第77話 凪の狙い
次の日。
朝一でどこかに出かけてきた凪の両手には僕達が着ている服と似た服を持っていた。ただ、少しだけデザインと質が違う。
「さあ、これが今日からみんなの制服だよ」
「わあ~! こんな可愛い服を着ていいんですか!?」
「うん。明日と明後日にも貰って全部で三着ずつになるから、毎日洗濯しながら着れるわよ。オーナーは綺麗好きだから、ちゃんと毎日着替えるんだよ?」
「は~い!」
アキさんは余程嬉しいのか、顔が満面の笑顔で可愛らしく花を咲かせていた。もちろんアキちゃんだけでなく、みんなも同様に喜んでいた。
そして、みんなが僕に振り向くと――――
「「「「オーナー! ありがとうございます!」」」」
右を見る。左を見る。後ろを見る。誰もいない。
「えっ? 僕?」
みんなと凪が首を縦に振った。
「ええええ!?」
「これからオーナーのケントくんのためにみんなで頑張ろう~!」
「「「「お~!」」」」
ええええ!? ぼ、僕がオーナー!? 僕ってそんなたいそれた存在ではないから、そう呼ばれるとものすごくむずがゆい。
みんなの着替えが終わったので、僕達みんなでクラウンダンジョンにやってきた。
パーティーメンバーは今までと変わらないけど、一つだけ違う点は、ミナちゃんたちを全員臨時パーティーメンバーに登録していることだ。
臨時なのでメンバーの名前は映らないが、メンバー数が十人追加されている。
それからセナちゃんを覗いた九人が凪と花音によって前衛と後衛に別れて陣形を組み、セナちゃんがその中で守られる形を取る。
前衛には通常のロングソードよりは少し短いショートソードを持ち、後ろのメンバーのうち三人は弓を一人は魔法杖を持った。
すぐにゴブリン三体と対峙すると、凪の指示で戦いが始まる。
前衛の三人がそれぞれのゴブリンを誘導し、決して戦わずに三体のゴブリンを引き離す。
射線が通るとすぐに後衛の四人が遠距離攻撃を繰り出し、ゴブリンに矢が刺さったり魔法が当たり倒れた。
ゴブリンが倒れたのを確認すると、前衛の三人がゴブリンの亡骸を一か所に集める。
そこにセナちゃんが向かい、魔石採取を始めた。
久しぶりにゴブリンの血の匂いが嗅いだ六花たちは、顔を真っ青にして、花音と絵里さんも見て見ぬふりをする。
ただ、セナちゃんは顔色一つ変えずに器用に体を開いては魔石を取り出し始めた。
他のメンバーも誰一人顔を歪めることなく、魔石を採取しているセナちゃんを守るために円陣を組み、敵の襲来に備えていた。
彼女達はずっと何年も一緒に過ごしてきた家族の絆を感じる。
「セナちゃん、急がなくていいよ。失敗してもいい」
「うん! ありがとうミナ姉!」
セナちゃんの採取を眺めていると、とても丁寧な作業にどこか昔の自分を思い出すようで嬉しくなった。
僕が伝えられるアドバイスを彼女に送る。
「セナちゃん。そこは一度奥に刃を入れておいた方が作業がしやすいよ」
「こうですか?」
「そうそうそれとこっちとこっちにも肉を切っておいた方がね。後々やりやすいんだ」
「はいっ!」
素直に僕のアドバイス通りに進め、一つ目の魔石を取り出すと、すぐに二体目に移る。
まだ始まったばかりだけど、彼女は既に職人の顔そのものだ。
その日は一日中一層でゴブリンの戦いを続けた。
そして――――――
シェアハウスに帰って来て、僕の前に出されたのはゴブリンカードが二枚と、四十枚だ。なぜか四十枚と二枚に分かれて出される。
「凪の目的って……やっぱりこれだったんだ?」
ニコニコした凪が首を縦に振る。
二枚のゴブリンカードは、
「こちらの四十枚は?」
「先日試した時と、由衣ちゃんの練習で二層で繰り返した日だよ~」
「そ、そっか…………凪は
「ふふっ。これでケントくんの凄さはより凄いものとなったね~」
僕の凄さ……になるのかはわからないけど、一つわかったこと。パーティーメンバーだけでなく、臨時パーティーメンバーにも僕のカードドロップ率が影響されるのがわかった。
臨時パーティーメンバーはどこまでも増やせるらしいが、代わりに十二時間までしか継続しない。
だから毎日顔を合わせられるように彼女たちにもシェアハウスに住んでもらい、毎朝臨時パーティーを組むのが日課になりそうだ。
この一件が思わぬ良い方向に進むとは、その時の僕はまだ知る由もなかった。
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