最終呑み 『ゲロと買春と刃物』の巻
俺の名は、芦屋吉夫(あしや よしお)
あだ名は、よっちゃん。
今夜もいきつけの赤提灯で酒を飲んでいる。
そして、タイムリープの能力で、失敗しない酒を飲むことができるのだ!
最終呑み 『ゲロと買春と刃物』の巻==================
夕方の6時。いつもの赤提灯。
平日というのに、狭いカウンターだけの店内には、いつもの顔ぶれはなかった。
いつも窓際の席を独占して靴下を脱いでくつろいでいる『チョウさん』は死んだ。
カウンターの真ん中を陣取って、店主のオバちゃんにくだ巻いている理屈屋の
『ゼンさん』も死んだ。
裁判所を退職して悠々自適の老後を送っている『オカちゃん』は糖尿病で足を切断した。
いつもの顔ぶれ、いつものメンバー、そしていつものオバちゃんの笑顔はない。
いつ死んでもおかしくないオバちゃんの無気力な顔。
目はうつろでブツブツと呟いている。
この焼鳥屋はほんとうに居心地が悪いし胸クソが悪い。
まずい焼き鳥に、酸っぱい味のするおでん。あきらかに腐りかけの食材だ。
それはさておき、俺は、いつもの焼酎のお茶割を頼み、焼き鳥を頼んだ。
これもまずい。ただ、焼酎をお茶で薄めただけなのにスゴクまずい。コップも汚い。
壊れた換気扇は、店内のくすぶった煙を店内に充満させるだけだった。
チョボチョボと垂れ流れる水道の音も気にさわる。すべてが不快だ。
俺は何でこんな、どうしようもないまずくてつまらない店で飲んでいるのかが俺自身不明だ。
だけど、そんな店でも、今の俺には居心地が良かったのかもしれない。
わかってる。そんなことはわかっているのに、やめられないんだよね。
思い返せば、タイムリープを使ってずいぶん無茶なことをしたっけ。
飲み過ぎてぶっ倒れて鼻ゲロしながら救急車に運ばれたこと。
未成年の女の子の酒にクスリを入れてベロベロにして、わいせつな行為をしたり。
泥酔した客のサイフを盗んだり、路地裏でションベンしたり、ウンコしたり。
ああ、もうたくさんだ……せっかくタイムリープできる能力があっても、俺には使いこなせない。
泥酔してくだらないことを繰り返すばかりだ。
今夜も路地裏で、手にした角材で誰かをブン殴ったようで、血に染まった死体が横たわっていた。
ピキューーーーインッ!!!
その時、俺のタイムリープ能力が発動し、今夜の犯罪まがいの出来事をうやむやにしてくれた。
おれは 目を閉じて考えた。もう、うんざりだ。こんな能力はうんざりなんだ。
いらないよ。タイムリープできたって、それほど良いことはないよ。
目の前の自宅の玄関のドアを、そろりと開ける。
隠していた訳ではないが、俺には嫁と三人の子供がいる。まだ小さいガキどもだ。
ベロベロに酔った俺に嫁が何か叫んでいるが、それが何を叫んでいるのかわからない。
次の瞬間、腹部に冷たい感覚をおぼえた。腹には包丁が刺さっている。
ああ、そうか。これでいいのかもしれない。これで、ようやくこの能力を使わなくて済む。
タイムリープ。時間を戻す能力。人間の能力を超越した能力。
でも、思ったほどすごい能力ではなかったのを、死ぬ間際で実感したのだった。
おわり
居酒屋タイムリーパー よっちゃん しょもぺ @yamadagairu
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