空の便箋

梨菜の家に行った日から

また1週間くらいが経ていた。

気がついたら、と思うほど

あっという間でもなかったが、

特別長く感じることは

少なかったように思う。


梨菜と話した後、長居するのも

あまりよくないかと思い、

予定よりも早くに彼女の家を出た。

上手くいかなくてよかったねと

口にした梨菜の冷酷さを纏う表情が

頭から離れなくて、

去り際目を伏せることしかできなかった。

家に帰ると、謎の安堵が身を襲い、

そのまま布団に駆け込んだのを覚えている。


あれ以降もまだ兄は家に居続けた。

ずっと家の中にいるわけでもなく、

1週間のうち半分くらいは

半日ほど家を空けていた。

その間、チビたちは学校があったり

遊びに行っていたり、

はたまた受験しに行っていたりと

彼らも家に居ないことが多く、

その時はうちだけの時間だった。

今もそう。

1人で窓辺に座り、

洗濯物をゆっくりと畳みながら

時折外を眺める。

その繰り返しだった。


愛咲「あー…バイトいつ戻ろっかなー。」


ファミレスのバイトは、

受験が終わって以降

少しだけ顔を出したものの、

それ以降お母さんの体調が

悪くなってしまったので行けていない。

今や亡くなってしまったし、尚更。

部活だってそう。

陸上は続けたいと思いながら

趣味で走ることもなくなり、

こうして外を眺める日々が続いている。


ある意味、1人になれなかったけれど

1人にならなくてよかったのかもしれない。


愛咲「あーあ…。」


洗濯物を畳むのを途中で辞め、

大の字で寝転がる。

しばらく洗濯していないカーペットは

大層汚いだろうけど、

そんなことを気にすることができるほど

心に余裕を持っていなかった。

余裕なんていつからか

持ち合わせていなかった。


いつからだろう。

…。

気にすることでもないか。

気にしたってどうしようもないし、

答えがわかったってどうしようもない。


愛咲「こんなに何もない日が続くって中々だな。」


そうだな。

誰かが返事してくれれば、

また違った感情が湧いたのかもしれない。


昨日は、久しく騒がしい環境に身を置いた。

というのも、学校の登校日だったから。

高校3年生になると極端に登校日が減る。

2月は確か2、3日ほどしか登校しない。

皆、受験があるから。

うちは早めに終わったもんで

特に気負うことはないのだが、

周りを見ていると明らかに大変そうだった。

頭のいい高校だということもあるのか、

国公立大に行く人も何人かいて

休み時間も友達と一緒に勉強する人や

先生に質問したり相談したりする人がいた。

同じクラスの三門はそんなタイプではなく

1人で黙々と問題と睨めっこしていた。

その様子を見守っては途中で飽きて、

適当に校舎を歩いていた気がする。


前田も陸上部の同級生も

受験をするらしい。

うちみたく推薦等々で早めに決まった人も

いるにいるのだが、

仲良くやってる周りの人らの多くは

一般受験のようだった。

だから誰かがうちのいる教室まで

遊びに来るということもなくて。


廊下をふらふらと歩いていると、

たまたま羽澄と出会ったっけ。

何を話したかはあまり覚えていないけど、

羽澄も大学に合格していたらしく

おめでとうと言い合ったのは覚えてる。

今後は寮に住むんだとか、

そのための準備をしてるだとか

そんな話をしていたっけ。


麗香や花奏とは会えなかったし

三門とは話すこともしなかったけど、

何もないよりはましだったと思う。

少しだけ気晴らしはできた。

でも、家に帰ると憂鬱が

ささやかに襲ってきていた。


愛咲「…本を読む気にもなんねーしなぁ。」


こういう時は走るのが1番。

今までだってそうしてきた。

もやもやすることがあると、

一旦外に出て、走ってすっきりしてくる。

悩みは悩みじゃなくなって、

解決法や答えがふっと浮かんでくる。

いつもなら、そうだった。


長いこと忘れていたルーティン。

今こそそれをする時なんじゃないんだろうか。

いつからあまり自分で

走らなくなったんだっけ。


お母さんが亡くなってから?

