第14話 私ね、復讐したいの。だから、協力してくれない?

 学校終わりの放課後、


 崎上隼人さきがみ/はやとは、とある喫茶店を訪れていた。


 街中にあるこじんまりとした感じの店内。

 優しい感じにBGMが流れている。


 辺りを見渡すと、少しだけお客がいるような空間だった。




「来たのね」


 彼女からの一言。


 あまり聞き馴染みのない声ではあるが、その声のトーンは、隼人の心をちょっとばかし煽る。


 隼人が、声の持ち主へと向けると、そこの席に、一人の女の子が座っていた。


 落ち着いた態度であり、動揺することなく、少し前に注文したであろうコーヒーを飲んでいたのだ。


 パッと見、ミステリアスな子である。




「さあ、こっちに来なよ。ずっと、そこに立っていても他人の迷惑でしょ?」

「そうですね」


 隼人は頷き、彼女がいるテーブルへと向かう。


 謎めいた感じの彼女の向かい側の席に座り、椅子を引き、そこに座るのだった。




「では、何から話しましょうかね」


 彼女はボソッという。

 そして、再び、コーヒーを口にしていた。


 隼人より、一つ年上の彼女。


 大人びた雰囲気に慣れ親しんでいるのか、あまり顔色を変える様子はなかった。


「あなたは、お腹はすいてる?」

「え、まあ、はい。少しは」


 隼人はたどたどしい口調で言う。

 目の前に座っている彼女の様子をチラチラと伺っていた。


「じゃあ、頼みなよ」

「いいんですか?」

「お金はあなたが払うことになるけど」


 まさか、ほぼ初対面の人が奢ってくれるとはありえないだろう。


 隼人はテーブルに置かれた一枚のメニュー表へと視線を移す。

 それには商品の写真などは一切掲載されていなかったのだ。


 商品の名前のみであり、所見だと、どういったものが提供されるのか判断し辛かった。


「どうしたの? 早く頼みなよ」

「はい」


 隼人は、目をキョロキョロさせ、想像しやすいものを選ぶことにしたのだ。






「では、こちらの商品でよろしいですね」

「はい、お願いします」

「では、少々お待ちくださいね」


 女性店員は軽く会釈をし、笑顔を見せ、隼人がいるテーブルから立ち去っていく。




「では、本題といこうか」


 そのミステリアス風な先輩は淡々とした口調で言い、また、コーヒーを飲む。


 この人は、どれだけコーヒーが好きなのだろうか。


 そんなことを思い、その先輩の姿をまじまじと見ていた。


「なに?」

「い、いいえ。なんでもないです」

「そう……」


 先輩はコーヒーをテーブルの上に置きなおしていた。


「私、あの生徒会長のことが嫌いでね、どうしても潰したいと思って」

「……そういう言い方はよくないと思いますけど」

「でも、私は嫌いだからね。あなたはどうか知らないけどね」


 先輩は溜息を吐いて、喫茶店の窓の方を見ていた。

 黄昏れた感じに外の景色を眺めていたのだ。


 隼人は、須々木真理すすき/まりのことは好きかと言われるとわからなかった。

 どちらかと言われれば、普通かもしれない。


 生徒会長からパシリに使われることが多いが、決して、すべてが嫌なわけじゃない。


 親切な時もあるし、かなり頼りになる。


 この頃、そう思うようになっていた。


 正面にいる女の先輩は、生徒会長のことが嫌いなのだろう。

 口調からして、恨み交じりであったからだ。


 けど、どういう風な経緯で嫌いになったのだろうか?


 隼人は、そんなことを勘ぐってしまう。




「あなたは、あの人がどんな人か知ってる?」

「いいえ、そこまでは」

「でしょうね。だから、一緒にいるんでしょうね」

「はい……」


 女の先輩は再びコーヒーを飲み、気分を落ち着かせているようだった。


「まあ、何も知らない人からすれば、真面目で立派な人に映るかもしれないわね。でも、私からしたら、そういう風にいい人を演じている、あの人が嫌いなの。昔、あんなことをしておいて」

「あんなこと?」

「まあ、あなたは知らなくても当然よね」

「……どんなことでしょうか」


 隼人は怖かったが、恐る恐る問いかけてみた。


「あの子は、私の彼氏を奪った後、振ったのよ。最低だと思わない? 絶対に、私のことを馬鹿にしてるわ。高校に入ってからは、あいつ、風紀委員に入って。それから先生たちの機嫌を利用してさ、生徒会長に上り詰めたのよ」

「そうなんですか?」

「当り前じゃない、そうとしか考えられないわ。まじで、くそみたいな女よ」


 ミステリアスな先輩は、先ほどまでの表情を崩すかのように、恨みの感情を前面に押し出している。

 先輩の瞳は復讐に燃えているようだった。




「ねえ、あなたさ、あいつと関わるのやめたら? 絶対に碌なことはないわ。その方がいいわ。ねえ、そうしなさいよ」


 先輩は突然、テーブルを叩きながら立ち上がった。

 その振動でコップに入っているコーヒーの液体が揺れ動く。


「でも、俺、まだほとんど何も知らないですし。すぐに生徒会長のことを悪くは言えないです」

「へえ、あの女の見方をする気?」

「そういうわけじゃないですけど。実際のところ、本当に浮気が原因なんですか?」

「そうよ。そうだと言ってるじゃない」


 席から立ったままの先輩の表情は狂気じみていた。


 復讐の炎に燃えているかのように、険しい瞳になっている。


 怖いって。


 感情の起伏が激しいというのもあるが、悪魔のような存在に思えてしまうのだった。




「ねえ、私に協力しなさい」

「それは難しいかもしれないです……」

「何で?」

「それは、本当にそうとわかったわけではないというか、自分の目で見ていないので」

「ふーん、あの女に相当、洗脳されているわね」

「洗脳なんて、そんなことは」

「でも、そうじゃないと言い切れるの? それとも私が嘘をついているとでも?」

「いいえ……」


 隼人は消極的な感じな態度を見せてしまう。


 生徒会長のことについて何も知らないのは確かではあるが。一応、生徒会長から助けてもらったこともあり、彼女のことを悪いとは断定できなかった。






「それと、お客様、少し他の人の迷惑になりますので、静かにできますでしょうか?」


 先ほどの女性店員がやってきていた。


「……すいません」


 急に静かになったミステリアスな先輩。


「では、こちらが、ご注文のコーヒーになります。会話してもよろしいですが、お静かにお願いいたしますね」


 と、女性店員は愛想よい笑顔を見せ、店の奥の方へと戻って行った。


「まあ、あなたが協力しないというなら。それでもいいわ」


 先輩は、つまらなそうにコーヒーを飲んでいたのだ。


「あなたも飲みなよ。じゃないと冷めてしまうわ」

「……はい」


 隼人はコーヒーを飲んだ。

 でも、苦かった。


 もう少し違うのに、すればよかったかな……。


 隼人は先輩の様子を伺い、気まずい時間を、あともう少しだけ過ごすことになったのだ。

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