第3話:秘密基地じゃなくてシェルターじゃん…!
翌日、とりあえず僕は広場の友達に別れを告げることにした。
広場はトラッシュの町の民の憩いの場である。そこは円形の平地で、その周囲には家が連なっている。ここを僕達、"ごみ溜の子供達"は遊び場として利用している。
家から走ってきてやっと広場が見えてきた。あいつらもいる。
「あ、おっそいよエンド〜今日何する?」
「あ、あーあのね、僕1週間後にここを発つことになっちゃった...」
「え!?ほんとに!?もうマホーも見れないの!?夜逃げ?」
「僕が魔法出来た時なんて数えるしかないよ。あと、すぐ帰ってくる予定。」
そう、僕がダストの町まで行く理由はケイトに魔法に興味を持ってもらいたいからだ。
一応僕が考えた作戦はこう。
①ダストまで戻る
②そこでもう死んでいるであろうジェン・バートン(愛犬)をケイトの目の前で生き返らせる
③ケイトはジェンを失った悲しみから救ってくれた魔法について興味を持つようになる
あれ、完璧じゃない?ジェンがどこにいるかによる(どこに埋まってるかによる)けれど。
あ、これジェンを探すのが1番難しいかもしれない。...家に帰ったら捜索に便利な魔法を調べとこ...。
「だから、心配しないでね」
そう言うと、この"ごみ溜の子供達"のリーダー的存在のテレーゼという女の子が
「何か、贈ってやるわよ。」
と言った。
「まだ早いよ?」
「あんたが居なくなるってことは妹ちゃんもいないってことじゃん。」
テレーゼはケイトの事をかなり気に入っている。単純に可愛いからだ。ケイトは現時点でも分かるくらいに顔がいい。いつ誘拐されてもおかしくない。
「あくまで僕の心配はしないってこと?」
「あーするする、するから、妹ちゃん連れてきて。あの子、私の歌聴くとすんごいいい顔するから。」
あの子のその顔が少しの間でも見れなくなるのは寂しいから、今のうちに堪能しときたいの。
と、テレーゼは言った。
✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤
僕は泣いていた。
僕は、この町に来た頃は知らないことばかりで不安だった。
今はゴミが大量に積み上がった所で迷子になって泣いている。
「泣いてんの?」
女の子の声が聞こえる。顔を上げると、そこには自分と大して変わらない位の歳の女の子がいた。しかし、自分より遥かに大人びている。
僕はそれに返答できずにいる。それを見かねた彼女は言った。
「仕方ないなぁ...」
そして、彼女は目の前に積み上がったゴミの上で歌い始めた。
その歌は僕の悩みを全て打ち消す勢いで...この町全体に響いて...。
僕は泣いていた。
不安だから泣いてる訳じゃない。
僕は彼女の歌に感動して泣いていた。
彼女は歌唱の才能を持っていた。
彼女は盛り上がってきたのか、不安定な足場なのに踊り始めた。
案の定、ゴミ山から落ちた。
「いてて...」
「大丈夫?お姉ちゃん。えーっと.....癒えよ」
最近拾った本で今のところ唯一使える魔法だ。対象の傷を癒す魔法。それによって、彼女の負った傷を瞬時に癒した。
「俺、これだけはなぜか簡単にできるんだよね」
彼女は、「ありがとう」と言って、僕も「こちらこそ歌をありがとう」と言って、そこを後にした。
.....この後再び道に迷って、夜になって探しに来た親に保護された。
✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤
テレーゼに言われたのでわざわざここから遠い家までケイトを呼びに行った。家に入ると、ケイトはリビングで何かを書いていた。僕はそっと後ろから覗いたが、「見ないで!!!」と叩かれたので、後でケイトが寝た時に見ようと思った。
「あ、ケイト、広場でテレーゼ姉が歌を聞かせてくれるって...一緒に行く?」
「んーーーーーーあとで!」
意外だ.....ケイトは好きな物には目がないのに...。テレーゼの事、あんまり好きじゃないのかな。片思いだね、可哀想に、テレーゼ姉。うん、可哀想に。
✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤
「え?連れて来れなかった?は?」
そう言うと、テレーゼは僕を蹴り上げる。僕は宙で一回転して地面に激突した。
「な...なんで...蹴る...?」
「だってそりゃ、あの子が居ないと楽しくないじゃない」
「け、蹴る意味...」
これが彼女が周囲を統率できている理由だ。単純に力が強い。誰も歯向かえないのだ。歯向かおうとする人がそもそも居ないけれど。
「ま、今日は解散ね。もう遅いし。」
「えー僕達何もしてなーい」
「帰りなさいよ。誘拐されちゃうわよ?」
そう言われた子供達は渋々帰路に着いた。
「あんたも帰りなさい。」
「え!?僕、行って帰って行って帰るだけ!?今日それだけ!?えぇ!?もう1週間しかここにいれないのに!?」
「すぐ帰ってくるんでしょ。」
「それはそうだけど。」
「おい、あんまりテレーゼ姉を困らせるなよ?」
そう言ってテレーゼの後ろから出て来たのはテレーゼよりも身長の低い、僕よりも少しだけ低い男の子。常にテレーゼの後ろにいて、木の棒を剣みたいにしている男の子。子供達のグループをテレーゼと一緒に率いている男の子だ。名前は.....忘れた。
「お前が余所者だからちょっと優しくしてるだけだぞ?」
「はいはい、ナイトくん。」
「ちょっテレーゼ姉、やめろってそのあだ名!」
「え?ナイトくん?え?おもろ」
「おもろくねーよ!!」
「おい!!いい加減黙らんかい!!はよ帰れ!」
おっと、ここの辺りで有名なすぐ怒るおじさんに叱られてしまった。僕はテレーゼと金魚のフンくんに別れを告げ、足早に帰った。
✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤
その翌日、僕が起きた時、ケイトは家にいなかった。僕はいつも昼間に起きるから僕以外全員いない時もある。
ベッド(布があるだけ)から起き上がると、ドンドンと扉を叩く音がした。やめて、叩きすぎ。この家が壊れる。
そもそも、この家には鍵なんてないので僕の知り合いなら普通に入ってくればいいのに。
そのことに気づいたのか、扉を叩いた犯人は無断でお邪魔してきた。僕の家の1階はリビングとトイレとキッチン(区分けしているだけで設備とかは何も無い)しかないので、ズカズカと2階まで上がってきた。やめて、慎重に歩いて。この家が壊れる。
そして、僕の部屋まで入ってきたそいつはなんと金魚のフンだった。今日も木の棒を持っている。
「おい!エンド!早くこい!」
「え?金魚のフン...だっけ?何かあったの?」
「金魚ってなんだよ...魚か?...って誰が糞だよ!?」
まずい、また前世の記憶だ。最近になってよく出てくるようになってしまった。抑えておかないと。
「ごめんごめん、名前覚えてないから。ていうかなんでここに?」
「俺の名前はリュウジだよ...。お前の妹が大変だから早く来い」
「え?大変ってどう大変?まさか誘拐!?」
「違う!ケイトが暴走してる!」
(え、えぇ!?暴走!?なんで、どうして?)
焦る僕を見かねて、リュウジは「とっとと行くぞ」と、僕の手を引っ張って連れ出した。
「ま、まって。あー、あの!まどっ魔導書を」
「置いてけそんなの!早く!」
おそらくケイトの暴走はケイト自信が自分の保有する魔力に耐えられなくなって起こっている。魔導書があっても何も出来ないかもしれないが、ないよりマシだ。
と、思ったが案外リュウジの力が強すぎて、地面をずるずると引きずられる形でケイトの元へ連れていかれた。
「そろそろ着くぞ!おまっいい加減立て!」
もうすぐ着くらしいが、ケイトの暴走のような痕跡は見られない。彼女程の魔力が暴走しているなら竜巻が3個くらい出来てたり雷が落ち続けているはずだ。
「こっちだ!この裏!」
そう言われて僕はテレーゼと初めてあった場所のゴミ山の裏に連れてこられた。
そこにはテレーゼだったり他の子供たちがいた。皆が何かを手に持っている。
(これって...プレゼントを渡す口実にケイトが暴走してるって言って連れ出したのか...!)
