第18話:どんがらがっしゃん
この学校、実はれっきとした名前があった。ただ単にライベールがアホなだけだったのだ。その名もラーラード国学校(エンドが考えたのと同じ)、そこは七歳から十八歳までの子供に教育を受けさせることができる施設である。この校舎は初等部、中等部、高等部それぞれで別れており、そのためとても大きい。初等部では基礎数学や言語、社会常識などを学び、中等部でその応用、高等部ではさらにその応用、そして専門的な知識を学ぶのである。
しかし、三つに別れているとはいえ、学校自体を取りまとめる責任者はただ一人。
そう、彼女───
「ぐわぁぁぁぁぁー!?!?!?」
そう悲鳴をあげたのは、正しく現在紹介されそうになっていた校長の───
「どうかしましたか!?カーション先生!?」
彼女の悲鳴を聞き、校長室の扉をバンッと開けたのは副校長のクロノス・ダッフルである。
彼は机の前でふんぞり返っている彼女を見た。
「え!?本当に何があったんですか!?」
彼女はゆっくりと姿勢を正し、手に持っている紙を彼にみせた。
「編入試験の結果だ.....。」
彼はそれを手に取って流し見した。
「あー満点ですね。まぁ、普通じゃないですか?これって中等部二年の編入試験ですよね?」
「違う、初等部四年だ。」
「えぇ!?」驚くのも無理は無い。初等部と中等部では内容が全く違うと言ってもいい。というか、中等部は初等部で学んだ全ての応用であるので、基礎ができていないと話にならない。つまり、この答案を書いた人物は基礎を全て押さえ、なおかつ中等部一年の応用の内容まで理解しているということだ。
「嫌がらせのつもりだったんだがな。」彼女はそう言う。
「嫌がらせ?どうしてそんなことを?」
「嫌いな奴の子供だからだよ。」
ちゃんと点取り問題は用意してあるし、元から入れるつもりなのでこんなことは意味が無かったのだが....
「まったく、あいつの子供ならもっと凡じゃねぇとダメだろ。」
そう呟いて、もう一つの答案用紙を見る。
彼は、彼女が手に持っている五枚の用紙から編入生の人数を判断した。
「あーそういえば初等部の編入生は五人なんでしたっけ?他の子のテスト結果も見せてくださいよ〜。」
「馴れ馴れしいな。語尾を伸ばすな。私の嫌いな奴みたいで鳥肌が立つ。」
「ちょっと調子乗りました。」
「では、失礼します。」と、彼は校長室を出ようと歩き出した。
その背中に向かって彼女は言う。
「今年の編入生は五人では無いぞ。私の持つ用紙で判断したのなら、それは間違いだ。」
彼は足を止めて振り向いた。
「じゃあ、なんで五枚もあるんです?」
彼女はふふっと笑った。
「とんでもないバカがいたからだよ。本当に、とんでもないバカ。でもそれと同時にとんでもなく頭がいい。編入が決まった瞬間に、昇級試験を受けに来たやつがいるのさ。しかも二回だ。だから五枚なのさ。」
✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤
「ケイト?ケイトの教室はあっちじゃないの?」
4-3の教室の前で、三人は担任に呼ばれるのを待っていた。授業の前に僕達の事をクラスメイトに紹介するそうだ。
ケイトは「ふーん」とだけ言った。
「ふーんって何だよ。」
「ふーん」
「.....まぁいいや、一緒に入って怒られるのはケイトだからね?」
「ふーん」
なんかちょっとうざい。
この時点で、ケイトは心の中で大爆笑しているのだが、そんなことを僕は知る由もない。
教室の扉が開いた。
「じゃあ、新しくこのクラスに加わる編入生を紹介しま〜す!」
担任は、初めて学校に来た時に僕達を案内してくれた人だった。優しそうだ。
僕とケイトとテレーゼが並んで教室に入った。
「エンドです。」
「ケイトです。」
「テレーゼです(*´﹀`*)」
あーあ、ケイト。お前怒られるぞ〜。
「はい、というわけでね、この三人が新たにこのクラスに加わります!」
(サンニン!?)
