第79話 再び訪れる絶望
週が明けて、また月曜日となる。
週末はみんなゆっくり休めたようで、表情も明るい。むしろやる気満々にダンジョンに向かう。
出発する前に臨時パーティーを組んでいて、今日から彼女たちは彼女たちだけで狩りをすることになる。
先週の一週間でだいぶ慣れたようで、慣れて来たら二層に行きたいとも言っていた。
そこは無理をせずにとは伝えているけど、彼女たちの装備も源氏さんが作ってくれた質の良いものでもあるので大きな心配はしていない。
「じゃあ、今日からしっかりね。ミナちゃんは特に無理はせず、命を大切に絶対に生きて帰ってくるようにしてね」
「はい! オーナー!」
あはは……オーナーという言葉は中々慣れないな。
ミナちゃんたちが先にダンジョンに入り、僕達はそれを見送る。
「さて、僕達も頑張りますか!」
「「「お~」」」
僕達は魔法陣を通って二十一層に向かった。
「何だか二十一層って久しぶりに感じるね」
「凪はずっとみんなに付いてくれてたもんな」
「ふふっ。私もケントくんの勇姿を見たかったな~」
「勇姿!? そ、そんな大したものじゃないよ」
「へえ~今じゃグランドリッチですら一撃で倒すのに大したものじゃないって言えるようになったんだね~」
「え~!?」
凪が僕をからかってみんなで笑い声をあげた。
今でも信じられない。まさか僕がグランドリッチですら一撃で倒せるようになるとは思いもしなかった。
ずっと魔石採取しかできなかった僕は、軍蔵パーティーに使われ続けていた。
それを変えてくれた凪には本当に感謝してもしきれない。
メンバーと共に二十一層を駆け出した。
その時――――
僕達の周囲に広範囲の四角いバリアが張られる。
「っ!? みんな気を付けて!」
僕達の体を不思議な気配が覆うと、体が一気に
「まさか……アンジュ!?」
凪が知っているように声をあげる。
次の瞬間、遠くからどす黒い気配と共に一人の男がゆっくりと歩いて来た。
一歩一歩、やがて彼が姿を見せる。
「っ!? あ、あんたは!?」
「よお。久しぶりだな――――雑魚栞人」
そこに現れたのは、ずっと僕を
「どうしてあんたが!?」
「くくくっ。ずっとこの時を待っていたぜ? 雑魚栞人。そして――――銀姫!」
「っ……」
「どうだ。この結界の中だと体が重いだろ?」
軍蔵が言葉を終えた瞬間、凪がその場から消える。
すぐに金属がぶつかる音が響く。凪が軍蔵に斬りかかったのだ。
「おいおい。久しぶりの再会なのに、そんな急がなくても――――たっぷりいたぶってやるよ!」
軍蔵の動きは決して速いものではなかった。
でも彼の蹴りに凪は動けず、そのまま腹部を強打されて大きく吹き飛んだ。
「凪いいいいい!」
「次はお前らの番だな。そうか。そのガキがお前の妹だな? くくくっ。特別に可愛がってやるぞ?」
「ふざけるな!」
黒龍漆聖刀を抜く。
けれど、自分の心のどこかにある彼という恐怖に足が
「きゃはははは! 怖くて足が震えてるじゃねぇか! おうおう?」
次の瞬間、またもや金属の音が響き渡る。
軍蔵が跳ねたのは一本の魔法の矢だった。
「栞人さん! 私達もいます!」
花音……。
それから光の槍と火魔法が放たれる。が、軍蔵には全く効かず、全てを弾き返した。
「きゃはははは! この中で俺様は無敵だ! 貴様らの攻撃なんて俺様に効くはずもねぇ!」
軍蔵がこちらに向かって走ってくる。
昔の軍蔵とは比べ物にならないくらい強くなってるのがわかる。
それに包丁の形をした大きな剣。禍々しいオーラを立ち上らせている。きっと軍蔵を強くしている要因の一つだろう。
彼の剣戟を止めようとしたその時、体が止まってしまう。
「にぃいいいい!」
怖いのもある。
でも今の僕なら恐怖に立ち向かえる仲間がいて、想いがある。
六花を、凪を、みんなを助けたい。
なのに体が動かなかった。
軍蔵が振り回した大きな剣が、黒龍漆聖刀を通り過ぎて僕の脇腹を斬りつけた。
久しぶりに感じる激痛と、動かない体にその場に倒れ込む。
視界も動かせないくらい何故か体が動かない。
僕の視界にニヤリと笑う軍蔵が見え、彼の視線が僕から――――六花に向いた。
「や、やめ……」
「きゃははは!」
どうしてか六花たちもその場に倒れ込み動けずにいた。
凪も六花も花音も絵里さんも由衣も僕も。ただ軍蔵だけが悠々とその場を歩く。
彼が六花の髪を鷲掴み上げる。
「くっくっくっ。兄の前で色んなことをして遊ぼうじゃねぇか」
僕はただただやめてくれと心の中で叫び続ける。
しかし、
六花が軍蔵の顔に向けて唾を吐く。
「…………」
「あんた……なんか……怖くない…………」
軍蔵の殺気めいた視線が六花に向く。
僕はいつだってそうだ。
ただ搾取されるのが当然だと思って、そこから抜け出す努力をしなかった。
――「本当に努力をしなかった?」
誰かが囁く声が聞こえる。
努力……六花に楽な生活をさせてあげたかった。なのに僕一人ではできなかった。
――「でも今はちゃんと出来ているでしょう?」
それは……僕一人じゃなくて、みんながいてくれたから。
――「そう。貴方の力はみんながいてくれる時に輝くのよ」
僕の……力?
――「さあ、立ち上がりなさい。仲間を、妹を――――そして私の娘を守って欲しい」
え? 娘ってどういう――――
次の瞬間、僕の前にステータス画面が開く。
ステータス画面!?
僕の視線の中心にあるのは――――装着カード一覧だ。
そうだ。
僕の力はモンスターカードを活かしたもの。
ここに辿り着くまで多くの出来事があった。
その全てが仲間たちが僕を信じてくれたおかげだ。
モンスターカードの真価を引き出す僕の才能『カードコレクター』。
今の現状を冷静に分析してみると、全員の体に黒い斑点が無数に出ている。
この症状には見覚えがある。ミナちゃんたちが患っていた病気だ。その病気は六花の回復魔法で治していた。
六花曰く、状態異常回復魔法で治せたと言っていた。
僕は一枚のモンスターカードを
六花を、仲間を傷つけるやつは絶対に許さない。
凄まじい形相を浮かべた軍蔵が六花に向けて剣を振り下ろす。
だが、その剣が六花に向けられることはなく――――腕ごと地面に落ちた。
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