第80話 軍蔵の結末
「は?」
軍蔵から間抜けた声が響く。
剣を持っていた右腕が地面に落ちて、信じられないように自分の腕を見つめる。
「お、俺様の腕がああああ!」
そして、彼の視線が僕に向く。
「貴様ああああああ!」
「軍蔵。僕はお前を絶対に許さない」
「どうやって動いて…………斑点が!?」
「残念ながら僕に
黒い斑点は病気の一種だと思っていたけど、六花が治したのは状態異常回復魔法だ。
つまり、あの黒い斑点は病という状態異常だ。
それなら単純に状態異常を回復してしまえばいい。けれど、この結界の中だと常にあの状態異常が蔓延している。
ならばやることは一つ。常に状態異常を
「貴様なんかに――――」
今度は彼の足を斬って動けなくする。
「がああああああ」
「軍蔵。最近探索者失踪事件もお前のせいだな?」
「貴様! 貴様ああああああ!」
目が真っ赤に染まり、ただ叫び続ける軍蔵の周りに僕の仲間達が立つ。
「黒い斑点って人為的なものだったんだね。まさか状態異常だったとは……」
「状態異常回復魔法で治せたから、今思えば人為的なものだと考えるべきだったよ……」
「六花ちゃんに言われた時に私も気づくべきだったわ。それにしても失踪事件の犯人がこんなに早く見つかるとは思わなかったね」
「ひとまずこの人は警察に突き出そうか」
「そうね。ケントくんもそれでいいよね?」
「ああ。それでいいと思う」
花音が持っていたロープで軍蔵の全身を縛って拘束し終える。
周りの結界が消えると、周りから他の探索者が見え始めた。どうやら全体的ではなく部分的に空間を捻じ曲げた結界みたいだ。
結界内だと僕達しかいないのか。
軍蔵を連れて魔法陣を通って外に出ようとしたその時、軍蔵の体がビクッと大きく動いた。
「っ!? 待って!」
凪が集まった探索者のところに走って行く。
「六花! 由衣! 回復を!」
「!? わ、わかった!」
軍蔵の背中にいつの間にか刺さった短剣があり、恐らく誰かが投げつけたと思う。
犯人は凪を追いかけた。
「花音。すまない。凪のフォローをお願い」
「はい!」
「絵里さん周りの警戒を」
「わかった」
軍蔵の背中に刺さった短剣が溶け始める。
「っ……使い捨ての毒ナイフ……」
由衣が回復魔法を、六花が状態異常回復魔法を唱えるが残念ながら魔法が効くことなく、軍蔵は全身を震わせながらその場で命を落とした。
◆
軍蔵の亡骸を警察に引き渡し、僕達は事情聴取を受けた。
もちろん、そこにアルカディアが手を回してくれてすぐに終わった。
凪が追いかけた軍蔵を殺した犯人だが、凪の足の速度にしても追いつけなかったそうだ。今日はみんなクタクタになって屋敷に戻ってきた。
「ふう……今日はとんでもないことがあったね」
「そうね。それにしても状態異常だと気づかないと危なかったわね」
「そうだな。それもそうだけど――――絵里さんのおかげでもあるかな」
「私?」
「はい。絵里さんがどうしてもカードを受け取ってくれなかったから」
「あ…………さ、さすがにね? フロアボスのカードを渡されても困るのよ?」
実は今回の事件で状態異常を無効にしたのはフロアボスであるグランドリッチのアップグレードの効果だ。
元の性能からすると魔法使いのためのカードだけど、絵里さんは全力で拒否。結局はカードホルダーで僕のためになっていた。
アップグレードが状態異常無効だから、念のためと絵里さんに言い切られていたけど、普段から必要ないと思ってホルダーの中に入れておいたのだ。
これからは一枚目は必ずグランドリッチのカードにしておこうと決意した。
「でも次にグランドリッチカードを手に入れたら絵里さんに付けてもらいますよ?」
「い、いやよ! そんな高価なカードは付けたくないの!」
「でも凪は全員分ゴブリンジェネラルのカードを装着させるつもりですよ?」
「うっ……それはそうだけど…………」
このまま毎日六花と一緒にフロアボスを狙い続ければ、毎週フロアボスのカードを一枚は手に入れることができそうである。
凪としては上層を目指すよりみんなで一枚ずつ装着できる分は確保したいと頑張っているようだ。
その話し合いは今週末にすることにしていたりする。
ミナちゃん達が初日の狩りを終えて戻って来て、クラウンダンジョンであったことをお互いに報告し合う。
彼女達は滞りなく、二層へ進出したそうだ。
僕達のことも報告して、失踪事件の解決を伝えた。
しかし失踪事件の犯人が軍蔵だったとは思いもしなかった。
あんな風に決着が着いたけど、本当に良かったのだろうかと思いながら明日からの狩りのためにも早めに休むことにした。
布団に入ってどれくらい眠っていたのだろう。
急に屋敷の電話が鳴る。
屋敷の電話が繋がっているのは二か所だけだ。アルカディアと出雲。
さらにこの時間に電話が来るってことは、それなりに緊急であることを示す。
急いでリビングに向かうと、凪が電話を取っていた。
「ケントくん。みんな。大変なことになったよ!」
凪の緊迫した声がリビングに響き渡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます