第11話:大丈夫。
ライベールから最新版の魔導書を貰った翌日、気持ちよく寝ていたのにケイトに叩き起こされた。
「起きて、行くよ、お兄ちゃん。」
「え?行くってどこに?」
すると、彼女は怪訝そうな顔をした。
「え?お兄ちゃん、今日は王様の所に行ってテレーゼ姉の声を戻してもらうんじゃんか。」
(...え?そうなの?普通に知らないんだけど。)
それもそのはず、昨日、ライベールがわざわざ話に来たのに、彼はそれを突っぱねたのだ。普通にライベールが悪いけど。
急いで着替えて下に降りた。
「おい、遅いよ〜エンドくん!」
僕はそう言った彼の顔を殴った。
「ちゃんと事前に伝えてくれない?」
「あーはいはい、俺が悪かったよ〜。」
ムカついたので脛を蹴った。彼は地面にうずくまった。
「ていうか、そんな簡単に謁見できるもんなの?王様って。」
「あ...あぁ、あの人は特別...。」
「ちゃんと喋って?」
彼が「そんな理不尽な...」と言いたげな顔をしている。
彼は立ち上がって、僕に向き直った。
「エネーギは特別なんだよ.....民との間に壁を作らないの...だから謁見の手続きも簡単...。」
「そんな理由で一国の王との謁見の手続きが簡単とか」
「あと、」
ライベールは僕の言葉を遮って言った。
「誰が相手でもあの人が完全に死ぬことはないからね〜。それがたとえ剣聖でも、賢者でも、勇者でも、英雄でもね。」
✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤
「こちらでエネーギ王がお待ちです。」
そう言われて案内された王宮は、とてつもなく広かった。端から端までおそらく20メートル以上ある。しかし、天井のシャンデリアと奥に見える椅子以外では、豪華なものは見当たらなかった。
ライベールが先行して進んだ、誰も座っていない椅子に向かって。僕達は彼の後に続いた。
少し進むと、それまで誰もいなかったはずの椅子に、いつの間に男児が座っていた。
(この人...ケイトより魔力量が...!)
「やぁ、君たち。久しぶり、ライベール。」
彼は椅子に座ったまま言った。
「久しぶりです、エネーギ王。」
ライベールはかしこまって言った。
「あぁ、その子の声を戻して欲しいのか...。」
エネーギはテレーゼの方を見て言った。事前に心が読めると聞いていたから今更驚かない。
「ん?違うのか?ボクがやっても意味が無い...?自分でやりたいってこと?」
彼が僕を見て言った。
(テレーゼがこうなったのは僕のせいだから、僕がやらなきゃ意味が無い。だから、)
「それが出来る魔法を教え━━━━━」
「いいよ。」
随分あっさりといった。こんな簡単に教えて貰っていいのか?
エネーギは僕に向かって手を伸ばした。
「
たちまち、僕の体は空中に浮いた。
「
彼は、僕に水をかけた。体がびしょびしょになる。
「
彼は、僕に強風を当て、水気を飛ばした。
「
そして、彼は僕の服と紙を完全に乾かし、地面に下ろした。
「こういう感じで、ボクは1つの呪文であらゆる魔法を使えるんだ。いや、使えるようにしたんだ。」
(...いや、こんなのどうやって...)
「この魔法ね、1回使う毎に一人の命を代償に発動してるんだよ。」
その言葉を聞いた瞬間、僕やテレーゼはもちろん、ライベールまでもが驚いていた。知らなかったのか。
というか、今の一連の流れで4人死んでるのか。
「そんなこと、聞いたことないんですが!?」
「僕が生涯でこのことを話したのは君たち以外で一人だけだよ。」
彼が椅子から立ち上がり、こっちまで歩いてきた。
「1週間以内に、死んでもいい人間を一人持ってこれたら教えてあげるよ。」
僕はそう言われた。いや、出来るわけがない。
すると、今まで黙っていたケイトが口を開いた。
「ねぇ、私も人を持ってきたら教えてくれる?」
それを聞いた僕達は彼女が正気か疑った。
ただ一人、エネーギはにやっと笑っていた。
「いいよ。教えてあげる。」
そして、謁見は終了した。
✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤
「ケイト、正気じゃないよ!?」
僕は家に帰ってケイトを叱っていた。彼女は俯いたままで表情が分からない。テレーゼが心配そうに見守っている。
「ケイトは人を殺そうとしてるんだよ!?」
「分かってるよ...うるさいな。」
つい、手を出してしまいそうになった。テレーゼが見ているからやめたけど。
「うるさいじゃないよ...人の命の大切さが分からないの...?」
「.......」
彼女は黙った。これ以上責めるのも気が引けるので、僕は彼女を自分の部屋に帰した。
「あんた、言い過ぎじゃない?」テレーゼが紙に文字を書いて見せてきた。
「このくらい言わないと...命の大切さは分からないでしょ...。」
「それにしても言い過ぎなの。相手は年下なんだから、もっと優しくしないと。かわいい妹でしょ?」
「妹だから...妹だからなんだって...」
そう言って、僕は自分の部屋に戻った。
「あーあ、あの様子じゃあエネーギの試練なんか乗り越えられそうにないねぇ...。」
隠れていたライベールが出てきて、テレーゼに話しかけた。
「試練...?死んでもいい人を持ってくる事が...?」
「まぁ、それは別に大丈夫でしょ〜。」
その一言で、彼女はとある仮説を導き出した。
(もしかして、これは人を連れてくる試練じゃ無いのかも...ライベールさんはそれに気づいてるから...?)
「あの2人、いざとなったら他人なんかどうでもいいタイプみたいだしね〜。」
そんなわけなかった。
テレーゼはケイトのいる部屋に戻った。そこでは、ケイトがベッドに寝転んで不貞腐れていた。
テレーゼはベッドに座った。
「なんであの時、あんなこと言ったの?自分でも命の大切さは分かってるでしょ?」
それを見ると、彼女はテレーゼの隣に座り、寄りかかった。
「私、牢屋の中で何も出来なかった...。ずっとお兄ちゃんに負担ばっかかけて.....テレーゼ姉にも...。」
彼女は今にも泣きそうだった。
「牢屋から出るちょっと前に...もう魔法が使えるようになってたのに...!それなのに、私、寝たフリして...。」
彼女は既に泣いていた。
「私、お兄ちゃんがテレーゼ姉の声を無くすところ...見てたの...止めれたのに、止めなかった。」
彼女は、テレーゼの体にしがみついた。テレーゼの服がじんわりと濡れる。
「今さら使えても、なんか言い出しにくいな...って、そんなテキトーな理由で...!お姉ちゃんの声を.....!」
彼女はテレーゼの服を強く、強く握った。
「だから、もうお兄ちゃんに負担はかけれないの!私が代わりにやらないと...!全部...全部私のせいだから...!」
全てを吐き出したケイトの顔は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。
テレーゼは、紙に鉛筆を走らせた。
「大丈夫。」
その一言だけ。
その一言を見たケイトは、また泣き出してしまった。
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