第2話:魔法の才能(改訂版)



「─────僕は貧民街で生まれたんだ。

この世界なら大して珍しくないそうで、お母さんが言うには裕福な人より貧しい人の方が多いらしいんだ。

僕の、僕の生まれたダストという町は文字通りごみ溜だった。でも、家族が居れば幸せだと思ってたんだ。

お父さんは母さんと僕と妹と犬を養うために借金をしていたらしい。

ある日、お父さんが夜逃げするから急げって言ってきた。犬を置いて逃げたんだ。ジェン・バートン.....。凄い吠えてた。ジェンと離れるのは嫌だって妹が言うから父さんがジェンと一緒に置いてこうとした時はさすがに人の心あるのかなって思っちゃったり。ふふっ。

まぁ、そうして流れ着いたのが第二のごみ溜、トラッシュ。この町ってわけ。」

「ふーん...」僕の前には貧民街の子供が集まっている。皆真剣に話を聞いてくれた。他所から来る人から聞ける話はこの町から出られない彼ら彼女らにとって新鮮なんだろう。

「そういえばぼくのおとなりさんもおととい夜逃げしたって!」

「へーすごいね!」

「よくあるよね~」

(.......)

ここに暮らす人々には日常だった。

「そういえば、なんでダストが"文字通り"ごみ溜なの?」

「ダストってごみ溜って意味なの?」

「.....え?それは.....なんでだろ...。」


なんでダストがごみなんだ?そういう意味なのか?知らないぞ?この町では教養なんてものが身につくはずがないから...

...これまでの世界で学んできたのか。


物心着く前から頭の中に浮かんでいた言葉がある。「今世が最後」という言葉。これはまだ十歳の僕にはしっかりと理解できないけれど、なんとなくで分かる。

"今世"が最後なら"前世"はあった。しかも複数。これまで何度も人生を歩んできたという事だ。じゃないとこんな言葉が頭の中に浮かぶわけがない。

気になるのは「最後」という事。これは昔、何か...検証した...?何かした気がするけど思い出せない。小さい頃の記憶なんか覚えてない。

「知~らね!それよりマホーやろ!マホー!」

「おーいいね!本は?」

「ここに」

魔導書。トラッシュの町で落ちているのを拾った。トラッシュは魔法国家ウェントルプの中にあるので、捨てられたゴミが流れ着くことがある。それが魔法の杖だったり魔導書だったり何らかの魔法が付与された道具だったりする。

僕は魔導書を、周囲の皆に見えるように開いてあるページを指した。そこには「空を飛ぶ魔法」と書かれていた。

「ねぇ、なんて書いてあるの?」

「空を飛ぶ魔法だって。」

ここにいる僕以外は、言葉を喋れても書いたり読んだりができない。僕は多分...前世で学んだのだろう。

「空を飛ぶ魔法!?すごーい!できる?」

「うーん...えっと...い、イード?...らい.....ど?」

唱えたが、僕の体は全く浮かなかった。


✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤


僕の名前はエンド。妹はケイト。犬はジェン・バートン。いやなんで犬には苗字があるんだ。

...いや、それは置いといて、僕は最近この魔導書に「死んだものを復活させる魔法」が書かれていることに気づいた。つまり、この魔法を使えるようになってダストの町に戻ることが出来ればジェンを甦らせられる。(ご飯を与える人がいなくなったので死んでいるはずだ。)

どうしてジェンを、復活させたいかというと...

「うわぁぁぁぁぁん!!ジェェェェン!!!」

.....ケイトがうるさいからだ。

ケイトはトタンでできた我が家の2階から降りてきた。泣きながら。

「お兄ちゃん...ジェン.....」

「ジェンもういないよ...」

「うわぁぁぁぁぁあぁあん!!!」

(う、うるさい...。ケイトの泣き声はこのトタンのボロ屋を壊しかねないほどうるさい...。)

「でも、安心しなよ。生き返らせることが出来るかもしれないよ。」

「え.....?ジェン.....死んじゃったの...?」

「餌あげる人がいないんだから死んじゃうでしょ。」

あ、また泣きそう。

ケイトが今にも泣きそうになったので、先程まで開いていた魔導書を見せた。

「これ!これで生き返らせることができるから心配いらないって。」

「うわぁぁぁぁぁあぁあん!!!」

彼女は更に大きな泣き声を上げた。

...もう、どうやったら泣き止むのか分からない。

ケイトは今年で六歳になる。

そして、彼女には僕と違い、類まれな魔法の才能がある。

生まれた瞬間、彼女は自分に結界を貼る魔法を使った。おそらく身を守るためだ。所詮赤ん坊の魔法なので簡単に壊れたが。

そして二歳の時、言葉を理解していなくても魔導書に目を通すだけで無意識的にその魔法が使うことが出来た。

今は自我がハッキリしてるので、無意識下での魔法の行使はほとんど行われていない。

一方、僕には魔法の才能がない。(ついさっきも空を飛ぶ魔法が全く発動しなかったし。)

これは現時点で分かってることなので、もしかしたら他の才能があるかもしれないし何も無いかもしれない。現状で言葉を読み書きできるのはここのごみ溜の町だから価値があることで、きっと都市まで行けば誰でもできることだ。

ケイトはきっと大成する。それに、あいつも.....。

だから、それまで何も才能がない僕は、才能がある彼女たちに恩を売りまくろうと思っている。我ながら姑息だと思うけれどあまり抵抗がない。きっと僕は前世からこんなやつなんだろう。

そんな事より、ケイトをなるだけ早く大成させなければいけない。人生はこれで最後で、短いものなのだから。

ケイトは今、魔術に全く触れていない。僕が魔導書を見せようとしても、人形遊びの方が興味がそそられるようだ。


僕が、無理やりにでも魔術に興味持たせてやる。

そのためにも.....

と、考えていると夕方になり、お母さんが帰ってきた。お母さんは水や調味料、薬草などを調達しに、日々森や湖に行っている。お父さんは狩りに行って、肉などの食料を調達している。一回僕も狩りに行ったことがあるけれど失敗した。僕には狩りも出来ない。

一応、聞いてみるか。

「お母さん、ダストの町に行ってもいい?」

「え?だめだけど?」

身も蓋もない...。お母さんはそう答えると、さっさと夕飯の支度を始めた。

お母さんが帰ってきた数分後にお父さんが帰ってきた。片手に剣を、片手に鹿を持っている。

一応、聞いてみるか。

「お父さん、ダストの町に行ってもいい?」

「あー...うん、いいよ」

身も蓋もな...え?今、「いいよ」って言った?え?あんたの借金のせいでここまで来たのに?

...いや、借金したのは僕達のためだったな。っていうか鹿取って来れるなら借金とかする必要なかったじゃん。普通に生活できるじゃん。

と、そのやり取りを見ていたお母さんがお父さんにコソコソと話しかけた。

「あんた.....え?も.....の?」

「あぁ...準備...出来......。ライ.....に...。」

上手く聞こえない。準備が出来た?どういう事だろう。元から戻るつもりだったのか?

話の終わったお父さんが僕に言った。

「ただし、一週間後だ。それまでに友達さよならを言ってきなさい。」

そう言ってお父さんは上の階に行った。後を追うようにお母さんも階段を登って行った。後に残されたのは僕とケイトだけだった。ケイトは寝てる。

(なんだろう...二人が隠していること...)

エンドの両親が隠していることは、果たして彼にとって良い事なのか悪い事なのか...。


───────良い事な訳がないだろう。

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