第9話:なんかあやしい


「ありゃ?誰もいないや。もう脱出しちゃった?」

先程僕達を助けに来たと言った男が、踵を返して去っていこうとした。

「.......」

誰も、彼を引き留めようとしない。

彼は地下牢から出る階段の前まで行ったが、登らずに僕達の入った牢屋の前まで来た。

「君たち!?なんで何も言わないの!?」

「.......」

「あ〜...まぁ1ヶ月もこんな薄暗い牢屋にいたら心も閉ざすわな。」

何も発しない僕達を見て、彼は勝手に納得した。

「ま、いいわ。ほらほら君たち、俺はライベールという者だ。君たちの親から頼まれて助けに来たんだわ。」

そう言って、彼はわざわざ牢屋の格子をねじ曲げて入ってきた。

(今更.....なんだってんだよ...)

もう、テレーゼの声は戻ってこない。

「なぁ、あんた.........。」

「ん?なんだ?何かあるのか?」

僕は、そこから先の言葉を出すことが出来なかった。

(僕はテレーゼの声を奪ったんだ...なんで僕が平然と声を出してるんだよ...。)

エンドは、自分にはその権利が無いと思った。少なくとも、彼女の前では。

「何も言わないんならとっととこっから出るぞ〜。」

気になるところはいくつかあるが、今はただ、何も考えていたくないからライベールに従った。


✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤


「ねぇねぇ、この馬車はどこに向かってるの?」

「ラーラードの郊外にある俺の家〜。そこで育てろって言われたからな。」

場所は変わって、今は地下牢から脱出し、そのままライベールに保護されている途中だ。

「ねぇねぇ、おじさんってだれ?」

「え〜?聞いてなかったの?おじさんはね、ライベールっていうんだ。君の親御さんの知り合いだよ〜。ていうかおじさんじゃないよ?お兄さんだよ?」

(この2人は、どうしてテレーゼに配慮しないんだ?いや、ライベールはともかくとして、ケイトは...?)

6歳の子供に求め過ぎているが、ケイトはたまにまだ6歳とは思えない言動をする。だから、普段は繕っているだけで本当は誰よりも現状が分かっている...はずだ。

「ねぇ、おじさん...」

「あのねおじさんじゃなくておにいさんだよ?」

「お兄ちゃんとわかんなくなるからおじさん。」

「.........なぁ、ケイト?なんで平然と話せるの?」

ケイトは首を傾げ、テレーゼは僕を見た。何か言いたいんだろうけれど、伝わらない。分からない。

「?私は元から話せるよ?」

「ちがう、そういうんじゃなくて...目の前に......さ...。」

テレーゼは僕の服をグイッと引っ張った。彼女は怒っていた。

「エンドくんだっけ?何があったかは知らないけど、それは君のせいで生じた問題なのかい?」

ライベールが話しかけてきた。

「あぁ、うん。僕の...いや...。」

僕は言葉に詰まる。なぜなら、テレーゼの声を殺したのはおそらく"俺"なのだから。僕だけど、僕じゃない。

「お兄ちゃんのせい。」

「ケイト、僕にも事情があるから、口を挟まないで?」

「まぁまぁ怒んな怒んな。」

「あんたは関係ないだろ...!?」

「お?恩人にそんな態度取っていいのか?」

彼はそう脅したが、全く本気ではないと僕でもわかった。

「あんたさ、僕の両親に頼まれたって言ってたけどさ?おかしいでしょ、なんで売った本人達が助けようとするの?ていうか、なんでお母さんもお父さんも来ないの?本当に助ける気があるなら来るでしょ。」

「あーあーはいはい、そうですね〜普通は本人が来ますよね〜でも、それだと意味が無いってさ〜。」

「?なにが?」

そう聞くと、彼はニヤッと笑った。

「態度が悪いから教えな〜い。」

「ムカつくやつだ。」と思った。どうにかして吐かせたい。

「でもま、態度が良くっても今は教える気は無いんだけどね〜。」

「......いつになったら教えてくれるんですか?」

「敬語なんて使うなよ、子供は子供らしくしてな。」

「...いつになったら教えてくれるの?」


「家に帰ったら教える。」


本当にムカつく。

僕は、テレーゼに配慮して喋らないでいることを忘れていた。しかし、彼女は僕達の会話を聞いていても全く傷ついている様子はなかった。

むしろ、嬉しそうだった。


✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤


ラーラード国の郊外、そこは一面が緑だった。ライベールの家はそこの丘の上にあった。遠くに王都が見える。少し離れたところに森もある。

馬車から降りて深呼吸をする。綺麗な空気だ。ケイトも僕の真似をした。

「でだ、これから君たちは何をしたい?」

「テレーゼの声を戻す。僕のせいだから僕がやらないといけない。」

「昼ごはんたべたい。」

「普通に暮らせればそれでいいです。」テレーゼは紙に書いて示した。これと鉛筆をケイトの袋から取り出して渡した。少しの辛抱だ。僕が必ず解決法を見つける。

(ちなみに、地下牢でもケイトはこの袋を持っていたけど、中身が到底脱出に使えそうに無いものばかりだったからそもそも描写されなかったんだ。かわいそうだね。)

