17話 瘴気の領域から
同じ頃、実力領フリューゲル、カタラーナの街にて。
南方護衛団の動物団員フェニックス(雀)は冒険者ギルドエクレアの団長代理シバの元に遊びに来ていた。
「シバっち、暇なのは知ってるわよ〜。デートしよっ」
「……お国が戦争に赴いている時だというのに、非常識にも程があるワン」
「だって、うるさ〜い王国の監視がないのは今日くらいしかないのよ〜。それに冒険者ギルドだって戦争中は冒険が禁止な訳なんだし、暇でしょう」
「それはそうだけれど……。南方護衛団はちゃんと仕事してるのかワン」
「ええ。ゼフィール陛下も出陣してるんだし、必要ないとは思うけれど、いざという時のために今日は護衛団の殆どが南門の砦に駐在しているわ。カタラーナの本部には最低限の人数しかいないはずよ〜」
実力領は国の外郭を高さ7m幅6mの頑丈な長城で囲っており、東西南北の門にはそれぞれ砦が一つ付随している。
信仰領との戦争中、南方護衛団は南門の砦に多く駐在し、外敵を見張っているのだ。
「護衛団がフェニックスみたいに浮かれていないか、なんだか心配になってきたワン……あれ」
シバがぴくりと南方面を向く。
「シバっち、急にどうしたの?」
「フェニックス、嫌な気配が南門前の瘴気の領域から近づいてきているワン」
「え、瘴気の領域? 信仰領間のダブルフィールドじゃなくて?」
「うん。念の為見て来た方がいいワン」
まさかね、とは思うものの、不吉なことに関して鋭い勘を発揮するシバの発言を無視することはできない。
フェニックスは「デート1回ね〜」と自分勝手な約束を押し付け、南の瘴気の領域へパタパタと飛んでいった。
実力領フリューゲルから南。瘴気の領域にて。
「ふぅ〜、ここまで飛ぶのも結構疲れるのよね。ここが瘴気の領域ね〜」
カタラーナを発って一時間程。フェニックスは南のマザークリスタルの加護外、瘴気の領域に到着していた。
羽を休めた後、もう一度飛び立ち、上空から森を観察する。
暗い瘴気と森林に覆われている瘴気の領域。
長期間瘴気の中にいる変異か、植物の葉緑体が薄らと発光しており、上空を飛行していると広大に光る緑の海を渡っているような、そんな幻想的な感覚を楽しむことができる。
この美しい死の国に、何人もの冒険者が魅せられ引き寄せられていき、そして帰らぬ者となった。
動物であるフェニックスにとってもそれは同じこと。
動物は瘴気の影響を受けないが、瘴気の領域には獰猛な魔物が生息している。
動物を食糧にする植物もある。
マザークリスタルがなければ生きられないのは動物も同じなのである。
「そのためにできるだけの協力は惜しまないつもりだけれど、正直鳥を食べるのはやめて欲しいのよね〜。そりゃ美味しいのはわかるけれど……」
束の間の空の旅を楽しんでいると、木々の隙間で何かが蠢いた気がして低く旋回する。
それは修道服に胸当て等の軽い武装をした、300人程の集団であった。
「え!? 修道服ってことは信仰領!? どうして瘴気の領域にいるの!?」
その集団の首元には瘴気を浄化するクリスタルの首飾りが見られる。
その他に、砲弾をいっぱいに積んだ台車や、車輪が付いた高さ2m程の大砲も見られる。
実力領と信仰領のマザークリスタルの光が重なる地点、ダブルフィールド。
その安全な道を通らずに瘴気の領域を敢えて通ることで、信仰領はゼフィールの王国軍に遭遇することなく、実力領に対し直接の攻撃を仕掛けようとしているのである。
「二手に分かれて攻め込もうというの!? なんてこと……! 早く皆に知らせないと!」
フェニックスは急いで南門の砦へと戻った。
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