第12話:ボクは身勝手な人間だ
「ついてこないでよ?」
「.......」
玄関の前で僕とケイトがにらめっこしていた。今日から僕はライベールと一緒に、「死んでもいい人間」をラーラード王都へ探しに行く。
「本当についてこないでね?」
「.......」
ケイトはそっぽを向いて返事をしない。
「テレーゼ姉、ちゃんと監視しといてね?」
ケイトの後ろにいるテレーゼに話しかけた。
「りょうかい」
彼女はその紙を見せると、ケイトの手を引いて部屋に連れていった。
「仲直り、しなくていいのか〜?」
「いや、ケイトが悪いんだし。」
「...ま、たしかに、あれはちょっと...本当に人と同じ価値観を持ってるのか不安だったね〜…。」
ライベールは、懐から少しだけ出した手紙を見ながら言った。
「なんて書いてあるの?」
そう聞くと、彼は手紙をしまいながら、
「教えられないよ〜。」
と言った。
空は今日も澄み切っている。
僕達は王都へと向かった。
✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤
「...行った?」
ケイトは二階の窓からエンドらを監視していた。
「じゃ、私達もいこ!」
部屋から出ようとした彼女をテレーゼは引き止めた。
「ちょっと待って、エンドはライベールさんがいるからまだしも、私達は護衛とか誰もいないのよ?」
ケイトはテレーゼのその文を見て、
「大丈夫、私強いし。」
と言った。
すると、テレーゼは扉の前に立ち塞がった。
「行かせない」
「え〜!?なんでなの!おかしいじゃん!」
「行かせたらあたしが怒られる」
「あっそ、じゃあ私一人で行きますよーだ。」
そう言って、彼女は
たちまち、この部屋からケイトがいなくなった。
テレーゼは慌てて外を見る。
「じゃーね!私、あっち行ってるから!」
ケイトは、王都へ向かって走り出した。
テレーゼはそれを引き止めようとしたが、自分が行ってもどうにもならないので、諦めて自室で文字の勉強を始めた。
✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤
「ここで問題です。」
一緒に歩いていると、急にライベールが話しかけてきた。
「死んでもいい人間なんているのでしょうか?」
「...いるにはいるんじゃない?」
「じゃあ、それは誰?」
「...それを探しに行くんじゃん。」
「...じゃあ、今度は質問を変えよう。」
ライベールは、僕のことを指さした。
「なぜ、あの国で奴隷商売が容認されているのでしょうか?」
「...いや、容認されてないでしょ?普通、そんなことしたら国民の反感を買うし。」
「いや、容認されてる。結局ね、みんな、自分たちの身の安全が守られてればどうだっていいんだよ。前も言ったよ?奴隷は国民じゃないって。」
たしかに、以前言っていた。しかもあの王様は僕たちに「死んでもいい人間を連れてこい」なんて言う人だ。奴隷商売に躊躇いがなくても違和感はない。
「じゃあ、あの人が言った死んでもいい人間って...」
「そ、奴隷のことだって考えられるよね〜。」
...もう一度、あの牢屋へ向かうことにした。幸い、あそこには僕たちの他にも奴隷がいた。そこにいる人を解放して、王宮へ連れてって、そして......
僕は立ち止まった。
「...?どうした?」
ライベールがこちらを振り向いて言った。
「やっぱり、だめだよ。こんなのは正しくない。それでテレーゼ姉の声が戻っても、彼女は喜ばない。」
僕は、振り返って家まで戻り始めた。
「え?ちょっ!?声、戻んないままでいいの!?」
「別の方法を探す!とりあえずエネーギ王にはそっちから謝っといて!」
歩いていく僕の手をライベールが掴んだ。
「あのね?彼女は喜ばないとかそういうのは単なる君の決めつけなんだよ?自分の妄想であの子を良いように捉えすぎてるよ?そんな、好きな子に自分の理想を押し付けようとするのやめなよ?」
僕は、牢屋での彼女の笑顔を思い出した。声が無くなった翌日の、あの顔。
手を振り払った。
(そうだ。僕は良いように捉えすぎてる。僕に、声を殺せと頼むのが、どれだけの決意か。その決意が無駄になった時、どれだけ絶望したか。それでも僕達に心配をかけないように、無理に、元気に振舞っているのが、どれだけ苦しかったか...。そんな悩みを打ち消せる提案を聞いて、嬉しくないはずがない...。)
でも...。
でも.....!
「僕はあいつに理想を求めるよ。」
彼女がどれだけの苦労を背負って今まで生きてきたのか知らない。今、彼女が何を思っているのかなんて分からない。彼女が僕の理想とか理想じゃないとかも知らない。
ただ僕が知ってるのは、僕が身勝手な人間だってことだ。僕は彼女に嫌われたくないんだ。人を殺して彼女の声を直すより、彼女のためと思って人を殺さない方が、彼女の味方みたいに振る舞えるんだ。
そうだ、そうなんだ。僕はどこまでも最低な人間なんだ。だから彼女のためになることより、僕のためになることを優先するんだ。
ライベールが僕を見て、少し何かを考えていた。
「ふーん.....それが本当に本心なのかは分からないけど、現時点の答えがそれなら、家に帰る?」
「...うん。」
まだ、考える時間は必要だ。
僕とライベールは家に帰った。
✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤
「ごめんなさい」
テレーゼが帰ってきた僕達を見て見せた。
ケイトがいなくなっていた。テレーゼ曰く、王都へ向かったらしい。
「どうする?」
僕は、魔法で秘密基地を作っていた彼女のことを思い出した。
「ケイトなら大丈夫でしょ。帰ってきたところを叱ってやる。」
そう意気込んでいたが、彼女は、夜になっても戻ってくることはなかった。
✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤
「うん、うん、エンド君、面白いね。頑固だね。」
「いや、面白いとかじゃなくて、このままだとまずいですよ?」
王宮でエネーギとライベールが話していた。
「何がまずい?彼女の声が戻らないこと?でもそれはエンド君が決めたことだし。」
「あの...彼の親の意思が...。」
「あー剣聖と賢者ね?ま、子供が決めたことに口出しするのはどうかと思うよ?別に間違ったことをしてる訳じゃないし。」
エネーギは心が読める。あの時、テレーゼが何を思っていたのかも知っている。
どれだけ喜んでいたのか、彼は知っている。
だからこそ、彼は試練を与える。
「ボク、剣聖も賢者も嫌いだしね。その子供に、積極的に協力するわけないでしょ?」
ただの嫌がらせだ。
「このまま、ハズレの道を進めばいいよ。エンド君。」
彼はニヤリと笑った。
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