「一人を除いて欲がないねぇ.....時にエンドくん、彼女の声を取り戻す手立てがあると知ったら君はどうする?」

その言葉に、僕は食らいついた。テレーゼもこっちを向いた。

「なに!?教えて!!!!!」

「うーん...これ、本当は機密情報なんだけどね...まぁ、大丈夫かな?」

「もったいぶらずに!早く!」

「わかったわかったそんな急かすなよ〜。......ラーラードの国王なら、解決出来るよ。」

ラーラード国王......か、簡単に謁見は出来なさそうだ。というか、機密情報なのになんでライベールは知っているのだろう。

「だが、今日はもう動かない。疲れただろうから、俺の家でゆっくりやすめ。」

僕らは1ヶ月ずっと張りつめた状態で過ごしてきた。ケイトは違うけど。なので、この提案には賛成した。



この家は二階建てで、トラッシュの町の家とほとんど同じ構造をしている。1階はリビング、風呂、キッチン、トイレで、2階は合計3部屋あり、奥からテレーゼとケイト、僕、ライベールとなっている。

もう夜なので、ケイトとテレーゼは自分達の部屋に戻った。僕はそのタイミングでトイレに行った。

トイレから戻ってきて、僕はリビングのテーブルのライベールが座っている反対側に座った。

「まったく、明日まで待てないもんかねぇ...。」

彼は呆れていた。

「家に帰ったら教えるって言ったのはそっちでしょ。」

「はいはい、分かりました〜。まぁ隠すほどの事でもないし......じゃあ、まず俺とあの人達との関係から教えてあげよう。」

彼は早速話し始めた。


「俺はまぁ、ベイルさんの後輩ってとこだね。カーネーションさんとの直接的な付き合いはない。数年前、ベイルさんがまだラーラードの兵士だった頃の後輩だよ〜。1番可愛がられてたと思う。」

「そうなんだ...」

(お父さんが兵士だったなんて知らなかった...)

「で、俺が1番可愛がられてて、信頼されてたから君たちを預けられたんだ。」

「へ〜...いや、なんで預けられたのかを聞きたいんだけど。」

「あ〜なんで預けられたか.....たしか手紙に...」

ライベールは、手元にあった自分のバッグをゴソゴソと探し始めたが、直ぐに手を止めた。

「いや、これは全員が居ないとだめか。」

そう言って、僕の方を向き直った。

「ごめんだけど、全員がいないとこの話はできない、というかしないで欲しいって言われてるんだよね...。」

「そうなんだ。じゃあ明日でいいよ。じゃあさ、今、できる限り僕に話せる事はある?」

ライベールは少し考えた。

「あっエネーギについてなら少しは教えられるわ。」


「それでいいから、教えて?」

「おっけー。まず、本名エイド・ミル・エネーギ、26歳で男性。見た目は子供に見えるけど全然大人。国民に対してすごくフレンドリーで国民に慕われている。まぁ素晴らしくて完璧な王様って感じだよ。」

「なんかあやしい。」

そんな素晴らしい王様がいる国で人身売買なんてあるか?と僕は疑った。

「まぁまぁ、そう言うな。全部本当のことだから。」

「そんな素晴らしい王様がいる国で奴隷とか...。」

「だって君たちこの国の人間じゃないじゃん。」

エネーギが優しいのはあくまでも国民に対してか...。でも、それだけで慕われるなんて思えない。

僕はなぜそこまでエネーギ王が慕われるのか考えた。が、その答えはすぐに出た。ライベールの口から。


「ついでに、エネーギは現存する魔法と現存しない魔法の全てが最高火力で使えて、とてつもない魔力量で、かつて魔王と呼ばれた災厄を単独で討ち滅ぼした"英雄"の幼なじみ。1回死んだことがある。心を読める。で、めっちゃ頭がいい。」

「...いや、さすがに嘘......?」


ライベールは決して冗談を言っているような顔ではなかった。

「テレーゼの声を戻すには、この人に頼むしかないよ〜?だから、俺が謁見させてあげる。あの人とはわりと仲良かったはずだし...。」


僕は、話が終わった後、2階へ登り、自分の部屋に入った。

ベッドとテーブル、イス、色んな家具が置いてある。前の家とは全然違う。

僕は疲れたのでベッドに横になった。

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