第78話 黒い噂

 今日から予定が変更になって、二十五層まで進めた攻略を一度止めて、メンバーを変更する。


 僕と六花が二人で一層から二十層に走り続けてフロアボスのモンスターカードを狙う。


 凪と花音、絵里さん、由衣は一層でミナちゃんたちの護衛を担当している。


 もう少し経験を積んだら、彼女達だけでここでゴブリンを狩り続けるようになる。


 今週はずっとそういう流れで進んだ。




 ◆




 平日が終わりを告げる。


 いつも通り、金曜日の夜は源氏さんのお店に行って集めた魔石を渡す。


「…………フロアボスの魔石を二十ずつ?」


「あはは……ちょっと色々事情がありまして……来週からはまた攻略に戻る予定なので、一つずつになると思います」


「そうか。まあ、それにしても魔石でそろそろ借金が終わりそうだな」


「そうなんですか?」


「フロアボスの魔石となると高額だからな」


「ミナちゃんたちの分もありますし、これからも色々武器とかよろしくお願いします!」


「がーはははっ! 小僧も言うようになったな。まあ持って来たフロアボスの魔石は買い取ってやるよ」


「じゃあ、貯金ということにして必要な時に装備を作る方向でお願いします」


 源氏さんとの交渉も上手くいって、今度はアルカディアに移動する。


 今回は僕というより、ミナちゃんたちが集めてくれた魔石を売り出した。


 久しぶりに喫茶店『黒猫』の料理を堪能する。ミナちゃんたちは本人たちで食事を済ませると言っていた。


 食べ物はたくさん買い込んでいるので、足りないってことはないだろうと思う。


「み~んなさん」


「梨乃さん。今日もどれも美味しいです」


「嬉しいです!」


 イタリアンならやっぱり黒猫が一番美味しい。


「今日はみなさんに耳寄り情報を一つ…………ちょっと良くない噂があります」


「良くない噂ですか?」


 表情が曇った梨乃さんが近づいてくる。


「実は探索者の行方不明者が現れています。まだそう多くない人数ですけど、行方不明になった理由がわからないんです」


「行方不明者……」


 ダンジョンで探索者が命を落とすことは多い。それを防ぐためにパーティーを組むけど、それでも突然現れたモンスターに対応できずに命を落とす探索者は後を絶たない。


 その中でも行方不明者は時々出るが、そう多くはでない。何故なら装備の破片など跡が残るからだ。


 だからこそ行方不明者が数人出ているというのは、ある意味異常事態だ。


「それが――――クラウンダンジョンで起きています」


「っ!? ここ一週間はずっと一層から二十層まで移動し続けましたけど、怪しいことはなにも……」


「いくら往復し続けていても次層への最短距離を走っているだけだと、遠くまではわかりません。逆にいえば――――怪しい者が栞人さんたちを避けている可能性があります」


 僕達を避ける……?


「怪しい人物を見かけなかったのが余計に怪しいです。ですからこれからクラウンダンジョンに向かう際には気を付けてくださいね」


「わかりました。気を付けます」


 今回の一件を心の深くに刻んでおくことにする。




 ◆クラウンダンジョン?層◆




「た、助けてくれ! お願いだ!」


「キシシシ」


 うつ伏せになって何とか頭を上げる探索者が命乞いをする。


「どうして俺達に…………」


「おいおい。この雑魚を受け入れたんだろ?」


 男は既にこと切れた男を踏みつけた他のメンバーを見つめる。


「た、頼む……そいつはもう死んでる……俺達は助けてくれよ!」


「くっくっくっ……かーははは! きゃははははは!」


 男は狂ったように笑い声をあげる。


 そして、目の前の男の指を踏みつける。


 痛みに声をあげる男を嬉しそうに見つめる男はずっと笑い声をあげ続ける。


 次第に時間が過ぎ、探索者たちの声が聞こえなくなる。


「お~テンションが上がってますね~」


「ん? 何しに来た」


「どんな感じなのかな~と」


「問題ない。きゃははは! お前がくれたこの力があれば、俺は無敵だ!」


「それは良かった! ぜひ復讐・・を遂げてくれよ~!」


「くっくっくっ……言われるまでもない! 待ってろよ――――――クソ雑魚栞人」


 探索者の全身に黒い斑点が急速に広がり、体が朽ち始めた。


 着衣していた服も装備も全て朽ちていき、跡形も残らなかった。

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