お母さんが倒れてから?

受験があったから?

それとも、行方不明のきっかけが

夜間のランニングだったから?


愛咲「よし、行こう。」


多分、全部。

全部だろうな。


憂いを抱えたまま

玄関口にそっと立つ。

兄も帰ってこない。

チビたちも学校や塾でしばらく帰ってこない。


愛咲「…ま、これも家でかもな。」


そして背を向けて準備をする。

終えると、貴重品をいくらか持って

再度玄関に立った。

今日はタイマーも何もいらない。

道順だって自由にしよう。

決まったコースもいいけれど、

今日だけはとんでもなく自由に。


愛咲「いってきます。」


1人、寂しいかな。

小さく声に出してから

玄関を出て寒空の中足を踏み出した。


履いたランニングシューズ、

それから昼間の風を切って

びゅうんと走る感覚。

その全てが久しくて懐かしく、

泣きそうになるくらい嬉しかった。

自分は人ではなくて、

今だけは鳥か、星のようだった。

そう、本気で思っていた。

重量は普段通りかかっているはずなのに、

地面を蹴るとすとんすとん跳ねて

月にいるウサギのよう。

このままスキップもしたくなるほど

足も体も、全てが軽い。


うち、そうだ。

走るのが好きだった。

鳥になれたみたいで。

流れ星みたいで。

風になれたみたいで。

うちがいい意味で

うちじゃなくなっていくような感じがして。

この感覚が大好きで。

うちじゃ行けないような場所にも

行けるような、届くような気がして。


最近よく躓いて転びかけるという

ことがあるのだけど、

今日に限ってはそんな様子もなく

するりと流れる星のように

街中を駆けていった。


そうだ。

この感覚。


愛咲「ふ、は……ふっ…。」


この感覚はずっと前は

ただの苦しいものだった気もする。

何で楽しくなったんだっけ。

どうして好きになれたんだっけ。


目の前の信号は黄色を指し、

やがて赤へと移り変わった。

その場で軽く足踏みをして止まる。

近くには大きな公園があり、

赤ちゃんと散歩するお母さんや

ベンチに座り休憩をしている

おじいちゃんなどがいた。

大きな公園だからか

ランニングのコースも中にあり、

走っている人の姿や

ウォーキングしている人の姿も目に入る。

皆、昼の平日を謳歌している。


やっぱり外の景色っていいな。

耳は冷えてきいんとするけれど、

それでもこの景色を

目に焼き付けておきたかった。

明日にはない景色だから。


ふと車の音が聞こえてきたと思うと

信号は青に変わっていたらしく、

ゆっくりと出発進行した。

時間に縛られないで生きるって

暇で仕方がないけれど、

何だか翼が生えたみたいに不安で、

それから楽しかった。


それから普段は走らないところを

ぐるりと回った。

知らない飲食店、大型のショッピングモールに

小さな小さなヘアサロン。

見たことのないものをたんと見て、

たくさん刺激を受けた。

何キロか遠くに行って、戻ってくる時には

行きの時に前を通った

公園に入って最後に1周した。


木々がそよそよと風に吹かれて

歌っているのがわかる。

たん、たん、たん。

靴裏も踊っているように音が鳴る。

ああ、これも好き。


しばらく公園の中を

堪能しながら走っていると、

前には何人もの子供たち。

近くに幼稚園があるのか、

外を散歩しているみたいだった。

すると突然、幼稚園生くらいの

小さな女の子が転んでしまい、

周りの子たちがわらわらと

近寄っては大丈夫かと

問う声が聞こえ始めた。


愛咲「あ…。」


うちはその子を見捨てるように

走って通り過ぎてしまった。

その場で大丈夫ですかと

いつもなら声くらいかけるのに。


その時、なぜ今なのか

びゅう、と風が吹いた。

結んでいた髪は強く靡き、

まるで引き戻そうとしているみたいに。


恐る恐る足を止めて、

振り返るだけしてみた。

子供たちも先生もうちのことなんて

一切見ることもなく、

転んだ子のことを見ている。

当たり前だ。

そりゃあ、うちは部外者だから。

それでも。

それでも、何だか少し寂しかった。


今うちが転んだって

誰も助けてくれないことは

目に見えているからかな。

あの時は。

…。





°°°°°





愛咲「ママぁー…うわぁあぁん…。」


お母さん「どうしたの、転んじゃったの?」


愛咲「えぇぇん…いだぁい…うええぇぇ…っ。」


お母さん「大丈夫だよ、愛咲は強い子、えらいえらい。…あ、ズボンが少しほつれちゃったのね。」


愛咲「ごべんなさぁぁい…。」


お母さん「問題ないよこれくらい。あ、そうだ。ちょうどいいものがあるから、ズボンはすぐ元気になるからね。」





°°°°°





お母さん「はい、どうぞ。」


愛咲「わあ!お星様だ!」


お母さん「可愛いでしょう?」


愛咲「可愛い!愛咲の足にお星様がいる!」


お母さん「愛咲はきらきらしてて、お星様みたいだもんね。」


愛咲「そうなの?」


お母さん「そうだよ。走るのも早いし、流れ星みたい。」


愛咲「でも愛咲、走るの好きじゃないよ…。」


お母さん「そうなの?」


愛咲「だってきついもん!転んだら痛いし!」


お母さん「じゃあ今度、夜に一緒に走ってみよっか。」


愛咲「えー、幼稚園でたくさん走ってるからやだー!」


お母さん「じゃあ散歩でもいいから。」


愛咲「やだやだー!」


お母さん「お星様のズボン履いていったら、流れ星が見えるかもしれないよ?」


愛咲「流れ星なんてどうでもいいもん!」





°°°°°





確か幼稚園のマラソン大会が近くて

ずっと走ってたから嫌々言ってたんだっけ。

結局1回寝たら機嫌を持ち直して

一緒に走りにいったんだと思う。

まだお母さんが離婚していなくて、

チビたちから目を離していても

少しくらいなら大丈夫だった頃。

流れ星は見えなくて

うちは少し機嫌を損ねて帰った。

でも、それ以来お星様が好きになって、

勝手に親近感を持っていたっけ。


あの時は、お母さんってば

いつも助けてくれてたな。


それは、亡くなる時までそうだったな。

いや、違うか。

今でもそうだな。


愛咲「あはは…。」


ゆっくりと、ゆっくりと走り出す。

ランニングシューズには

星のモチーフが刻まれていた。





***





愛咲「ただいまー。」


家に帰っても、まだ誰もいないようだった。

2時間くらいはとうにすぎている。

今日は、ちゃんとお母さんにも

挨拶をしようかな。

そう思ってお仏壇の前に座る。


じっと顔を見つめて、

何だか少し笑っちゃって。

それから、はっと思い出したように

手を洗いにいった。


そして、またお母さんの前に

心を落ち着かせて座る。

髪はぼさぼさ、相変わらずの癖っ毛で

風で揺れるとさらに絡まる。

中学まではほんと、嫌で仕方なかったけど

今思えばお母さん譲りだったなって。

形見のような気がして、

ばっさり切るのも勿体無いような気がした。

ぎゅっと髪を握ってみる。


