第二章 会《かい》

第一話

 杉の大木が天を覆い、幹の根元に熊笹くまざさが生い茂る山奥へ、華奢な体つきの少年は、林道を逸れて分け入った。


 両袖を取り外した単衣ひとえの着物に半袴はんばかま

 剝き出しの手足には、鋭い笹の切り傷が増えていく。


 ざんばらの前髪の隙間からのぞく双眸は、恐いような切れ長だ。

 閃かせている眼光は、餓え乾いた獣のようにくらかった。


 総髪の後頭部を、黄色の派手な組み紐で高々とくくり立てている。


 左肩に小弓を乗せ、足元の熊笹を右手の鎌でを払いつつ、彼は山の中をさまよった。

 すると、その時。

 左手にある林道に、一頭の鹿が跳ね出てきた。

 鹿を見るなり、膝下まで覆う熊笹を刈っていた鎌を投げ捨てる。


 鹿を狙って向きを変え、斜めに背負った矢筒から素早く抜いてつがえると、胸を開いて竹弓の弦を大きく引き切った。


 解き放たれて唸りを上げ、幹の間を飛び去る矢羽根のその行方。

 少年は、それを身じろぎもせずに注視した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る