第十三話
「そういえば、随分厳しい養育係がいたって話は聞いてたな。文武両道。非の打ち所のない御家老様だったってな」
「そうだ。平手には何の落ち度もない。実際、平手は何でもできた。茶の湯も和歌も
「大事な国主の嫡男を預けてもらって、張り切ってたんだろうな」
「ああ、何から何まで平手に習った。厳しい、うるさいと
「けどな。向こうは御家の為にとか、大義の陰に隠れることができるから、何とでも物が言えただろう。だけど、あんたを思い通りにしようとしていた者どもに、逆らう理由が、正論が、あんたの方には何もない。そのまま圧し潰されて死ぬ前に、生き延びようと思ったら、反逆しかない。うつけになるしか他にない」
静はこれまで聞いた事がないような、真摯な口調で言い切った。
顔も笑っていなかった。
平手の養育を支配だと言い、そうやって支配しようとする側に、我が事のように憤怒し、珍しく語気を荒げていた。
「……
信長は苦笑した。
平手が支配しようとしていたなどと感じた事はかったが、屈服させられる側に寄り添う静が、ここにいる。
「人間、死ぬ前ぐらい愁傷にでもなるもんだ」
「そうかもしれぬ」
静は照れ臭くなったのか、自分の肩にやたらに湯をかけ、落ち着きがなくなった。
そうだった。
明日は
それも一日限りの決戦だ。
静と二人で話し込み、束の間だったが、すっかり忘れてしまっていた。
静は満月を見上げていた。
信長も、つられるように夜空を見た。
そして、その頃、今川の大軍勢は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます