第84話 僕達と黒い天使の絆
「ご、ゴミどもがっ!」
羽根がボロボロに燃えた天使が怒りに染まった。
「へへっ……栞人くん。後は任せたよ……」
「ありがとうございます! 絵里さん!」
絵里さん程の魔法使いでなければ、あの羽根を貫くことはできなかったと思う。威力も精度も全てがハイレベルな絵里さんだからこそ出来たことだ。
もう飛べなくなった天使を仲間が囲む。
凪が戦っていた時に、あの天使が超高速で移動していたのはあの羽根のおかげだと直感で分かった。
だから羽根を優先的に燃やせば、飛ぶことも防げて素早さも下げることができると思った。
「ケントさん! 動きが鈍っています!」
やはり、地上に立っていた時も、立っていたのではなく羽根で飛んでいたんだ。
「速度が落ちただけで強さが下がった訳じゃない! 全員油断しないように!」
「ムシケラどもが小賢しい!」
天使が槍に光を収束させ始めた。
「にぃ! 私が防ぐ!」
「任せた!」
確証があるからこそ名乗り出るはずだ。ここは妹に全てを
「――――聖域結界!」
天使の周りに透き通った白い箱が現れる。
「
集めた光を放つと、六花が作った結界内が眩い光で充満する。
結界に激突したエネルギーは轟音を響かせながら、壁を出ることなく消えていった。
「由衣ちゃん!」
「お供しますわ!」
いつの間にか六花の隣に来た由衣。
お互いに両手を組み祈りを捧げ始める。
二人の体が光で繋がる。
「「――――物質反転、カウンターセイクリッド!」」
六花が作った結果全体に広がった光が一か所に集まり出した。
あの結界はただ防ぐのではなく、相手の力を吸収しているらしい。
集まった大きな光が天使に向かって飛んでいく。
天使もまけじと光の槍で強烈な攻撃を放った。
光と光がぶつかり結界の中で大爆発を起こした。
「にぃ!」
「分かった!」
大爆発が終わり、結界が限界のようで硝子のように砕け散った。
光の
その中には、全身がボロボロになった天使が光の槍を杖代わりにしてやっと立っていた。
「ぼ、僕が人間ごときに……!」
「凪とお前の関係性は知らない。凪が元々天使族だったのかも知れない。だが、お前と違って凪は毎日ダンジョンで頑張っていたんだ。お前みたいに人間ごときなんて言いながらふんぞり返ってなかった! だからお前がここで負ける理由はそれだ。お前は――――凪に負けたんだ!」
「あんな……あんた墜ちこぼれ天使と僕を一緒にするな! 僕は天使の長ミカエルだぞ!」
「ふふっ。お前みたいなのが天使の長なら、天使族ってろくでもない無能ばかりだな」
「無能だと!」
「だって、僕達人間に勝てないから、あんなくだらない黒い斑点の病気なんて作ったりしたんだよな? 実際、こうして僕達にボロボロにされているし、凪の方が一千万倍凄いぞ!」
「どこまでも……!」
天使の頭の上に輪っかが現れる。その目も人間のものとは違って黒く染まっていく。
「へぇー
「黙れ!」
次の瞬間、羽根を失ったはずの天使が超高速で光の槍を突いてきた。
咄嗟に黒龍漆聖刀で軌道をずらして、天使の懐に潜る。
左腕の黒龍盾で思いっきり――――ぶっ殴った。
鈍い音とともに天使の体は大きく吹き飛ぶ。が、大きなダメージはなさそうだ。
あの輪っかが現れてから本気のようで、防御力も桁違いに上がっているようだ。
速度こそ羽根があった時よりはだいぶ下がったが、それでも強いことに変わりはなく、天使の凄まじい攻撃は勢いよく僕を襲う。
花音の的確なサポートと六花の魔法がなければ、とっくに光の槍で貫かれていた。
それでも僕達の連携力でギリギリ戦いに付いていける。
その時、天使の輪が不気味に光を発しながら回転し始めた。
「にぃ! 危ない!」
「っ! カードバースト!」
天使はずっとこの攻撃のために溜めていた。
カードバーストをギリギリ放って衝撃波を弱めたおかげで、体を半分にされずに済んだが、衝撃波の圧だけでも僕達には大きなダメージになった。
僕も六花も由衣も花音も大きく吹き飛ばされ、全身にしびれを感じる。
まだ死んでいないが絶体絶命のピンチだ。
「くっくっくっ。簡単に殺しやしない! 一人ずつなぶり許しを乞わせてやる! 楽に死ねると思うなよ!」
あと一歩だったのに、天使の方が一枚上手だった。
「やれるもんならやってみなよ。駄目天使長さん」
戦場に美しい声が響く。
両手に持つ双剣。その柄頭部分から長く伸びた白い布は天女の衣のように広がっている。美しい銀色の髪と対照的な黒い天使の羽が天女の衣と共に舞い踊る。
「ルシ……!」
「私の名はルシフェルではない。私は――――
「何をふざけた――――」
「
真っ白だった布が白く輝き始めた。
「母さんの仇。ここで討たせてもらうわ」
「くっ!」
次の瞬間、圧倒的な速度で迫る凪の双剣がミカエルを襲う。
一閃でミカエルの体に無数の傷が、もう一閃で光の槍が折れて、天使の輪が半分に切られる。もう一閃でその左手と右足が地面に落ちる。
たった一瞬でミカエルは力なくその場に崩れる。
――――その顔は絶望に染まっていた。
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