第3話 パパさんのお仕事と、男の子の涙

 あ、あれれ?話が予想外の方向に?と思いながら、絵里は目をパチクリさせて男の子を見つめる。


「パパのお話はいっつもすごいんだよ!」

「……そっか、パパさんすごいね!かっこいいね!お話作る人だ!」

「えへへ!でしょ!」


 男の子は指の背中で鼻をこすって、誇らしげに笑った。


(もしかして……パパさんは作家の方で、PCを早く打たないのは構想しながら打ってるから?)


 それに気がついた絵里は、慌てて男の子に詫びた。


「お姉ちゃんはパパさんみたいにお話作ったりできないの。ごめんね」


 すると。


 男の子はしょんぼりと俯いた。


「……最近、パパが新しいお話してくれないの。まだできないからごめんなって、ずっと言ってるの……パパ、僕にお話するの嫌になっちゃったのかな?お姉ちゃんも、僕にお話するの……やなの?」


 絵理の喉が、ヒュッ!と音を立てた。


「そ、そんなことないよ!きっとパパさんはすっごいすっごいお話を作ってて時間がかかってるんじゃないかな!」

「……」


 絵里がそう話しかけると、男の子は無言で顔を上げた。



 3。



 顔を歪ませて、きらきらと澄み切った涙を目にいっぱい溜めはじめている。



 2。



 あ、この子泣いちゃう!

 

 絵里は、どうしよう!どうするの!と必死で考える。



 1。



「う、ぐすっ。ふうぅ……」



 男の子の目から、ポロリと涙が零れ落ちる。



 0。



「じゃ、じゃじゃ!じゃあ!じゃあじゃあ!パパさんの代わりにお話、してみよっかな!!しちゃおっかな~?」


「ううぅ…………ほんとっ?!」

「うんうん!だから、泣かないで?どっのおっはなっしに、しっようっかな~♪」


 絵里はにっこりと笑って、手で「おっけー!」のサインを男の子に見せた。


 そして、人差し指の先を顎にあてながら見上げた天井に向かって、むむむー、と声を出す。


 男の子は涙をグシグシと拭きながら、クッションから身を乗り出して絵里が語るのを嬉しそうに待っている。





(私の馬鹿っ!馬鹿ぁっ!こんな事言っちゃってどうするの?!でも、でも。寂しくて泣いちゃうのは悲しい。それにただ慰めるのは違う気がした。だったら、考えなきゃ!何とかしなきゃ!)


 泣きそうな男の子を見て反射的に行動を起こしてしまった絵里は、そんな自分に戸惑いつつも覚悟を決めて、手をギュウ!と握りしめて。


 ドッパァン!と暗闇イメージの海へと飛び込んだのだった。




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