第67話 悪女、とても心配される。
さすがに失礼ではなかろうか。
王宮のメイドなんて、乙女の憧れ。
人生一度はメイド服を着てみたいと思って何が悪い。
なのに、私の友人は真剣に言ってくる。
「今からでも遅くないわ。おやめなさい。メイドは諸侯貴族に喧嘩を売る仕事ではなくってよ?」
「アニータは私を何だと思っているのかな?」
しかしアニータの表情は硬いまま。
対面に座っているアイヴィンとマーク君も同じように「うんうん」と頷く始末。
いや、本当にひどくない?
しかも今は王都へ向かう馬車の中である。行き先が近くということで同乗させてもらうことになったのだ。アイヴィンとアニータの目的としては、何が何でも私を説得して、王立魔導研究所に研究先を変えたいらしい。
そんなわけで、アイヴィンも口を出してくる。
「けどせっかくの花火の仕上げを自分でやらなくていいの? このままうちに来たら、存分に仕上げ作業も、なんならうちの資材を使ってもっとすごい花火も作りたい放題だよ?」
「研究材料使いたい放題というのは大変魅力的ではあるけれど……その最後を大切な友人に任せるってのも、なかなかオツだと思わない?」
私が口角を上げれば、アニータは感動してくれたのか「シシリー」と目をキラキラさせてくれている。ふっ、これで魔導研究所行きは免れたかな。
だけど一つ気になるのが……マーク君である。
この中で、彼だけメイドに反対しなかったのだ。
私がそろーりと彼を見上げると……マーク君はあっさりと言った。
「トラバスタ嬢のメイド服、けっこう似合うんじゃない?」
さすがは将来の王子さまああああああああ!
いや、今も王子様なんだけど。そこは将来のシシリーの王子様ってことで。
(だからそんなこと言っているのノーラだけだからねっ!)
心の中からツッコみがくるけど、私は気にしない。
仕事の途中で、王立魔導研究所まで行く余裕はないかな。一応、二週間のうち中二日は休日ということになっているのだけど……なにせ将来がかかっているから、そこでも先輩に媚び売り……ではなく食事に同行したり、タダ働き……ではなく自主研修に勤しんだりするのが普通らしい。
だけど、どうにかこうにか、シシリーのメイド服をマーク君に見せたい。
そのために魔術の一つや二つ開発することもやぶさかでないよね。
ということで、今からも脳内で写実技術ができないものかと構想を膨らませていると、アイヴィンがアニータに確認している。
「ヘルゲ嬢、何回も言うけど、この花火の完成がそのままきみの入職に繋がると思ってくれていいからね。個人的には応援しているけど、俺は手を貸せないから。マークと二人でがんばってね」
「望むところですわ!」
そしてアニータが、マーク君に向かって「一緒に頑張りましょう!」と手を差し出している。
マーク君は少し渋りながらも「よろしく」とその手を握っていて。
まぁ、マーク君としては自分は将来国王になるからと、同じ立場でないことに罪悪感を覚えているのかもしれないけれど。
すると、シシリーがツッコんでくる。
(同じ立場ではないのは確かかもしれないけど、国王になるつもりはないんじゃないの?)
(あと二週間くらいはね?)
私は変わらず写実魔術の構想を練りながら、馬車の外を眺める。
本当はアニータの手を私が握り返したかったな、なんて思ってはいけない。
そう遠くないうちに消える私は、ひっそりと彼女を応援することしかできないのだ。
そして、途中でひとり(正確にいえばシシリーと二人)、先に馬車から下ろしてもらう。
「いいこと? 何かトラブルを起こしましたら、ヘルゲの名前を出すんですのよ! すでにお父様たちに根回して、色々隠ぺいする覚悟はしておいてもらってますからね!」
「城までちゃんと行ける? 寄り道しちゃだめだよ? 怪しい人に声をかけられても、ぶっ飛ばしちゃダメだからね? イライラしたことがあったら三秒考えてから行動するんだよ?」
「まぁ、無理しない程度に頑張ってね」
ほんと、アニータとアイヴィンは私を何だと思っているのかな?
マーク君のシンプルな優しさが身に沁みるよ。さすがはシシリーの王子様。
(いい加減しつこいよ?)
そういうわけで、私は大声援をうけながら一人でトランクを持って、王城の門まで歩く。
今日は眼鏡をかけた門兵がいない。そのことに少し安心しながら、普通の兵士さんに案内され、招集場所の中庭についた時だった。
「どうしてあなたがいるのよ!」
見知った顔に、私はにっこりと微笑む。
いやー、嬉しいねー。
全国各地の王宮メイド志望者たちは、ざっと五十人。その中で選ばれるのは十人程度だという。
そんな戦を二週間も戦い抜くのだ。
その中に双子の姉妹がいるって、すごく心強いよね?
「それじゃあ、お姉ちゃん。二週間仲良くしようね♡」
「い~~や~~~~っ‼」
シシリーの双子の姉こと、ネリアの絶叫がこだまする。
お姉ちゃんが今日も元気そうで何よりである
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