第83話 対天使
屋上から禍々しい気配が回りに放たれて、僕達は地上から見えない屋上をただ見上げることしかできなかった。
恐らく今回事件の犯人と、凪が一緒に戦っているんだと思う。
できれば僕も加戦したいけれど、凪がそれを求めていないならそっとしておいた方がいいのかも知れない。それくらいあの時の凪の声は悲しみに満ちた声だった。
その時、屋上から二つの光が上空に飛び上がる。
白い光と黒い光だ。
「にぃ!」
「ああ。凪だ」
片方が凪なのが伝わってくる。
それから二つの光がぶつかり合い始めた。
少し眺めていただけであのままではいけないと思った。
「六花。ヘイストを」
「!? うん!」
六花にもう一度ヘイストをかけてもらう。
ここからだと凪には届かない。凪にかかったヘイストはそろそろ時間切れになるかも知れない。
今でもあの状況なら…………。
案の定、数十秒後にヘイストの効果が切れて、上空で戦っていた二つの光のうち一つ――――黒い光が地面に落ちてきた。
「由衣は回復優先! 絵里は光の槍で敵を追い払ってくれ! 花音はその補助! 絵里さんは落ちてきた凪の介護しつつ、タイミングを見て全力魔法を!」
「「「「了解!」」」」
少し離れた場所に落ちてくる黒い光を追いかける。
六花のヘイストのおかげで早く走れるのは大助かりだ。
全力で走った先に、黒い光が凄まじい速度で落ちて来る。
「っ……! カードバースト!」
無我夢中でカードバーストを発動させると美しい虹色の波動が前方に放たれる。
上空から落ちてきた黒い光を抱き込むと、風圧により黒い光の落下速度が一気に緩和された。
そして――――僕の下に降りて来たのは、傷だらけの黒い天使の羽根を生やした銀の髪を持つ天使だった。
「凪」
「ケント……くん?」
「ああ。僕だよ。お疲れ様」
「わ、私…………」
「何も言わなくて大丈夫。僕達は仲間だ。君がどういう存在だったとしても、それは未来永劫変わらない事実だから」
凪は何も言わず、涙を流した。
少し離れた場所で六花が追いかけて来た白い光に向かって光の槍を放ち始める。
僕もすぐに腕の中の凪を絵里さんが敷いてくれた毛布の上にそっと置いた。
「回復に入ります!」
「由衣。頼む。絵里さんは少しタイミングを見計らってください。あの羽根が厄介です。何とかあれを燃やせれば、地上戦に持ち込めるかも」
「分かった! 任せておいて。特大の魔法をぶちかますよ!」
後は任せて、僕は六花のところにやってきた。
「六花。俺も手伝うぞ」
「分かった!」
六花の光の槍とともに、僕もカードバーストを放つ。
意外にもあの白い光は僕達の攻撃を避けている。相殺しているわけでもなく避けるってことは、それなりにこの力が脅威なのかも知れない。
「天使とやらは空を飛ぶしか能がないんだな!」
夜空に向かって大声で煽る。
六花が意外そうな表情で僕を見つめたので「煽った方が戦いやすいだろ?」と返しておいた。
意外にもその効果はてきめんで、滞空していた白い光が真っすぐ地上を目指して降りて来た。
「へえ~天使も怒るんだね?」
「人間風情が……僕を愚弄するか」
「愚弄も何も逃げ腰の天使に事実を言っただけだけどな~」
「…………」
金髪の美男子天使の手に六花とは違う、槍の形をした光が現れる。実物の光の槍という感じだ。
「六花! 気を付けて!」
「うん!」
凄まじい速度で飛んできた天使の槍が僕達を襲う。
僕も相棒の黒龍漆聖刀で受け止める。
「!? 人間にしては中々…………」
「ふん。人間を侮ったら、大怪我するぞ?」
僕もここまで毎日素振りをして剣術を磨いてきた。それも全て凪の教え。
武器だけ強くなっても実力が伴わないと、それを活かすことは出来ない。だからずっと練習を続けてきた。それが――――こんな日のためになるとは思いもしなかった。
槍の間合いを見ながら、刀を振り回す。
もし黒龍漆聖刀じゃなかったら一瞬で溶けたかも知れない。それ程にあの光り輝いている槍からはとんでもない力が伝わってくる。
一撃一撃も重くて速い。でも――――僕には仲間がいる。
僕の動きを熟知している妹だからこそ、彼女が放つ光の槍が死角すれすれで僕を越えて天使に向かう。
「ちいっ! 小賢しい!」
「連携力と言って欲しいね!」
後ろに大きく飛んだ天使が着地するギリギリの間際に後ろから無数の矢が飛んできた。
花音が放った矢はリフレクトによって無数の魔法矢と変わり、その間を黒い矢が突っ切ってくる。
タイミング抜群で天使が慌てて黒い矢を撃ち払うと同時に無数の矢が落ちて来る。
その矢を魔法で吹き飛ばしている天使の後方はがら空きだ。
今度は僕のカードバーストを放ち、天使を直接狙う。
天使が放った魔法に無数の矢が飲み込まれると同時に僕のカードバーストの衝撃波が天使の背中に直撃した。
「がはっ!」
背中に衝撃波を受けて大きく吹き飛ばされた天使が地面を転がりながら、槍を地面に刺して停止する。
その口からは一筋の黒い血を吐き出していた。
「き、貴様ら! 許さんぞ!」
しかし、その言葉を間髪入れずに飛んできた六花の光の槍のおかげで現実とはならなかった。
怒っている六花の光の槍の連射によって、次々全身に傷を負っていく。
それでもさすがの強さで戦いに慣れているのか、六花が放った光の槍をギリギリでかすり傷に留めて、大きな傷は追わずに済んでいた。
ただ、僕達の狙いはそこではない。
僕達の狙いはただ一つ。
彼を地上に釘付けにしておくこと。
僕達の後ろから燃え
「天使かなんか知らないけど、うちのメンバーを傷つけたことを後悔しなさい!」
絵里さんの言葉と共に、爆炎の弾丸のようなものが二つ超速度で放たれる。
そして――――天使の羽根二つを貫いた。
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