神の使いに、「あなたの人生はあと一生です。」と言われたから、これまで500回転生を繰り返してきた俺は最後の人生を平和に、豊かに過ごそうと思ってはいる。
第19話:出る杭は打たれず、確かな凹凸を残し、人を傷つける武器となる。
第19話:出る杭は打たれず、確かな凹凸を残し、人を傷つける武器となる。
あれから、ジェンが何かアクションを起こしてくるかと思ったけれど、別にそんなことはなく、今日はもう帰る時間になった。最初の登校なので午前日課だそうだ。
とりあえず、この件は持ち帰ろう。そして明日、どういうわけなのか説明してもらおう。と、考えた。正直に言うと、あんなに激怒している相手を前に、僕は怖気付いたのだ。多分、明日も僕からは何もしないだろう。
ケイトは授業が終わると同時に彼に話しかけていて、彼も楽しそうに話していた。ケイトも彼を、結果としては捨てたというのに。
僕は立ち上がった。そんな僕の後ろをテレーゼがついて歩く。
「あのジェン・バートンって子と昔何かあったの?」
何かあったのどころでは無い。彼はもはや家族だった。思い出は曇りがかってよく見えないけれど、でも大事な存在であったのは確かだ。
だがしかし、それは犬である彼だ。獣人である彼では無い。
そう思うと、何かあったの?という質問には、はっきりと自信を持って答えられるかは不安だ。
そもそも、だ。彼が本当にジェン・バートン(元飼い犬)であるのかは不明だ。僕は名前と好きなものと嫌いなもので判断したに過ぎない。学校に来る以前の段階で面識がなければ、僕達を名指しできるはずがないと考えたが、それも名前さえ分かればいいので、自己紹介の時に覚えられていたら僕達は別に名指しできる。
問題は、どうして僕達なのかだ。これは人ジェンが犬ジェンと同一であれば簡単なことで、単に捨てた恨みによるものだと考えられる。同一でなければ.....僕には考えがつかない。
「無視すんな( ー̀༥ー́ )」
「あ、ごめん。」
とりあえず、今日は帰る。
と、校門を出た瞬間、とある考えが浮かんだ。
しかし、それは別に今でなくてもいいと思ったので、明日実行することにした。
✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤
場面はエンドらが帰った後の教室に移る。彼は以前、自分の妹が無事に帰ってこられた経験から、ジェンと話していた彼女を置いていった。
教室には二人しかいない。ケイトとジェン・バートンだ。
兄から死んでいると告げられていた愛犬に再会できたのだから、ケイトはそれはもう喜んでいた。彼にこれまであったことを全て話した。心配しなくても、この部屋に誰もいないのは彼女が把握している。
彼は「へぇ」とだけ言って、席を立った。
「ねぇ、帰ってくる気は無い?」
「帰る?俺の帰る場所は他にあるよ。」
お前達が置いていったんだろ、とでも言う勢いだ。もちろん、彼は心の中でそう思っていた。が、ケイトは彼を置いて行くことに抵抗していたので、他のクズ達とは違うと考えているのだ。
「そう...」
「うん。」
二人はそれ以上、何を言うでもなく帰路に着いたのだった。
✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤
僕とテレーゼは平原の家へと戻った。学校から歩いて二時間以上かかる。次からは馬車で帰ろう、と心に誓った。
家に帰り、手洗いうがいをして自分の部屋に入った。
さて、思考の時間だ。
最近、僕はこの言葉を頭の中に浮かべてから思考している。かっこいいからとかじゃない。決して。
この言葉を頭の中で唱えると調子が良くなる気がするのだ。決して、かっこつけてるわけじゃない。頭の中で誰に向かってかっこつけるというのだ。
話が逸れた。思考の時間だ。
僕はベッドに寝転がった。
はぁぁぁぁぁぁ
僕、明日どうなっちゃうんだろ......腕っ節弱いし...魔法も満足には使えないし...だってジェン・バートンってあの時、ケイトの魔力の比較に使われてた「犬」だよな...?それ以外に犬なんて見たことないし。まぁ、飼ってた時からジェンの魔力量は大きいなって感じてたしなぁ...。本で見た獣人は、身体能力が人より優れてるみたいだし...。
打つ手なし。万策尽きる。ゴートゥーヘブンだ。
僕はとりあえず、謝るだけ謝って許してもらおうと思った。
.....そんな簡単なことじゃないと分かっているけども。
✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤
朝から僕はジェンの元に向かった。
「ジェン、ごめん!」僕は彼に向かって大声で言った。
「本当にごめん!置いてって!あれは親に言われて仕方なくだったんだけど本当にごめん!僕には選択の余地がなかったけどごめん!怒るんなら僕の親に怒って欲しいんだけどごめん!」
「謝る気ある?」
「謝ってるじゃん!」
謝る気ある?と言われても、これが事実だし、語尾にごめん!ってつけてるから謝ってるに決まってるだろ。