それにしては皆やや困惑した表情でいる。
テレーゼが口を開いた。
「あの、ね。プレゼントを渡そうと思って.....ケイトを先に呼んだんだけど...」
そう言って彼女は横にずれ、奥にある穴を指し示した。
「え?なにこれ?」
「いいから、早く。」
穴の手前まで来ると、階段が作られているのがわかった。そして、その穴はかなり深くまで続いている。何か、松明だろうか?壁に光る何かがあるので、中は比較的明るそうだ。
僕は彼女に「早く。」と急かされ、穴の中に足を運んだ。
✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤
「うわ!これなんだ!?ただの紙に文字が書いてある?剥がれないし光ってるし.....松明じゃなかったのか!」
僕は穴の中に入ってすぐ、壁に貼られてある紙に興味津々になっていた。
「全然剥がれない......あ!爪の間に土が!」
慌てて爪の間の土を取る。僕はこの紙に目を輝かせていた。
(おそらくこれはケイトの魔法だな!昨日帰った時に作ってたものか...?すると、この穴の先にケイトがいるのか!ていうかケイトが掘ったのか!この穴を!すごい!)
やはり、彼女の魔術の才能は本物だった。
「...早く進んでくんない?」
おっと後ろがつっかえてた。早く進まないと...。
というか、ここは崩落しないのかな?案外大丈夫なのかな?何か対策した方がいいんじゃないかな?
「そろそろね」
階段は終わりに差し掛かっていた。現在、ここにいるのは僕とテレーゼとリュウジのみで、他の子供らは外で待っている。危険かもしれないからだ。
「...着いた。」
階段を抜けるとそこにはかなり広い空間があった。この空間の壁や天井にも先程見たのと同じ紙が貼ってある。
ケイトはこの空間の真ん中にいた。空中だ。浮いている。いつの間に浮遊の魔法を覚えていたのか。
「ケイト!?これなに!!」彼女は空中にいるのでかなり大きな声を出さないといけない。
「あ、お兄ちゃん。あのね、作った方がいいと思って。」
話が見えてこない。まぁそれもそう。まだケイトは今年で6歳だ。精神年齢が低いからな。とりあえず、ケイトがこんなのを自主的に作るなんてありえない。
「誰に頼まれたの!?」
「頼まれてない!!お母さんが言ってくれたから」
「なんて言ったの!?」
「あたしがね、秘密基地欲しいって言ったらこことかどうっておやまの後ろを教えてくれたの!」
多分、お母さんはゴミ山の裏自体を秘密基地だという体(てい)で紹介したんだろう。まさかゴミ山の裏を掘って作るとは...。
「あのさ!階段長すぎ!もっと短く出来ないの?」
「だって、お母さんが秘密基地は本来、だれもいない小屋とかだって言ってたから...小屋みたいに屋根が欲しいなって!」
「小屋作れよ!まぁいいや。ていうかこの一面に貼られてる紙は何?」
「明かりと補強のためのやつ!必要かなって思って。」
「必要かな」で簡単に作れるものじゃない。紙っぺらに光る魔法と周囲を補強する魔法、そして剥がれなくする魔法の3つをかけている。普通なら紙が術式に耐えきれずに散り散りになる。これが才能か。
「まぁいいよ、でも空間だけあってもね...」
すると、ケイトがやっと地上に降りてきた。そして、持っていた小さな袋から色々なものを取り出し始めた。
「......?拡張魔法?」
「かくちょうまほう...って言うの?確かに袋の中にいっぱい入るようにしてるけど...。」
無意識!?なんだこいつ天才すぎかよ!?
いや、さすがにそれはおかしい。魔導書によると、魔法は言葉を媒介して効力を発揮するもの。人の言葉の力と自身の魔力によって初めて魔法を行使できる。人の言葉はかなり強力なので大抵の魔法使いが詠唱を必要とする。莫大な魔力がない限り...。
うちの妹、強すぎる。
ケイトはあらかた色々なものを取り出し終えた。大量の水や食料、申し訳程度の家具だ。
家具は分かる。しかし、どうして水と食料?しかもかなり多い。子供達がこの空間で1ヶ月は過ごせるくらいにある。
「どうしてこんなに水と食料を?」
「...お母さんが、"準備だ"って。」
「何の?」
「わかんない。でも、もうすぐだって言ってた。あたしはお母さんが水と食料を秘密基地に運びなさいって言ったから運んだだけ。」
何だ?これは、ケイトの暴走は、ただ単に、衝動的に、秘密基地を作ったってだけじゃないのか?裏に何がある?
