第5話 泣き出した女の子、みんなの後押し


 絵里の語る、シャチとカツ夫達のリーダーの闘いが変化を見せていく。


 館内を通りがかった人々も朗読会のような雰囲気に足を止めては様子を窺うが、集中している絵里は気付かずに、子供達一人一人の顔を見ながら、ゆっくりと語り続ける。


『……何度も体当りしていたリーダーは、疲れてフラフラしていても、シャチのヤツと必死に戦ってた。仲間を絶対守るんだ!絶対守るんだ!って気持ちが、僕らにもすごく伝わってきたんだ。でも、僕らは悔しかった。悲しかった。楽しくみんなで泳いでいたいだけなのに』

「リーダー……リーダー!!」

「がんばって!今、僕も行くから!」


 と、子供達の応援する声が響く中。


「りぃだを、いじめちゃ……メなのぉ!はち、ばかばか、ばかぁ!……ぐすっ……うううう、うぇぇぇ……!」


 ひとりの幼い女の子が、泣き出した。


 しまった!とその様子に慌てた絵里は、そっと我が子を抱え上げた母親に頭を下げて、表情を伺う。


 母親はマスク越しに絵里に笑ってから、我が子に向かって語り掛けた。


こころ、お姉ちゃんのお話はまだまだ続きがあるよ?泣いちゃったら聞けないなあ~。カツ夫君の大活躍が見れずに、終わっちゃうなあ~。こころはそれでいいの?」

「……」


 澄んだ、大粒の涙を零しながら。

 母親を見上げた女の子はブンブンブン!と首を振って、その胸にしがみついた。


 そこで。

 絵里を見た母親が我が子を指さして、その指を自分と図書館の入口へと向けた。

 

《続きは、この子が悲しむようなお話?外、出てようか?》


 眉を『ハ』の字にしつつも微笑みを浮かべた母親に、そう問いかけられた気がした絵里は頭を深々と下げた。


 そしてすぐに両手で、ぐっ!とガッツポーズを見せて、


《任せて、ください!》


 と、めいっぱいの気持ちを込めて、母親を見つめた。


 それを見た母親はにっこりと笑って、絵里にサムズアップをした。


 と、そこに。

 子供達の応援が加わった。


「だいじょうぶ!みんなでシャチをおっぱらおうよ!」

「僕のキックが届けばきっと……!」

「おねえちゃん、つづき、はやくききたい!」

「あー!きゃうー!」


 続きを待ちながら女の子を励ます子供の声と、自らの子供と絵里を見守る親と、うんうん!と頷きながら人々の列を整理する図書館のスタッフ達。


 元気をもらった絵里は目を閉じて指先を顎に当て、改めてこの話の結末に思いを寄せる。


(やっちゃった……。女の子にごめんなさい、あとでキチンとしないと。でも……もう少しだけ待っててね)



 悲しい気持ちでは終わらせない。

 頑張るみんなのカッコよさを。

 絶対に、ハッピーエンド!


 

 絵里は手に力をぐっ!と籠めて、また語り始める。


  



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