愛咲「…ただいま。」


帰ってきたよ。

ここに。

おうちに。


お母さんは表情を変えることはない。

それでも今日は、とびっきりの笑顔を

向けてくれているような気がした。


愛咲「…?」


ふと目を背けた時のこと。

視界の隅に何かをとらえた。

それは、お仏壇の近くにあった棚だった。

棚の引き出しから何か、

紙らしいものが飛び出ている。

お母さんの私物が多く残る中、

誰かが漁ったのかもしれない。

お母さんがいなくなった時の

書類関連はあんなところに

保管していないし、

一体何が入っているのだろう。


愛咲「…っ!」


それこそ、兄が保険金目当てで

探っていたとしたら。

ああ、どうしよう。

そんな不安が押し寄せてきて、

慌てて引き出しを引き、中身を確認する。

あんな奇行をする兄が、

まともに生きているなんて思えない。


そうだ。

この家に来ているのだって、

お金が目当てなんじゃ。

不安は積もりに積もった。

けれど、そこにあるのは通帳でも

書類でも何でもなく、

1通の便箋というが赤いタグに白い十字とハート

描かれたものが仕舞われていた。


愛咲「…何だっけ、これ。」


赤いタグに白い十字とハート。

どこかで見たことがあるような気がする。

というのも、知り合いや身近な人ではなく、

全く知らない人が持っていたような。

学校だっけ、塾だっけ。

それよりもっと違う、街中?


ぐるりぐるりと思い出せないでいる中、

そっと手に取った便箋には

翔へ、と手書きで記されていた。


兄への手紙だった。

誰からの手紙なのかわからないままに、

好奇心から手紙を開く。

裏に、お母さんよりと書かれていた。


愛咲「…。」


ひとつ、不思議なことに息を呑んだのが

自分でもわかった。


『翔へ

そっちでの生活はどう?

ちゃんとご飯食べてる?

簡単に食べれるようにと思って

レトルトやレンジで温めて

すぐに食べられるお米を詰めました。

少ないけれどー』


下には、また別の便箋が入っている。

あれ。

1通どころじゃないな。

何通も入っていた。


『翔へ

この前はお返事ありがとう。

就職が決まったと聞いて

お母さんとても嬉しいよ。

今度、そっちに遊びに行こうかな。

翔也や颯翔にも会ってあげてー』


また別の便箋が入っている。

全部、1度開封された跡があった。


『翔へ

元気にしてる?

まず、謝らせてください。ごめんなさい。

あなたのことを思っているけれど、

もしかしたら翔のことを

家から追い出したように見えるかもしれない。

でもねー』


『翔へ

元気にしてる?

最近寒くなってきたし、

少しだけみかんを送りました。

よかったら食べてね。

そちらの皆様はいい方だって言ってたね。

お母さん、安心してー』


『翔へ

熱くなってきたけど、体調は変わりない?

この前、そちらの職員の方から

連絡があったの。

翔が最近頑張ってるって話だった。

お母さんも頑張ろうって思えた。

そちらの環境だと、こっちの暮らしよりも

過ごしやすいといいなと思います。

こっちでは辛い思いを

させてしまってごめんね。

最近はー』


『翔へ

お元気ですか?

秋は紅葉が綺麗だから、

時間があれば見てみてね。

そちらは山の方だから

尚更綺麗かもしれないね。

お友達もできたと聞きました。

翔が自由に過ごせていますように。

お母さんのことは気にしなくていいからね。

翔は翔の好きなように生きてー』


『翔へ

元気ですか?