大声が出そうになるのを抑え、ケイトの方をちらっと見た。彼女はこっちを見てにやりと笑った。
こいつ、隠してたな。
「えーっと、テレーゼちゃんは現在、喉の病気で喋れないけど、こうやって紙に書いて会話することが出来ます。みんな、仲良くしてね〜!」
そう、テレーゼについてだが、彼女は病気であるということにしたそうだ。世界にはそういう人も何万人かいるらしいし、そう珍しいものでは無い。という訳では無いが、一応喋れない事に説明がつく。誰のせいでこうなったのかの追及も、されるはずがない。
とりあえず僕らは指定された席に座った。窓際の真ん中だ。前から四番目に僕、隣にテレーゼ、後ろにケイトという席の配置だ。僕はテレーゼのお世話係も任せられているので、隣の席というのは妥当だ。
いや、確かテレーゼは別に受けるんだっけか。
「テレーゼちゃんは、授業は別教室で受けます!特待生なので、特別授業です!」
周りから「おぉ」という声が湧いた。テレーゼが特待生?そんな訳ない。ただ単に別室で授業する口実を作っただけだろう。別に事実を事実のまま言ってもいいだろうが、その辺はライベールが配慮したのだと思う。
声が出せない。勉強も出来ない。辛うじて運動は出来る。なんて、周囲にバレたらおそらく速攻、カモになる。案外、考えているんだな、と、僕はライベールのことを少し見直した。
「では、学年が上がり、クラスも変わり、初対面の人もいると思うので、まず自己紹介から!」
そう言って、彼女は黒板に自分の名前を書いた。それを見たテレーゼは、少し眉をひそめた。
「えーっと、私はハセクラ・ロードストーンと言います!担当教科は基礎言語学!このクラスの担任です!今から一年、よろしくお願いします!」
彼女は快活に、そしてハキハキと言った。辺りから拍手が起こる。これは拍手をしないといけないのか、と思い、僕ら三人は周りの前をして拍手をした。
「では、窓側からどうぞ!」
自己紹介が始まる。一人、また一人と終わり、僕の番が来た。窓際四番目なのでそりゃ早い。
「エンドです。好きな物は犬です。子供の頃に飼っていました。」今も子供だろ!というツッコミを期待したが、残念ながらそこまでノリは良くなかった。
「今年一年、よろしくお願いします。」
まるで今年だけしか付き合いがないように言う。それもそうだ。僕はテレーゼが来年に進級する時に一緒に昇級するのだから。
続いて、ケイト。
「ケイトです。好きな物は犬です。子供の頃に飼っていました。」
「まだ子供じゃん!」
どこかからかツッコミが飛んできた。おい、僕の時にはなんで言わなかった。
それで少し笑いが起きる。おい、それは僕の番で済ませておいてくれよ。
「今年一年、よろしくお願いします。」
彼女は僕のセリフと、一字一句違わずに言った。同じじゃん!というツッコミを待っているのか?いや多分めんどくさかっただけなんだろう。ケイトはそんなやつだ。
そして、ついにテレーゼの番だ。
彼女は立ち上がり、教壇まで行った。
そして、手に持ったノートを全員に見えるようにした。
「初めまして、テレーゼです。」
一枚めくる。
「あたしは声が出せません。」
一枚めくる。
「ですが、配慮はいりません。」
一枚めくる。配慮なんて言葉、いつ覚えたのだろう。
「こうして私は話せます。」
一枚めくる。
「声がないのは不便だけど、」
一枚めくる。
「皆と仲良くなるのに、」
一枚めくる。
「声はいりません。」
そして、最後。色んな絵が描かれて、一際賑やかなページが見えた。
「よろしく!(о´∀`о)」
拍手。拍手。拍手。拍手。拍手。拍手。
ものすごい拍手が起こった。泣いてる人もいた。先生も泣いていた。「こんな境遇でも、強かに生きて...私だったらそんなこと出来ないわ!」とでも考えているのだ。
そんな中、彼女の声を奪い去った張本人である僕は、僕はどんな感情で今、拍手をしているのだろう。なんで拍手が出来るのだろう。ケイトはしていないのに。
テレーゼは席に戻り、自己紹介は再開される。まぁ、僕にはもうそんなことに興味がない。名前なんて、自己紹介で覚えなくても一年一緒にいれば自然と覚えられるものだ。リュウジの名前は本人に言われるまで覚えられなかったけど。
そして、一人の獣人が立つ。
この世界には富裕層がいれば貧困層もいる。人がいれば亜人もいる。神がせっかく作った差別のない世界も、誰かのせいであらゆる人種が混在する世界へと、差別の生まれる世界へと変貌した。
その獣人の髪は黒く、肌も瞳も黒い。ただ、容姿は整っていた。
彼は言う。
「僕の名前はジェン・バートンです。」
ガタッという音がした。
周囲の視線が僕の方へ集まる。
僕とケイトが同時に机に当たったのだ。動揺しすぎて。
ジェン・バートンって......僕らが飼ってた犬と同じ...?いやでも、ただの獣が獣人になるわけないし...?
彼は続けて言う。
「好きな者はケイト。嫌いな者はエンドです。」
そう言って、僕の方を睨みつける。
あれ?僕なんかしたっけ?ダストの町に置き去りにしたこと?でもそれは仕方ない事だし...?
「今年一年、よろしくお願いします。」
それは、すなわち宣戦布告だった。飼い犬と飼い主の戦い。捨てられた犬と捨てた人の戦い。
波乱の一年が始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます