えた。
先輩……?
でも、見間違いということもある。
すぐには判別できない。
しかし、似ているのだ。
生徒会長にそっくりである。
まさかと思い、街中の人混みをかき分けるように、遠目で、その彼女の姿をまじまじと観察するのだ。
「……」
隼人は、ドキッとする。
胸の内を掴み取られるかのような衝撃が、心に響いたのだ。
……須々木先輩だ。
しかも、その隣には知らない男性がいる。
男性と言っても、四〇代くらいに思える人物。
同い年との関わりではないとすると、怪しい関係なのだろうか?
理解が追い付かなかった。
謎の女の先輩の言葉が脳裏をよぎる。
本当に……?
信じられず、隼人は人が行きかう道で立ち止まってしまった。
現状を理解するまで、まだかかりそうである。
「おい、ここで止まんなよ」
「え、す、すいません」
「全く、邪魔なんだよ」
見知らぬ二〇代くらいの男性から舌打ちをされた。
その男性は軽く隼人を睨んだのち、背を向け、人混みに交じるように姿を消してしまったのだ。
「……あ、あれ?」
先ほどの絡みで、先輩の姿を見失ってしまっていた。
須々木先輩は⁉
辺りを見渡すが、平日なのに、なぜか人が多い。
なんで、こんな時に限って……。
隼人は駆け足で、周りの人にぶつからないように、先へと進む。
かき分けるように、人の間を潜り抜け、先ほど先輩が居たであろう場所に辿り着く。
須々木先輩、どこに行ったんだ。
生徒会長のことは、そこまで好きじゃない。でも、嫌いでもなかった。
しかし、ミステリアスな先輩の言葉を信じたくないと思いが強いのだ。
だからこそ、自分の目で直接見て、生徒会長から聞き、本当かどうかを知りたいのである。
先輩……。
どうしても見失いたくない。
もう、見失っているのだが、隼人は、先輩をどうしても探し出したかった。
そこで、真実を知りたいのだ。
それと、先ほど一緒にいた男性との関係もハッキリさせておきたいのである。
「……あれって」
隼人はやっと、二人の背後を見かけた。
まだ、遠くにいるわけだが、走れば何とかなりそうである。
隼人は先輩と、その男性がいる場所へ向かって走る。
少しだけ、周りにいる人とぶつかりそうになっていた。
足元がふら付きながら、先輩の元へと近づいていく。
あともう少しだった。
けど、その二人は、とある建物に入っていったのだ。
それはデパートである。
隼人は、先輩を追いかけるようにデパートの扉を開き、入った。
「せ、先輩」
隼人は、ここぞと言わんばかりに、ハッキリと口にした。
「え? な、なに?」
先を行く生徒会長は驚いたように立ち止まり、四〇代の男性と共に、隼人の方を振り向いてくれたのだ。
「隼人? どうしてここに?」
須々木先輩は驚いている。
「……」
隼人は走ってきたこともあり、息を切らしていた。
ゆっくりとだが、姿勢を整え、二人の方を向く。
「そんなに焦ってどうしたの?」
「それは、先輩のことが気になって」
「き、気になって?」
「……はい」
隼人は息を整えると、先輩の方をハッキリと見た。
「気になったというのは、どういう意味なの?」
須々木先輩から問われる。
「それは、色々な意味です、から……」
真実から逃げてはダメだと思う。
隼人は先輩としっかりと向き合っているのだ。
「この子は、誰かな? 知り合いですかね?」
四〇代くらいの黒色のスーツを丁寧に着こなした男性が、隼人と生徒会長の方を交互に見ながら問うてくる。
「はい。この子は、同じ学校の子で知り合いです」
「そうか。でしたら、別のところに行きましょうか。ここでデパートの入り口ですし。場所を変えましょう」
その男性は現状を的確に判断したのち、落ち着いた口調で指示を出す。
「では、ここでいいでしょう」
三人で訪れた場所は、デパート七階らへんにある、和食定食で有名なチェーン店であった。
隼人は先輩と隣同士で正座するように座り、対面するように、テーブルの先には現状を仕切っている男性の姿がある。
「では、ひとまず、注文でもしてもよろしいので」
その男性は高校生相手にも関わらず、丁寧な感じに優しく話しかけてくるのだ。
「……すいません、こういう場所に入ることになってしまって」
隼人は申し訳なく思う。
「別にいいですよ。元々、ここに入る予定でしたから。そうですよね、真理さん」
「はい」
生徒会長は大人びた表情を見せ、男性に対して頷いていた。
「……えっと、聞きづらいですが、二人はどういう関係でしょうか?」
隼人は勢いに乗って先走ってしまう。
でも、知りたいのだ。
本当に、生徒会長が、あのミステリアスな先輩の言う通りに、闇を抱えている人なのかを。
「ごめんね、全然、話していなかったね。急だと、怪しまれるよね」
須々木先輩は表情を崩し、親しみやすい笑みを見せてくれたのだ。
「私とこの人はね、別に疚しい関係じゃないわ。ただね、来年の大学受験のことについて相談に乗ってもらっていたの」
「大学受験……ですか」
冷静になって考えてみれば、来年、生徒会長は卒業することになる。
すでに大学受験のことについて話し始めていてもおかしくない頃合いだ。
「そうなんですね。でも、なぜ、そちらの方と?」
「この人はね、君の父親の知り合いの人なの」
「父さんと?」
「そうよ。たまたま、あなたの父親と出会って、相談することがあったの。それで、この人を紹介されたってわけ」
先輩は淡々と話している。
そういうことかと思う。
でも、浮気の件とはまた別の件である。
隼人の中では、まだすべてが解決されたわけじゃなかった。
しかし、一緒にいた男性が怪しい存在ではなかったということが、今、隼人にとって唯一の救いだったのだ。
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