本当に仕方なかったとしか言いようが無い。
朝からこんな騒いでいたら、もちろん周囲に人が集まってくる。しかし、前日の自己紹介の件もあってか、皆「あぁ、あのことか」みたいな風に納得して解散して行った。
僕としては、注目を浴びて「こんなに謝ってるんだからさすがにジェン君、許すよね.....?」という思いをクラスメイトに芽生えさせたいなと考えていたのだけど、それで禍根を残さずに争いを終了させたかったのだけど。
案外上手くいかないもんだ。
「いやさぁ、誠意がないよ。誠意が。謝罪するなら誠意を見せてくれない?」
急に彼は足を組んで偉そうな態度をとってきた。数年前まで僕の家のペットだったくせに。
「あっそ。じゃあ戦争だよ。僕がこんなに謝ったのに、許さなかったことを後悔しないでよね。」
そう言って、僕は自分の席に向かった。
なぜだか僕は、彼に対しては強く出ることが出来た。おそらく、彼を昔飼っていたという事実によるものだ。僕が飼い主だぞという認識が、飼い犬に強く出るのに促進的に作用した。
授業中、早速僕の嫌がらせが始まった。
ジェンがノートに板書の内容を書き写している。彼が使っている黒い鉛筆を、転移魔法で机の上の赤い鉛筆に入れ替えた。
当然、彼はそれに驚く。字が途中から赤くなっている。
勘違いだと思って赤鉛筆を置き、黒鉛筆でまた書き始める。
そこで再び入れ替える。
彼は、獣人の自慢の身体能力で鉛筆をへし折った。
(なにこれおもしろ...)
「エンドくん、これを解いてみなさい。」
黒板には誰でも解けそうな簡単な数式が書いてあった。遊んでいた僕の不意打ちを狙ったんだろうけど、そうはいかない。
「2です。」
僕はその場で答えた。
「はい、正解。えーそして、」
先生は何も動じず、授業の続きを始めた。つまらないな。つれないな。
授業終了のチャイムが鳴った。と、同時にジェンが僕の方へ来た。
「おい、お前だろ。」
「え、何が?」
「とぼけんなよ!」
彼は声を荒らげた。何故か、リュウジのことを思い出した。あぁ、あいつもこうやって声を荒らげてたなぁ...。
「そういう言いがかりはやめてよ。いくら僕のことが嫌いでもさ。」
「お前さぁ!」
「二人とも!こっちに来なさい!」
と、白熱してきたところで先生が口を出してきた。
「だってこいつが.....」
「いいから!早く来なさい!」
先生が僕達の腕を掴んでグイッと引っ張った。僕達はあっけなく教室の外に連れていかれ、職員室のすぐ近くにある来客用の部屋に通された。
「おい、ジェン、お前のせいだぞ。」
「ちがう、ちがうって。」
おー泣きそうだ。これが本当の十歳児か。
と、感心していると、担任がこの部屋に入ってきた。
「ねぇ、一体何があったの?教えて?」
すると、ジェンが涙で濡れた目を擦りながら僕を指さして、
「こいつが授業中に変なことしてくるから!」
と言った。
「いや僕何もしてないって!席も真反対だよ!?何か出来るわけないじゃん!」
「そうね、でも、本人はそう言ってるの。ここは二人ともがお互いに謝って、それで終わりにしない?」
何を言ってるんだろう。この人は。
と、一瞬思ったが、これは案外ありかもしれない。というか、この選択じゃないと僕のこれからの生活に支障が出る。
「ジェン君、ごめんね。」
心にもないことを言う。ちゃんと僕は宣戦布告したのだから、それに相対できるはずなのに、彼はそれをしなかった。それが悪いと思うのだけど。
まぁ、嫌がらせは事実なので謝る他ないが。
「エンド君、ごめんね。」
笑える。先生には逆らえないんだ。
僕は、また偶にこれやろうかな、と思った。
✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤
「ごめん、勘違いしてた。」
全く勘違いではないけど、ジェンは僕に謝ってきた。
「いーよいーよ。それより、僕がお前を置いてった事、許してくれない?」
「...うん。」
単純すぎる。犬かってくらい単純だ。犬なんだけど。
ということで、僕と彼の戦争は終わった。規模が小さすぎるけども。
これから始まると思っていた波乱の一年も、一日で終了してしまった。
─────と、思っていた。
僕達は教室の扉を開けた。級友は皆、こちらを見るなり目を逸らした。
ひそひそと話し声が聞こえる。
変だね。こわいね。頭おかしいよ。どうかしてる。
とりあえず、近寄らないでおこう。
それは編入直後に始まった。ジェンや僕、僕に関わっていたケイト、テレーゼらを少しずつ避ける風潮。初日から騒いで、その翌日に喧嘩して、そんな奴らに関わりたいと考える人がいるだろうか。そんな奴らと関わっている人に、関わりたい人がいるだろうか。辛うじてテレーゼには友人と呼べる人物が数人は出来たが、それ以外の三人には出来なかった。
出る杭は打たれず、確かな凹凸を残したまま。
新たな嵐を迎える。
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