第9話 こんなんじゃ駄目だよな…

「隼人、私の食べられないの?」

「た、食べるよ……」


 右隣から生徒会長の声が聞こえる。

 同時に、豊満な二つのモノが、崎上隼人さきがみ/はやとの腕を誘惑するのだ。




「隼人、こっちのもね」


 左からも、おっぱいが押し寄せてきていた。


 隼人は今、街中にあるハンバーガーショップにいる。

 が、ハンバーよりも柔らかいモノからの誘惑により、食事に全く集中できていなかった。



 店内は、夜に近づくにつれ人の数が多くなっていく。


 隼人は二人の美少女に囲まれ、ハンバーガーを食べているのだが、別の方が満たされていくようだった。


「ねえ、もっと食べてもいいからね」

「うん」

「おなか減っていたでしょ?」

「今日は色々と忙しかったからね」


 隼人は須々木真理すすき/まり先輩と簡単な話をしつつ、ハンバーガーの先端を口にした。

 先輩の爆乳を感じながらである。




「私の方もね」


 幼馴染の遊子菜乃葉ゆず/なのはから腕を引っ張られる。

 その直後に、シュークリームのようにフワッとしたおっぱいに左腕を包み込む。


「食べてばかりだとよくないし、さっき注文したメロンソーダでも飲も」


 菜乃葉はテーブルに置かれている紙コップを持ち上げると、隼人の口元へと近づけてくる。


 そのストローの先端が、隼人の唇に接触を果たす。


 隼人は唇でストローを咥えると、啜る。


 口内が満たされていく感じだ。

 潤っていき、幸せな気分になる。


 おっぱいの接触も相まって、その幸せな感情が高ぶっていくようだった。




「ねえ、ちょっと邪魔しないでくれない?」


 幼馴染との接触に余韻を感じていると、突然、先輩の声が響く。


「別にいいと思いますけど。元々、ここのハンバーガー店には、隼人と一緒に来る予定だったので」

「でも、独り占めはよくないわ」

「生徒会長こそ、今日一日中、隼人と一緒にいたじゃないですか」

「それを言ったら、あなた同じクラスでしょ? あなたの方が一番、隼人と長くいたんじゃないの?」

「それはしょうがないと思います」

「しょうがないって判断で、片づけないでくれない?」


 二人が口論を始めると、その間にいる隼人は、双方からのおっぱいに圧倒されることになる。


 おっぱいの弾力性を感じられ、幸せな気分になるのだが、女の子同士の口論に巻き込まれていると思うと、複雑な心境だった。






「では、ここで白黒つけた方がいいみたいね」

「そうね、生徒会長」


 彼女らの中で、何かが決まったらしい。


「隼人。君にもやってもらうことがあるわ」

「そうよ、頑張ろうね」


 双方から投げられるセリフ。


 これは禁断の扉が開かれたような合図かもしれない。


 逃れられない運命に今、隼人は巻き込まれているようだった。




「ゲームは簡単よ。隼人に心の底から楽しんでもらうこと。審判は隼人ね」


 生徒会長が仕切りだす。


「隼人、忖度とかなしだから。本心で判断してよね」


 幼馴染は、左腕に抱き着いたままだった。


 隼人の心臓はさらに激しくなる。

 嬉しい意味で息が詰まりそうになっていた。




「なんだよ、あいつ」

「そうだよな。俺らに、ああいうところを見せつけてくんなよ」

「不快なんだよな」


 店内から嫌みな言葉が、薄っすらと聞こえてくる。


 周りの人からすれば、隼人はまだ陰キャ寄りな存在。

 そんな奴が、女の子に囲まれて食事なんて不快以外の何者でもないだろう。


 隼人は胸元がズキッと痛み。

 そして、席から立ち上がった。


「どうしたの、隼人」

「席に座ってよ。隼人がどこかに行くなら、これ以上、進められなくなるじゃない」


 真理と菜乃葉の声が隼人の耳元に届く。

 でも、座ることはしなかった。


 一旦、気分をリセットしたいのだ。

 だから、少し席を外すと言って、そのテーブルから立ち去ることにした。






「こんなの、よくないよな……」


 美少女を侍らせて入店とか、その時点で陰キャの癖にと他人から言われてもしょうがないことだろう。


 隼人は店内の個室トイレにいた。


 周りから向けられる辛辣なセリフにより、隼人は悩みこんでいたのだ。


 幼馴染と一緒に過ごせたのは嬉しいことだった。


 でも、生徒会長と同居することになって、幼馴染との時間が奪われつつある。

 この環境を何とかしなければと思う。


 生徒会長は他人のことを思いやる人ではあるが、隼人を前にすると強引な性格になる。


 ここは隼人がしっかりと、生徒会長とはこれ以上付き合えないと告げるしかないと思った。


 隼人はトイレの個室から出、元の席へと向かおうとする。


 二人がいる席に戻ろうとすると、何やら雰囲気が違う。


 険しい感じであった。




「ねえ、可愛いじゃん。ちょっと、これから別のところに行こうぜ」

「その方がいいって。さっきの、あれさ。パッとしない陰キャみたい奴より、俺らの方がいいって」

「そうそう」


 チャラそうであり、あからさまに陽キャ間丸出しな男性が二人いる。

 その二人が、真理と菜乃葉がいるテーブルで絡んでいたのだ。


「私は結構ですから」

「私も、あの人じゃないとダメなので」


 ハッキリとした態度で断っている。そして、その二人には視線を向けていなかった。




 これって、ナンパみたいなもの?


 隼人は遠目からその光景を見て後ずさってしまう。


 隼人は陽キャとの関わり方なんて全く知らない。


 どうすればいいのか迷う。


 でも、真理と菜乃葉は困っているのだ。

 このまま見過ごすというのもできなかった。


 隼人は勇気をもって、一歩踏み出す。

 そして、チャラそうな陽キャらのところへと向かうのだ。




「す、すいません……」


 隼人は、彼らに向かって一言目を告げた。


 その瞬間、その二人の陽キャから嫌悪感を示される。

 結果として睨まれてしまったのだ。


「ん? お前、さっきの陰キャか」

「お前、この機会だ。こいつらと関わるのをやめろよ」

「俺らが代わりに付き合ってやるからさ」


 二人は隼人を馬鹿にするように言う。




 でも、ここで引き下がったら、すべてが終わる。

 隼人はそう確信し、さらにもう一歩踏み込んだ。


「すいません、俺の彼女なんで。勝手に奪うのは、やめてくれませんか……」


 隼人は言う。


 緊張し、少々声が裏返っていたが、何とか、自身の意見を貫き通したのだ。


「は? お前、調子乗りすぎじゃないか?」

「お前、ちょっと、外に出ろよ。しめてやるからさ」


 陽キャと言え、それなりに体力があるだろう。


 そんな二人と拳で対面するなんて、絶対に勝てない。


「おい、聞いてんのか?」

「陰キャ過ぎて、ビビってるとか?」


 陽キャらは、隼人のことを見て嘲笑っているのだ。


 やっぱり、ダメだと痛感した直後。

 椅子が倒れる音が響いた。




「なあ、さっきから聞いていたら、調子に乗ってんのは、お前らの方だろ」


 勢いよく席から立ち上がったのは、生徒会長だった。

 二人の陽キャと向き合っているのだ。


「お、おい、どうした?」

「さっきまで大人しめだったような」


 陽キャらは焦っていた。


「お前らさ、これ以上面倒になりたくなかったら、立ち去れよ」


 生徒会長だけあって、威厳のある話し方。


「す、すいません」

「お、おい、逃げるぞ」


 そのまま二人は逃げるように立ち去って行ったのだ。


 平穏な環境に戻ると、生徒会長は、隼人に軽く笑みを見せてくれるのだった。

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