第10話 生徒会長、今日はこれで勝負しませんか?
街中のハンバーガーショップ。
そこで、真理と菜乃葉がチャラそうな陽キャらに絡まれていたのだ。
先輩は普段からリーダーシップのある姿勢が目立ち、なんでも積極的に対処してくれる。
隼人は、彼女らのために何もできなかった。
そんなことを思いながら店屋を後に、帰路についていたのだ。
夕暮れ時。
三人は自宅にいるわけだが、少々騒がしくなっていた。
真理と菜乃葉のやり取りが再開したからだ。
外にいる際は大人しくなっていたが、周囲の視線を気にしなくなると二人は競い合う。
「ちょっと、手加減してくれない?」
「それはできないです」
「何でよ。私は、このゲームの初心者なのよ」
「それでも、勝負は勝負ですから」
自宅リビング内。
二人は、ソファに隣同士で座り、ゲームコントローラーを持ち、テレビ画面を前に、格闘ゲームをしているのだ。
格闘と言っても、リアルな拳を使う方ではない。
ゲームキャラを通じて、拳を使った対戦をしている。
その格闘ゲームは、隼人も昔からプレイしていたモノ。
隼人は遠目からテレビ画面を見、二人のキャラが対戦する光景を眺めていた。
これ、どう考えても真理の方が負けだよな。
菜乃葉がコントロールしているキャラの方が強い。
先輩が操作しているキャラも弱くはないのだが、とにかく相性が悪いのである。
菜乃葉はそういうことを知っていて、対戦しているのだ。
なんか、幼馴染の闇を見ているような気がして、隼人は、内心恐れをなしていた。
「これで、私の勝ちねッ」
コントローラーを手にしている
ようやく終わったのか。
隼人は食事用のテーブル前の椅子に腰かけ、遠目で二人の後ろ姿を眺めていた。
「もう、なんで私ばかり負けるのよ。三回連続、私が負けとかおかしいでしょ」
「そんなことはないわ」
「……もしや、私が使っているキャラって弱いとか?」
「そんなことはないわ」
「そう……? でも、納得がいかないわ。もう一回勝負よ」
「いいわ。生徒会長だからって、手加減はしないから」
菜乃葉は年上に対して忖度するとか、そんな甘えたことすらしない。
全力でゲームをプレイしている。
なんせ、このゲームで勝った方が、隼人と一緒に過ごせる権利を得られるからだ。
それであれば、幼馴染はなおさら手加減する気などサラサラなくなるだろう。
「……絶対に裏があると思うわ」
須々木先輩はソファに座ったまま、ジーッとテレビ画面と睨めっこをし、新しくキャラを選んでいた。
「ねえ、生徒会長? もう決めたのかしら?」
菜乃葉は有頂天になっている。
連続で勝利を収めていることも相まって、上から目線で対応している感じだ。
「……まさか、そうなの……?」
真理は、真剣な表情を見せている。
深く考え込み、何やら脳内で作戦会議を立てているようだった。
「降参ですか、生徒会長?」
「いいえ、そんなことないわ。それより、今回は、あなたから決めたらどうです」
「え?」
「今まで、私が決めてから、あなたがキャラ選択をしていましたよね?」
「――ッ⁉」
菜乃葉は図星をつかれたかのように、ドキッとした表情を見せ、少々頬を汗が伝っていたのだ。
「どうしたのかしら?」
「いいえ、なんでもないですけど。まあ、いいですけどね。私から決めても」
「そう? なんか、先ほどまでの威勢のよさがなくなったような気がしますけど?」
「そ、そんなことないわ」
幼馴染は絶対に動揺しているのだ。
けど、隼人は余計なことを口にすることなく、ソファに座っている二人の後ろ姿を見守っていた。
「では、私は、このキャラで」
幼馴染が選んだキャラは、比較的スタンダード寄りの女性キャラである。
見た目は一見弱そうに見えるのだが、幼馴染が一番得意とするキャラなのだ。
全体的に見れば、そこまでステータスはないのだが、使い慣れているからこそ、菜乃葉からすれば、トップレベルに有能なのである。
「あなたはそれを使うのね」
須々木先輩は格闘ゲームすらまともにやったことがない。
どう考えても初心者であり、どんなキャラを選んでも、菜乃葉が選んだキャラに勝つことなんて不可能である。
「……これかな? ステータス的にも強そうだよね。これにするわ」
先輩はテレビ画面に表示されているキャラの説明文を見ただけで何かを察したようだ。
先輩がコントローラーのAボタンを押した瞬間、菜乃葉の表情が曇った。
「……」
菜乃葉は息を呑み、無言になっていたのだ。
「どうしたの? 表情が暗いわよ?」
「だ、大丈夫よ……」
菜乃葉の声は震えていた。
確かに、菜乃葉が選んだ女性キャラも強い。けど、それを上回るほどに、先輩が選んだ男性キャラも強いのだ。
これは、勝利がどちらに傾くか、非常に気になるところだった。
「菜乃葉? 勝負するわよ」
「……ええ、の、望むところよ」
菜乃葉は先輩に対して、威勢のいいセリフを口にし、自己暗示をかけているようだった。
テレビ画面上には対面するように、二人のキャラが向き合い。そして、スタートという大きな文字が表示され、戦いのゴングが鳴った。
格闘ゲームとしての対戦が今、始まったのだ。
遠目からでもわかるほどに、菜乃葉の手は震えている。
普段、隼人と対戦する時には見せることのない手の震え方だった。
確実に強者キャラを前に、戸惑っている。
先手。
生徒会長が操作するキャラの攻撃が、菜乃葉の女性キャラへとクリーンヒットする。
先輩は初心者というわりに、最初と比べゲームとして腕が非常に高まっているような気がした。
「……⁉」
「ねえ、菜乃葉さん? このままだと怪しくないですか?」
先輩の余裕のある声が、菜乃葉の心を襲う。
「別に、気にしてもらわなくても大丈夫ですから」
強気な姿勢でゲームと向き合っている菜乃葉。
菜乃葉は一度深呼吸をすると、コントローラーを手馴れた手つきで操作する。
幼馴染が操作する女性キャラの攻撃が、連続で先輩が所有するキャラへ打撃を与えていく。
優勢を維持しているのは、菜乃葉の方である。
このまま先輩が押し切られてしまうのだろうか?
遠目から見ている隼人も、ドキドキしていた。
この勝負で今日の夜、二人のどちらかと過ごすことになるからだ。
爆乳な先輩か。
ヤンデレになりかけている幼馴染か。
観戦していた隼人も手に汗を握る。
「この勝負、私の勝ちね」
菜乃葉が連続攻撃をするたびに、先輩はうまく操作できていなかった。
焦っているようだ。
「私も、ここでは負けられないのよ」
先輩は気合を入れ、多少がむしゃらに操作する。
刹那、画面上にキャラクターのカットインが入った。
「え……⁉」
菜乃葉が驚いていると、タイムアウトと画面上に文字が表示されたのだった。
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