地下.......大量の食料と水......大人数が入れる空間......。
「シェルターだ......ここはシェルターか...!秘密基地じゃなくてシェルターじゃん...!」
「え?シェルター?」
「あっ、シェルターっていうのは秘密基地の上位互換みたいな感じで、災害とかが起きたら避難する場所だよ。」
「そうなのね」
ずっと黙って僕とケイトの話を聞いていたのに急にテレーゼが口を挟んできた。前世の記憶だから、揚げ足取るな。
「で?そのシェルターをなんで妹ちゃんが作ったの?」
「......おそらく、全部裏でお母さんが糸を引いてるんだと思う。」
ケイトの行動を知り尽くしている。というより知りすぎている。異様なまでに。親だから?いや、さすがに度が過ぎてるし...。とりあえずお母さんの頭が良いことがわかった。
問題は、なぜシェルターを間接的にでも作らせたのか、だ。戦争でも起こるのか?
...
......
.........
「考えても無駄だ。よし!リュウジ!みんな呼んできて!ここでプレゼント寄越して!」
「お前、図々しいな...普通自分で言うか?」
「いいじゃん、元からそのつもりだったんでしょ?」
「え!?プレゼント!?やったぁ!」
先程までと雰囲気が変わり、ケイトは急に6歳児のようになった。実際6歳児だった。
その日はみんなでワイワイして、テレーゼは歌を歌って、楽しい1日だった。帰りが遅くなって怒られたけど。
✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤
それからは時が経つのが早く感じた。みんなで秘密基地に集まってどんちゃん騒ぎ。地下にあるのでうるさくならず、周囲に迷惑をかけることの無い環境で、僕達は思いっきり遊んだ。最近広場で遊んでないせいか、この辺りで有名なすぐ怒るおじさんが「やっぱり、広場で遊んでくれんか...?」と言ってきた。聞くところによると、ごみ溜の町で暮らす未来のない人々にとって、子供の元気そうな声が唯一の未来を照らす光だったとかなんとか。ま、秘密基地のほうがなんかワクワクするから広場には行かないんですけどね!
そして、別れの日の前日。テレーゼから何か話があるということで路地裏に呼び出された。告白ですか?
「私も一緒に行ってみたいんだけど、いい?」
あー...はいはい知ってましたよ。僕に告白なんてするわけないですよね。
「それは、聞いてみないとわかんないな...。」
「いいよ。」
「え!?お父さん!?」
「路地裏にいるのが見えたからね、犯罪に巻き込まれてたらって思って来たんだよ。」
相変わらず過保護だ。この人は家族優先で色々な物事を考えるから...優しいんだけどもちゃんと先の事を考えているのかと不安になる。
「あ、初めまして。テレーゼと言います。」
「ベイルです。初めまして。息子がいつもお世話になってるね。」
「テレーゼの事、知ってたくせに...。」
「え?」
「どうせお父さんは過保護だから見えないところで見てたんでしょ?」
「.....よく分かったな。」
これで一応、ダストに行くのは僕とテレーゼ、ケイトになった。お母さんもお父さんも行かないんだとか。「お前なら大丈夫!死にゃしない。」と言われたけどかなり不安だ。
やがて、別れの日がやってきた。
ここからダストまではかなりあるので馬車で2日くらいかかる。
ここには僕とテレーゼ、ケイトと両親しかいない。誰か見送りに来るかと思ったけれど、どこから出発するか知らなかったので場所を伝えることが出来なかった。
「.......ということで、.......は.......でお願いね。」
「しっかり.......して.........しておきます。」
馬車の運転手とお父さんが会話しているのが微かに聞こえた。
「ねぇ、ダストに向かうわけだけどさ、なんでテレーゼは来たがったの?」
「妹ちゃんが生まれた所を見たくてね...。」
「僕も生まれたからね?」
「では、出発しますよ」
馬車が動き始めた。
「「お父さん!お母さん!行ってきます!」」
僕とケイトは馬車から身を乗り出してそう言った。
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