寒い日が続くから

あったかいお風呂に入ってね。

シャワーで済ませるのもいいけど、

時々湯船に浸かるのも気持ちがいいから。

最近、翔に謝りたくなる時があります。

手紙ではいつも謝る必要はないと

言ってくれるけれど、

どうしてもそう思ってしまう時があるの。

本人に相談することではないよね。

ごめんね。


でも、翔をそういうふうに産んだのは

お母さんだったから。

個性だね、で済ますことが

できない時があります。

あなたに障害を持たせてしまって、

産んでしまってごめんなさい。

障害を持っているとわかっていたのに、

普通の子と同じことを無理に

させようとしていてごめんなさい。

翔が頑張っているのを知っていて、

それをへし折るように

就職も鉄だってくれる寮の入学を

推し進めてしまってごめんなさい。


翔。

人よりも沢山のの苦を経験して

誰よりも心苦しいはずなのに、

いつも笑ってくれてありがとう。

お母さんの元に来てくれてありがとう。


今度、また会いに行くね。


お母さんより』


数多の手紙は全て、お母さんの字。

そこには常に兄を気遣う言葉と、

自分のしたことに対しての懺悔、

それから、いつだって兄のことを

愛していると伝える言葉があった。

月に1度か2度ほどの頻度で

送っていたのだろうか。


下の方にはまだ便箋が入っており、

それはこれまでのものとは違った

単調な便箋だった。

中には、メモ用紙のようなものが

折りたたんで入っている。

開くと、黒鉛の古臭い匂いがする。


あぁ。

がたがたの字で読みづらい。


『お母さんへ

仕送りありがとう

翔』


それから、うんと短い。

次のもそう。

その次だって。


『お母さんへ

雪が降りました

山が真っ白です

翔』


『お母さんへ

就職先が決まりました

お金を稼いでお母さんに返せるよう

頑張ります

翔』


『お母さんへ

みかんありがとう

みんなで食べることにしました

お返しに、最近訓練を頑張った時の

写真を沢山入れておきます

翔』


『お母さんへ

僕は障害を持ってるって知った時や

お母さんがこの場所を勧めてくれた時、

安心しました

いつも考えてくれてありがとう』


陽はどんどんと傾いていた。

それでもまだ誰も帰ってこなかった。


手紙を読むうちに、

兄はアスペルガー症候群という

障害を持っていたらしいことを知った。

途中調べると、

アスペルガー症候群とは

知能や言語能力の遅れはないものの、

社会性やコミュニケーション能力に

障害を抱えるものらしい。

共感性が乏しかったり、

こだわりが強かったりするのだとか。

思えばそのようなシーンが多かった。

掃除を始めたかと思えば

1時間は同じ場所を

掃除しているだとか。

話の途中で別の話を持ってきて、

こらちが話しているのに

もう聞いていなかったり。

うちが小さい頃転んで泣いていたら、

何で泣いてるのと言われたり。


赤いタグはヘルプマークだったようで、

兄はここに来る間予備として

持ってきたのだろう。

思えば彼のいつも持っている鞄には

同じタグがついていたような気がする。


兄は中学から特別学級を

時々使うようになったという。

一部の授業はみんなと受け、

一部は特別学級で。

けれど、みんなで授業を受ける時

いじられることもやはりあったそう。

そのことをお母さんは悔いていたらしい。

でも、兄の手紙ではなくてはならない

経験だったとも語られていた。

高校まで頑張り、

卒業後は障害を持つ方々の

職業訓練校のような場所へと

移り住んだらしい。

山の方で落ち着いているから

暮らしらすいのだとか。

今ではお給料もあり

頑張って生活しているのだとか。


知らないことばかり、

ここには眠っていたみたい。


お母さんからの手紙は、

こっちに来る際に全部まとめて

持ってきていたのだろう。

ここにはこだわりがなかったのか

雑に仕舞われていて、

ますます兄のことがわからなくなった。


いつの間にか、残るは1通となった。

最後の1通も同じように

質素な便箋に1枚のメモを折っただけ。

これが、いつ書かれたものなのか

わからなかった。


愛咲「…ふふ。」


何でだろう。

どうしようもなくて

からからの笑いが溢れた。

それからくしゃりとメモを

握りしめてるうちがいた。


何にも知らなかったな、兄のこと。

邪険にして、無視して。

よっぽど子供なのはうちの方だな。


そして、そっとその便箋を1番下に戻し、

手紙を全て元のように戻しておいた。

今日は星が綺麗に輝くといいなと思いながら、

にんじんをハートの形に

くり抜くことにしよう。


まだ兄に対してもやもやは残るけれど、

前ほどではないと思う。

されたことや言われたこと、

過去は全て消えるわけじゃない。

恨みだって、憎しみだって

完全には消えないと思う。

でも、楽しかった思い出だって

消えないと思う。

全てが苦しく、嫌いで忘れたい

思い出ばかりじゃないから。

いい思い出だって、あったから。


愛咲「あーあ…。」


全部を恨むことができたら、

きっと楽だっただろうな。












『お母さんへ

産んでくれてありがとう

翔』

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