第85話 ミカエルとの意外な決着
立っていられないくらいボロボロになった美男子の天使が倒れ込む。
すぐに苦痛で悲鳴を上げて、呪いの言葉を放つが、黒い天使の羽根を展開した凪は、今までみたこともない冷たい目で見下ろしていた。
凪ってああいう目をするんだな…………。
と思った時、僕は思わず叫んでしまった。
「凪いいいいいい!」
「っ!?」
「ダメだ。殺してはいけない」
首を斬りそうになった凪を急いで止める。
「ケントくん……」
「いいんだ。君とこいつの過去に何があるかは知らない。でも、少なくともここでここまでしたんだ。もう戦える体でもないはずだ」
「…………」
僕達を悔しそうに見上げていたミカエルという天使が、目を真っ赤に染めて僕を睨んできた。
「人間風情が……天使を愚弄する気か!」
「愚弄も何も、貴方がやったことはクズ以下でしょう。このまま罰を受けてもらいます」
「…………我が生の中に、こうも屈辱なことはなかった。貴様ら人間にこうもされるなど……」
悔しげな表情を浮かべていたミカエル。
――――その時。
ミカエルの頭部に紫の槍が刺さる。
「ぐはっ!?」
「なっ!?」
全く反応できなかった。僕も凪も。
すぐに戦闘体勢となった凪が、暗闇の向こうを睨みつける。
そこから現れたのは、紫色の長い髪をなびかせた美女の天使が両手を上げて、こちらにやってきた。
「あらあら、わたくしに戦う気はありませんよ。貴方も知っているでしょう? 凪ちゃん」
「……久しぶりです。ガブリエル」
「ふふふっ。本当に戦うつもりはないので、剣を下ろして貰えませんか?」
彼女の言葉に素直に従う凪。
「わたくしはずっと信じてましたよ~貴方がミカエルに勝てる日がくると」
「あの時もそう言いましたね。ガブリエルはどうしてミカエルを裏切るのですか?」
「裏切る? ふふっ。ご冗談を。裏切るのではなく、わたくしは初めからミカエルの――――敵ですわ」
「…………」
「ひとまず、ここでの話もなんですし、一度貴方の屋敷に連れていってもらえませんか? そこの彼氏さんもいいでしょう?」
「か、彼氏!?」
思わぬ言葉に心臓が飛び跳ねる。
いやいやいやいや! 僕みたいなのが凪の彼氏なんて……!
ちらっと見た凪が顔を赤らめている気がする。夜だからよく見えないけど。
「わ、私みたいな醜い天使なんて……ケントくんには似合わないもの」
「!? そ、そんなことない! 凪は世界で一番可愛いよ!」
「っ!? け、ケントくん?」
「ぼ、僕なんかどうでもいいけど、凪は醜くなんてない! だから、そんな顔はしないでくれ」
「ふふっ。これは妬みますね~さてさて、イチャイチャは後にして、そろそろ行きましょう? 妹君が怒ってますよ?」
ガブリエルと言われた天使の言葉で我に返って後ろを見たら、六花が凄まじい形相で僕を睨んでいた。
◆
現場は全てアルカディアに預けることにして、僕達は一足先に屋敷に戻って来た。
恵奈さんには申し訳ないが、パーティーメンバーだけ話したいと伝えて、車の中に残ってもらった。
ガブリエルさんは、凪同様人間姿になってもらっている。
リビングに、僕、凪、六花、花音、絵里さん、由衣、そして、ガブリエルさんが集まった。
「まず、自己紹介からしましょう。わたくしはガブリエル。天使族の一人です。こちらの凪ちゃんとは昔からの知り合い……というか、天使族は数が少ないので全員が知り合いというか家族というか、そんな存在です」
家族という言葉に重みを感じる。
「さて、凪ちゃんの事をわたくしの口で説明するのは違うと思うのだけれど、凪ちゃんはどうしますか?」
みんなが凪に注目する。
彼女は小さく溜息を吐いた。
「凪。もしよければ、凪の事を教えては貰えないか? 僕なんかが力になるかは分からないけど、ここにいるみんなメンバーとして凪を支えていきたいと思う。今日の屋上に一人で向かったことも、実は全員怒っているくらいなんだ」
「!? ご、ごめんなさい…………」
「それ以上に、凪が僕達にちゃんと言えなくしてしまって、こちらこそごめん……」
「それは違う! みんないつも親切にしてくれるし……私の家の事情にみんなを巻き込みたくなかっただけなんだ……」
隣でじっと聞いていた六花の鋭い言葉が凪に付き刺す。
「でもにぃを選んでダンジョンに入った時点で巻き込んでるよね?」
「六花!」
「にぃは黙って!」
「は、はぃ…………」
じ、自分が情けない……。
「それは…………うん……ケントくんには得体の知れない力があって…………それを利用したら…………クラウンダンジョンの最上層に着けるかなと…………ごめんなさい……」
「もし凪が僕を利用しようとしたとして……、でも僕は凪のおかげで助かった。六花を悲しませてばかりだった僕を救ってくれたんだ。凪がいなかったら今の僕達はいなかったから。だから僕に力を貸してくれてありがとう」
「……凪姉。私も同じ」
六花の言葉に驚いて六花を見つめる。
「私一人では何もできなかった。にぃが毎日くたくたになって来ても力を隠してばかりで……でもそんなにぃを救ってくれたのは凪姉だから。それに花音姉も絵里姉も由衣ちゃんもみんなみんな凪姉がいなかったらここにいなかったから。私達はこれからも凪姉の味方だからね?」
六花の言葉に、凪の大きな目に涙が浮かびあがった。
悲しみの涙ではなく――――嬉し涙だ。
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